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安倍総理の志は死なない!!

静岡リニア、知事「首相宛て意見書」訂正のお粗末

長期債務残高を理解せずJR東海の指導を要請
小林 一哉 : 「静岡経済新聞」編集長
2023年02月14日
静岡県の川勝平太知事は、岸田文雄首相宛「リニア意見書」でJR東海の長期債務残高について「風評被害」を引き起こしかねない重大な誤りを犯した。さらに、その誤りをつじつま合わせでごまかした訂正文を再び、岸田首相宛てに届けるお粗末な失態を演じた。
ところが、リニア意見書の中の川勝知事の“真っ赤な嘘(うそ)”はそのままである。その“真っ赤な嘘”を見逃してしまえば、いつまでたっても南アルプストンネル工事は着工できない。
姑息な「つじつま合わせ」
1つ目の嘘は川勝知事が2023年1月24日に送った岸田総理宛ての「リニア意見書」の中で、現在のJR東海の経営状況が危機的であると糾弾したことだ。
『JR東海の長期債務残高「6兆円」問題』というタイトルの1項目で、『現在のJR東海の長期債務残高は健全経営の限度「5兆円以内」を優に超えている』と事実誤認をして、政府による検証を岸田首相に要請したのだ。(現在のJR東海の長期債務残高は「4.95兆円」)
2010年5月の国交省交通政策審議会中央新幹線小委員会で、JR東海は『長期債務残高を「5兆円以内」とすることが適切かつ必要』と説明したのは事実だが、その後、2016、17年の2カ年で非常に有利な財政投融資「3兆円」の借り入れを行うなど、健全経営を保っていることを2023年2月1日記事(静岡リニア「財務諸表を読めない知事」JR東海を糾弾)で紹介した。
筆者の指摘で静岡県は誤りを認めたが、『現在のJR東海の長期債務残高』に「見通し」のひと言を加え、『現在のJR東海の長期債務残高見通し』と、姑息なつじつま合わせの訂正でごまかした。その訂正だけで済ませたため、『国に提出した事業計画と明らかに異なる事態です。政府による検証が必要である』などJR東海の経営に疑問を呈した文言はそのまま残ってしまった。
当時のJR東海の説明文書には、『長期債務残高を「5兆円以内」とすることが適切かつ必要』だけでなく、『地元負担による1県1駅を前提』として、『中間駅については、地域負担(5900億円、うち名古屋まで3300億円)で建設することを想定した』とも記されていた。
2010年の小委員会で、JR東海は東京、名古屋間の神奈川、山梨、長野、岐阜各県の自己負担による中間駅建設を想定すると説明した。ところが、それぞれの地元の強い要望にこたえ、翌年の2011年になって、中間駅の建設費用をすべて負担することを決めた。
中間駅建設費用は総額で約0.6兆円。JR東海が長期債務残高を「5兆円以内」が適切かつ必要としていた2010年の小委員会では、「0.6兆円」の追加負担は想定していなかった。
2021年4月になってJR東海は2028年の長期債務残高見通しを「6兆円」としているが、中間駅建設を含む工事費等の増加が理由となっている。
川勝知事は、約13年前のJR東海の説明文書を問題にするならば、「0.6兆円」の追加負担、すなわちJR東海の負担による中間駅設置も「国に提出した事業計画と明らかに異なる事態」であり、「政府による検証が必要である」と糾弾しなければならなくなる。もし、そんなことになれば、リニア沿線各県のひんしゅくを買うことは間違いない。
「JR東海に指導を」と言うが…
今回の岸田首相宛てのリニア意見書の2つ目にして最大の嘘は、川勝知事が以前から述べていることである。
川勝知事は「地域住民の了解を得られるまでは、水抜きを兼ねる高速長尺先進ボーリングを含む、南アルプストンネル工事をするべきではない」という“真っ赤な嘘”を前提に、「JR東海は、水資源・自然環境保全のメドが立っていないにもかかわらず、水資源・自然環境に影響する南アルプス工事を続けようとしています」とJR東海をさも悪者のように仕立てたうえで、「総理におかれましては、JR東海に対し、厳格なご指導をお願い申し上げます」と臆面もなく言いたてている。
