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静岡リニア問題、深刻化する県政の「機能不全」

県専門部会議論や副知事発言を川勝知事が否定
小林 一哉 : 「静岡経済新聞」編集長
2022年12月27日


田代ダム取水抑制案は全量戻しにならないと強調する川勝知事


リニア問題に関して、静岡県庁組織の“機能不全”が深刻化している。
JR東海がトンネル湧水の県外流出対策として示した東京電力の田代ダム取水抑制案について、川勝平太知事は12月16日の会見で、「トンネル湧水の全量戻しにならない」などとあらためて否定した。
県専門部会の議論を台無しに
12月4日に開かれた県地質構造・水資源専門部会で、田代ダム取水抑制案の是非を議論した後、森貴志副知事が「田代ダム取水抑制案が全量戻しの方策の1つであることを知事は了解している」と発言したばかりだった。
川勝知事は県専門部会の議論を台無しにしたばかりか、難波喬司・前副知事に代わって、県のリニア問題責任者に就いた森副知事の立場を失わせてしまった。
「反リニア」に突っ走る“裸の王様”川勝知事を誰も止めることはできず、静岡県が行政としての体を成していないことが明らかである。
12月4日の県地質構造・水資源専門部会では、①「リニアトンネル工事による県外流出量を大井川に戻す方策」、②「山梨県内の工事で行われる高速長尺先進ボーリングの進め方」の2点について、JR東海が詳しく説明した後、各委員から意見が出された。
最初のテーマとなった①「リニアトンネル工事による県外流出量を大井川に戻す方策」とは、リニアトンネル工事のうち、最大の難工事となる南アルプス断層帯が続く山梨県境付近の工事で、作業員の安全確保を踏まえ、山梨県側から上り勾配で掘削するため、まったく対策を取らなければ、工事期間中(約10カ月間)最大約500万立方メートルの湧水が静岡県から山梨県へ流出するのに対して、静岡県がJR東海に対応策を求めていることだ。
国の有識者会議では、「静岡県外流出量が約500万立方メートルあったとしても微々たる値であり、大井川中下流域への影響はない」とする結論を出したが、川勝知事は「工事中であっても、トンネル湧水の全量戻しがJR東海との約束。静岡県の水は1滴も県外へ流出させない」、「湧水全量戻しができないならば、工事中止が約束だ」などとあくまでも工事中の全量戻しを求めてきた。
このため、JR東海は2022年4月の県専門部会で、工事後に山梨県内のトンネル湧水をポンプアップして静岡県に戻す方策を示すとともに、東京電力の田代ダムから山梨県へ流出している河川水をJR東海の工事期間中、東京電力が県外流出量と同じ量の取水抑制を行い、大井川に放流する2つの案を示した。
田代ダム取水抑制案は、島田市をはじめ流域の市町長から歓迎の声が聞かれ、山梨県知事だけでなく、田代川第一、第二発電所を有して、東京電力から電源立地交付金を受ける早川町長も有効な対策と高く評価した。
ところが、川勝知事は当初から「JR東海が関係のない水利権に首を突っ込んでいるのは、アホなこと、乱暴なこと」などと反発、8月に行われた田代ダムの視察後にも、「田代ダム取水抑制案はJR東海の地域貢献である」と述べて、県外流出の課題解決ではないことを強調した。
その後の会見でも、川勝知事は何度も田代ダム取水抑制案は全量戻し策ではないと否定した。
食い違う知事と副知事の発言
12月4日の県専門部会で、JR東海と国交省担当者が、田代ダム取水抑制案について、東京電力が自主的かつ一時的に取水を抑制するのであり、たとえ金銭の授受があったとしても水利権を規定する河川法上の問題はないとする政府見解を説明、さらに、東京電力の河川流量実測値から県外流出量と同量を大井川に放流できることまで明らかにした。
委員からは「渇水期に戻せるのか詳細な記録を示せ」などとする重箱の隅をつつくような意見が出された。
このため、会議終了後の囲み取材で、筆者は森副知事に対して、「今回の議論で、田代ダム取水抑制案が全量戻しに有効であることが確認された。ところが、知事は何度も田代ダム取水抑制案は全量戻し策にならないと発言している。それどころか、県外へ流出した水を同じ地点に戻せという実現不可能な主張を繰り返している。知事が田代ダム取水抑制案を認めないならば、県専門部会の議論そのものがムダになる。リニア問題を議論する県の責任者としての見解を示してほしい」と質問した。


