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安倍総理の志は死なない!!

世界最大の鉄道車両メーカー「中国CRRC」、欧州にいまだ本格参入できない残念事情

わずか数両の実績
 世界の鉄道車両メーカーで売上高世界シェア1位の企業は、言わずと知れた「中国中車」、いわゆる「CRRC」だ。中国の2つのメーカー、中国南車集団と中国北車集団が合併して2015年に設立。それまで鉄道メーカーの世界ビッグ3と呼ばれ、3社だけで世界シェアの過半数を占めていたシーメンス、旧ボンバルディア、アルストムを大きく上回り、一気に世界シェア1位となった。
 合併の理由は、業務効率化と国際競争力の強化であった。合併後、CRRCは米マサチューセッツ州に工場を建設。マサチューセッツ湾交通局から受注した地下鉄車両284両を製造するなど、アメリカ市場へ本格的に参入していった。その後もアジアや南米など、世界各国で徐々にその存在感を示していった。最近では、インドネシアの高速鉄道で試運転が始まったというニュースも流れてきた。
 しかし、それでもまだ売上高の8割以上は中国国内向けの受注によるもので、国際競争力が大きく高まったとは言い難かった。その理由のひとつに、CRRCはまだヨーロッパ市場で爪痕を残していないということがあった。
 ヨーロッパは日本と同様、世界で最も高度な鉄道網が構築されている地域で、鉄道発祥の地でもある。当然、そこで爪痕を残せば大きな実績となることは間違いないが、いわゆる西欧、中欧と呼ばれる地域で、CRRCの車両を本格的に導入しているところは皆無(2023年2月現在)。ドイツのハンブルク市が入れ替え用の機関車をわずか数両導入しただけという状況だ。世界シェア1位のメーカーとして、これは由々しき問題と言える。
チェコでは断念


イノトランスにおけるCRRCのブース。世界一のメーカーだけに一際目立つ大きさだったが来訪者はアジア系の人たちが目立った(画像:橋爪智之)© Merkmal 提供
 CRRCはこれまで、ヨーロッパの3つの鉄道会社と車両導入について契約を交わしている。そのうちのひとつはチェコの民間鉄道会社レオ・エクスプレスで、3編成プラスオプション30編成という契約だった。
 レオ・エクスプレスはチェコ国内を中心に列車を運行し、いずれは近隣諸国への乗り入れを検討していたが、現在保有するスイスのシュタドラー製車両は直流区間専用車だったため、周辺国への乗り入れができなかった。そこで複電圧の新型車の導入を検討していたところ、CRRCが話を持ち掛けた。CRRCは、交直両用の連接式電車「シリウス」3編成を納入する契約を交わし、これがヨーロッパにおける初めての本格的な車両受注案件となった。
 ところが、その後はうまく事が進まなかった。ヨーロッパで列車を運行するためには、非常に難解な認証試験をパスしなければならないのだが、これに苦戦してしまう。2019年にテストを開始してから、2年以上かかってもクリアできなかったため、2022年4月にレオ・エクスプレスはCRRCとの車両納入契約を破棄、オプションも含むすべての契約が白紙撤回となってしまった。皮肉なことに、その数カ月後に認証試験をパスし、ようやく本線上で試運転が可能となったが、それも後の祭りだった。
認証試験という難関


チェコのヴェリム試験センターでテスト走行が続けられるオーストリアの民間企業ウェストバーン向け2階建て電車(画像:橋爪智之)© Merkmal 提供
 他の2つの契約は、オーストリアの旅客会社ウェストバーンと、ハンガリーの貨物会社レイル・カーゴ・ハンガリアで、前者はオール2階建て特急用車両6両4編成、後者は貨物用の機関車4両で、いずれもメンテナンスを含むリース契約となっている。リースとはつまり、車両をCRRCが保有し、それを各鉄道会社が借りて運用するもので、契約期間満了後はそのまま契約延長もしくは車両買い取り、契約終了というオプションから選択できる。
 レオ・エクスプレスは購入契約だったため、納期の遅延およびその後の契約破棄によってCRRCの長期的プランの変更を余儀なくされたが、後にリース契約した2社は借り増しという形になっており、仮にテストが不調に終わったとしても会社のプランに大きな影響はない。
 CRRCがヨーロッパ市場で生き残るためには、認証試験をパスすることが絶対条件となるが、2023年2月現在、リース用の2車種についても、まだ認証試験をパスすることはできていない。認証試験は、地元メーカーでもパスするのに苦戦することが多く、納期の遅延がたびたび発生している。ノウハウがあってもそうした状況なのだから、ゼロからスタートのCRRCにとっては、非常に困難な高い壁だと言える。
 少しでもノウハウを手に入れるためには、地元メーカーを買収するというのが手っ取り早い方法で、これまでCRRCは地元メーカーの買収を画策したことが何度かあったが、いずれも失敗に終わっている。中にはイタリアの旧アンサルドブレダのように、数社で競り合って負けたケースもあり、旧アンサルドブレダは日立の手に渡った。実は買収の際の提示額は、日立を大きく上回っていたと言われているが、最終的に「別の何か」の理由によって日立が選ばれた。ヨーロッパにおける中国や中国企業への警戒感が、そうした判断へと至ったと考えられる。
 果たして、残り2つの契約は破棄されることなく、無事に納入することができるのか。そのための認証試験も無事にクリアできるのか。今、巨人CRRCの真価が問われる。