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安倍総理の志は死なない!!

日本の電気料金は今後も上がり続けるのか?

脱炭素社会へ官民150兆円投資、「GX」政策の全貌
秦 卓弥 : 東洋経済 記者
2023年02月15日
電気料金の上昇にあえぐ日本列島。エネルギー価格の高騰は、産業の衰退にも直結する大問題だ。エネルギー危機と脱炭素をともに解決する道はあるのか。
「2年前は1万6000円だった電気料金が、昨年12月は3万6000円に跳ね上がった」。不動産会社で働く神奈川県藤沢市在住の30代男性はそう嘆く。
家には3歳の子どもがいるため、冬場は平日の日中でも暖房が欠かせない。契約していた電力会社からは、2022年に入り2度、事実上の値上げとなる料金プラン変更の通知が届いた。慌てて別の電力会社へ乗り換えたが、料金は大きく変わらなかった。
「保険を安い契約に見直し、3人の子どもの教育資金にと積み立ててきた投資も減らしたが、それでも埋め合わせできない」(男性)。
6月以降は約3割の値上げ
今年2月からは政府による負担軽減策で一時的に電気料金は下がる。だが現在、大手電力各社は経済産業省に値上げ申請を行っており、この審査が通れば、東京電力エナジーパートナーの家庭向け平均モデル(規制料金)では、6月以降に約3割電気料金が上がり、補助金による補填分を上回る公算が大きい。
電気料金値上げの最大の要因はエネルギー価格の高騰にある。日本の電源構成は約7割を火力発電に依存している。燃料となる天然ガスや石炭、石油などの価格高騰により大手電力会社の大半が赤字に陥るなど、経営を大きく圧迫。東日本大震災以来となる値上げの申請を迫られている。
その引き金となったロシアによるウクライナ侵攻から間もなく1年。一時、歴史的高値まで急騰した原油やガスの価格は、中国のゼロコロナ政策や欧州の暖冬による需要減少で足元こそ侵攻前の水準に戻ったものの、なお高い水準にある。
春以降、欧米の戦車供与やロシアによる攻勢で戦争が激化する可能性もある。ロシア情勢に詳しいJOGMEC(エネルギー・金属鉱物資源機構)の原田大輔調査課長は、「巷間にはウクライナを緩衝地帯とする『朝鮮半島型』の分断シナリオもあるが、両国とも停戦に向けた交渉に応じる気配は現状ない」とみる。
本当の危機は、ロシア産ガスが当てにできない次の冬。とくに天然ガスやLNG(液化天然ガス)は、今後構造的に価格が高騰する可能性が高い。
ガス危機の長期化は避けられない
資源開発投資は先細りが続く。パリ協定が採択された2015年以降、世界では脱炭素の機運が高まり、化石燃料への投資は減少した。新規のLNGプロジェクトが立ち上げられるのは2026年以降だ。欧州や中国での需要はむしろ増える見通しで、ガス危機の長期化は避けられない。
2022年は再生可能エネルギーやEV(電気自動車)などへの投資額が15%増加する見込みと、世界の再エネシフトは加速している。ただウクライナ危機以降、金属資源価格なども高騰し、再エネへの投資コストは膨らんだ。IEA(国際エネルギー機関)によれば、「太陽光パネルと風力タービンのコストは2020年以降、10〜20%上昇した」。
エネルギー界の権威として知られる米S&Pグローバル副会長のダニエル・ヤーギン氏は、「再エネの拡大には、今後、金属資源のサプライチェーンの問題が立ちはだかる」と予測する。
日本は「2030年度に温室効果ガスの46%削減(2013年度比)を目指す」ことを2021年4月に公約した。だが、経済成長を維持しながらエネルギー安全保障の強化と脱炭素を進めていくのは容易ではない。
官民150兆円投資へ
「GX(グリーントランスフォーメーション)は経済社会全体の大変革」。昨年12月22日、岸田文雄首相は脱炭素社会への転換を検討する「GX実行会議」で、官民150兆円投資の方針を示した。今後10年間で20兆円規模の「GX経済移行債(仮称)」を発行。この政府支援を呼び水に、民間企業から130兆円の投資を引き出し、再エネの大量導入や製造業の脱炭素化につなげていく構えだ。
原子力については脱炭素のベースロード電源と位置づけて「最大限活用」する方針を示した。こうしたGX政策を事実上、主導してきたのは経団連と経済産業省、そして岸田政権のブレーンも担う嶋田隆・首相秘書官とみられる。
2022年5月に経団連が掲げた提言(年間2兆円規模の政府支援、既存原発の最大限活用、炭素税ではなく排出量取引制度の検討など)は「GX実現に向けた基本方針」でほぼ全面採用された。経団連の十倉雅和会長は、「産業が滅んでしまえば、日本企業はその技術で脱炭素に貢献することもできなくなる」と経済界の危機感を訴える。
主力電源化へ大量導入を進める再エネでも、足元では問題が山積している。再エネの切り札と目される洋上風力では、入札ルールの見直し議論を受けて公募がいったん中断するという異例の事態が起きた。青森県で進められる国内最大級の陸上風力では、環境破壊を理由に住民や自治体からの批判が強まる。
日本企業の間では、国際基準から離れたカーボンクレジットの活用や、認証偽装をした輸入バイオマス燃料の取引など「うわべだけの脱炭素」も広がっている。


具体的な投資先は実質ゼロベース
GX経済移行債の償還は、カーボンプライシングの本格導入を財源とする。将来的に大企業が負担することになるが、企業が負担分を転嫁すれば最終的には国民の電力料金などに跳ね返る。GX実行会議のある有識者メンバーは、「150兆円という金額は先に決まったものの、具体的な投資先は実質ゼロベースだ。ばらまきや利権化の防止への適切な制度設計も今後求められるだろう」と語る。
巨額のグリーンディール政策に踏み出した日本。それは経済と脱炭素の相克を乗り越え、エネルギーと気候変動の課題を真に解決するものでなくてはならない。