静岡県のリニア議論など聞いたこともない岸田首相らは、川勝知事の“嘘”に慣れていないから、すっかりとだまされてしまってもおかしくない。
『水抜きを兼ねる高速長尺先進ボーリング』とは、山梨県内の調査ボーリングを指す。「高速長尺先進ボーリング」を川勝知事は「調査に名を借りた水抜き工事だ」と糾弾したうえで、もし、山梨県内でボーリング調査を行えば、「湧水全量戻しは実質破綻する」などとJR東海を脅している。
1月25日の県専門部会で、JR東海は2月上旬から高速長尺先進ボーリングを山梨県内で実施することを表明した。森貴志・副知事は1月31日、JR東海、国交省宛てに、川勝知事の主張通りに「2月からの山梨県内の調査ボーリングをやめろ」という意見書を送っている。
山梨県内の工事を止めろと主張
静岡県は2022年10月13日、山梨県内のトンネル掘削によって、距離的に離れていても、高圧の力が掛かり、静岡県内の地下水を引っ張るという、科学的根拠を説明できない“トンデモ理論”を唱えて、山梨県内のトンネル工事をどこで止めるのかを議論すべきだという意見書をJR東海に送った。
12月に入ると、静岡県の“トンデモ理論”はトンネル掘削だけでなく、調査ボーリングまで問題にして、「水抜きがあり得る高速長尺先進ボーリングが静岡県の地下水圏に近づくことは同意できない」という意見書をJR東海に送りつけた。
「山梨県内の調査ボーリングで湧水全量戻しは実質破綻する」と川勝知事は脅しているが、もともとの「湧水の全量戻し」とは「静岡県内のリニア工事で発生するトンネル湧水全量を恒久的に大井川水系に戻すこと」だった。県の資料にちゃんと記載されている。
山梨県内のボーリング調査やトンネル工事で水が抜けたとしても、大井川水系にはまったく関係ない。それどころか、「地下水とは動的な水であり、地下水脈がどのように流れているのかわからない」(日本地下水学会)から、静岡県の大井川水系とは違い、県境付近の地下水に静岡県も山梨県もないのだ。静岡県の所有権を主張する「地下水圏」など存在しない。ボーリング調査で水環境に影響があるというのは空想科学小説の世界でしかない。そもそも山梨県内の調査や工事を止める権限は静岡県にはない。
『地域住民の理解が得られるまでは』という記述が、川勝知事の“真っ赤な嘘”である。筆者は、森副知事に「山梨県の調査ボーリングで『地域住民』とは山梨県早川町の住民らを指す。彼らはすでに理解しているはずだ」と尋ねたが、森副知事は回答を避けた。
静岡県は県環境影響評価条例に基づいて県リニア環境保全連絡会議を設置している。同会議の『地域住民』とは、静岡市井川地区の住民であり、自治会、漁協などの代表が同会議に参加する。彼らは「工事を行いながら、問題を解決すべき」の立場を表明している。つまり、静岡県の『地域住民』も山梨県内の調査ボーリングなど最初から問題にしていない。
また大井川中下流域の首長と県地質構造・水資源専門部会委員の会合が昨年12月に開催された。そこで森下祐一・部会長は「山梨県の調査ボーリングによって静岡県の地下水がどんどん抜けてしまう」などの非科学的な理由を挙げて、「山梨県内の調査ボーリングをやめるべき」という川勝知事の主張を繰り返した。
流域市町の主張は「やる価値がある」
一方で、染谷絹代・島田市長は「高速長尺先進ボーリングはやる価値がある」と森下氏に真っ向から反論、柳澤重夫・御前崎市長も染谷市長の意見に賛同した。山梨県内の調査ボーリングに慎重な意見を述べた首長は誰ひとりいなかった。



つまり、『地域住民の理解が得られていない』という“真っ赤な嘘”に基づいて、川勝知事は「南アルプストンネル工事をするべきではない」とJR東海の厳格な指導を岸田首相に要請したのだ。
岸田首相による“厳格な指導”が必要なのは、JR東海ではなく、間違いなく静岡県である。