川勝知事が田代ダム取水抑制案は有効だと了解している、と話す森副知事


森副知事は「田代ダム取水抑制案は県外流出湧水の全量戻し策として有効だと知事も了解している」などと述べた。
ところが、12月16日の定例会見で、川勝知事は「JR東海が、取水抑制する田代ダムの水利権を持っているわけではない。JR東海はまったくの部外者であり、了解すべき権利も立場もないにもかかわらず、あたかも連動しているかのごとく言っている。南アルプストンネル工事と田代ダム取水抑制案は別の事柄、南アルプス工事と結びつくものではない」などと従来通りの主張を繰り返し、田代ダム取水抑制案を真っ向から否定した。
読売新聞記者から「森副知事が誤解しているのか」と問われると、川勝知事は「(森副知事は)誤解していない。田代ダム取水抑制は別個の事柄であるが、南アルプス工事とは関係なしに議論できる。全量戻しとは、掘削中に出る水はすべて戻すということだ」などと頓珍漢な答えをした。
さらに、「JR東海は水利権を持っていない。ちゃんと水利権を持って、かつそれを調整してきた関係者(東京電力、静岡県、流域市町、利水者など)で議論しようということだ」などと田代ダム取水抑制案が水利権とは無関係とする政府見解をまったく承知していなかった。
読売記者が何度、疑問を唱えても、川勝知事は「田代ダム取水抑制案はまったく別の話だ」などと森副知事ら県当局の見解を“ちゃぶ台返し”してしまった。
これに対して、「森副知事は、全量戻しの1つとして有効だという発言を撤回すべきか」という質問に、川勝知事は「質問通りの言葉を彼(森副知事)が言っているのならば、私自身は、あなたから(初めて)聞いたわけですから」と驚くべき発言をして、県組織が“機能不全”に陥っていることまで明らかにした。
12月4日の県専門部会から約2週間もあり、森副知事から会議についての説明を受けていないとは誰も信じていない。川勝知事が“反リニア”に凝り固まって、周囲の説明が耳に入ってこないだけなのだろう。
共同通信記者が「田代ダム案が全量戻しの解決方法にならないならば、もう県専門部会で議論するのをやめたほうがいいのでは」と質問すると、川勝知事は「水資源にかかわる問題だから、水資源専門部会でやるべき問題。提案から8カ月もたっている、それにも関わらず(JR東海からちゃんとした説明が)出てこない。われわれはきちんとした説明をしてくださいと言っている」などと県専門部会での議論をまったく承知していないことを明らかにした。共同記者は「どう考えても周りには、この県の組織のあり方を疑わせるし、不誠実でずるいなと思わせる」と厳しい意見を川勝知事に投げ突けた。
このほか、テレビ静岡記者「リニア問題を流域の首長は川勝知事に一任していたが、現在では意見が異なり、流域の声を代弁していないのでは」、NHK記者「県専門部会で他県の用地取得率や課題を求めていくことがリニア静岡問題とどのようにつながるのか」などの厳しい質問が出た。これらの質問に対して、川勝知事は流域首長の意見や県専門部会の議論とはかけ離れた回答を繰り返して、ごまかした。
静岡県に山梨県内の工事を止める権利はない
現在、山梨県内の工事が行われているが、その工事によって静岡県内の水が山梨県側に引っ張られるから工事をストップして、静岡県内の水を1滴も流出させないようJR東海に求めるという非科学的な議論を県専門部会で行っている。


高速長尺先進ボーリングで静岡県内の水が失われるとして、山梨県内の工事ストップを議論する県地質構造・水資源専門部会


県専門部会の森下祐一部会長らは、川勝知事に沿った意見に終始している。いくら研究者の意見を参考にするとしても、静岡県が他県の工事を簡単に止める権限などない。
静岡県内の「水1滴」の値がいくらかは知らないが、JR東海に山梨県内の工事ストップを求めるならば、それに見合った十分な説明と補償をするのが行政の責任である。
このまま不毛な議論を続ければ、静岡県は行政としての責任と機能を完全に失ってしまうだろう。