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安倍総理の志は死なない!!

赤字ローカル線はなぜ簡単に廃止できないのか? その裏にある「国防」「有事」という非情な現実

JR貨物を支える北海道発着貨物
 北海道新幹線の札幌延伸にあたり、函館本線はJR北海道から経営分離される。並行在来線となる区間のうち、小樽~長万部間は廃止が決定した一方で、函館~長万部間の扱いについては、まだ議論が続いている。
 なぜ続いているのか。それは、旅客に期待できないものの、本州と北海道を結ぶ
「貨物列車が運行している」
ためだ。貨物列車による輸送は北海道から出荷される農産物の約3割を担っており、また、北海道へ運ばれる生活必需品も貨物列車に大きく頼っている。
 貨物列車を運行するJR貨物(東京都渋谷区)では、北海道発着貨物が全収入の
「約8分の1」
を占めている。JR貨物は自社で線路を所有せず、線路使用料を払って貨物列車を運行している。そのため、国は存続に向けて、国と自治体で線路を保有し、JR貨物に貸し付けることを検討し始めている。
 一大幹線の函館本線だけでなく、全国各地で赤字ローカル線の存廃が大きな問題となっている。ただ、赤字だからといって、廃止して貨物もトラック輸送に転換すればいいとは簡単にはいえない事情がある。なぜなら、鉄道が
「有事の際の重要なインフラ」
となっているためだ。
国交省資料に明記された「自衛隊」


「今後の鉄道物流のあり方検討会」関連資料(画像:日本貨物鉄道)© Merkmal 提供
 JR貨物が2022年10月に発表した「今後の鉄道物流のあり方検討会」に関する資料では、公共インフラとしての新たな社会的要請として
「自衛隊との定期的な意見交換の実施」
を挙げている。ウクライナ戦争でも、鉄道が軍事輸送に不可欠であることが再認識されている。大規模な人員や物資を定時に運搬する手段として、鉄道の価値は高いのだ。
 これは大陸国家のみならず、島国である日本でも同様だ。しかし、日本では赤字ローカル線の大規模な廃止が行われた国鉄末期から一貫して、軍事輸送の問題がおざなりにされてきた。
 北海道東部の標茶(しべちゃ)駅・厚床(あっとこ)駅と根室標津駅を結んでいた標津線(1989年廃止)では、廃止問題の議論過程において、沿線自治体から
「国防上の観点から存続すべきだ」
との声が上がっていた。ソビエト連邦(1991年崩壊)は当時「仮想敵国」であり、北海道への軍事侵攻が懸念されていたためだった。
瀬戸大橋の設計も軍事念頭

瀬戸大橋(画像:写真AC)© Merkmal 提供
 軍事利用への期待から、急ピッチで建設が進んだ路線もある。戦時下に開通した、山陽本線の関門鉄道トンネルだ(下り線が1942年、上り線が1944年)。1936(昭和11)年の起工式から、工事は当時最新鋭のシールド工法を使って急ピッチで進んだ。その背景には、安定した輸送を求めた軍の後押しがあった。
 もともと、計画は陸軍内で練られていた、弾丸列車で東京~ベルリン間を結ぶ大陸横断鉄道構想を反映していた。構想では青函トンネルも計画され、地質調査も検討されていたのだった。
 戦後の交通インフラでも、軍事を念頭に置いて設計されたものがある。
 例えば、岡山県倉敷市と香川県坂出市を結ぶ瀬戸大橋(1988年全線開通)は、橋桁の高さが65mに設定されている。これは橋梁を検討した中央港湾審議会が海上自衛隊の意見を参考にして、報告書に盛り込んだことに由来している。
 また、自衛隊の第14旅団の戦車中隊は岡山県の日本原駐屯地に置かれ、四国有事の際、瀬戸大橋を渡って移動することになっていた(現在は第15即応機動連隊機動戦闘車隊に増強改編され、善通寺駐屯地へ移駐)。
青函トンネルは軍事上の重要施設

青函トンネルの入り口(画像:写真AC)© Merkmal 提供
 このように、軍事と交通インフラは切り離せないが、中でも最も重要なのが青函トンネルだ。
 青函トンネルは開通時点から一貫して、軍事上の重要施設として認識されている。開業前の1988(昭和63)年2月に、外国報道機関に向けたトンネル公開が行われているが、この際、JRに対して
「共産圏、特にソ連には見せるな」
という要請があったため、海底駅には停車せず、通過するだけの公開となった。
 もともと、青函トンネル建設は採算面から疑問視する向きもあったが、それでも実施に至ったのは防衛上必要で、有事を念頭に置いて建設されたからだった。統合幕僚会議議長を務めた栗栖(くりす)弘臣は、当時のメディアの取材で
「終戦直前、米軍の攻撃を受けた青函連絡船12隻が、わずか2日間で全滅した記憶は生々しい。その点、トンネルは核爆発にも耐えられる」
と青函トンネルの丈夫さを語っている。なお、水中に設置された核機雷でも耐えられるかどうかがメディアで真面目に語られていた。
鉄道の存廃問題を支えるもの

自衛隊の演習イメージ(画像:写真AC)© Merkmal 提供
 その後、貨物の往来が始まると、青函トンネルは軍事輸送を安定させるパイプとして盛んに利用されるようになる。
 1988年8月に実施された陸上自衛隊の北方機動特別演習では、青函トンネルを使って戦車やりゅう弾砲の輸送が実施された。以降、調達される兵器は青函トンネルを念頭に置いた貨物輸送が可能かどうかを検討されている。そして現在に至るまで、青函トンネルを使った軍事輸送訓練は盛んに実施されている。北海道の部隊から車両などを九州まで輸送する協同転地演習などがそれだ。
 そんななか、2021年に実施された陸上自衛隊の大演習で、有事を想定した輸送訓練が全国で行われた。この訓練には陸上自衛隊の7割にあたる約10万人が参加し、九州へ部隊が集結する形となった。
 輸送は鉄道、交通、運送の約20社の協力で実施され、品川区のJR東京貨物ターミナル駅でも車両の積み替え訓練が行われた。これは、有事の輸送手段として鉄道が依然として重視されていることを伺わせた。
 繰り返すが、大量の物資や人員を輸送する手段として、鉄道の価値は大きい。いかに、赤字ローカル線が増えようとも、有事の際の動脈として鉄道は欠かせない。鉄道の存廃問題には単に
「利用者の多寡」
だけではない問題が横たわっているのだ。