Shinzo-Returns

安倍総理の志は死なない!!

本来の規制行政を忘れ「ミニ経産省」化する環境省

脱炭素を名目に「なんちゃってファンド」を設立
杉本 裕明 : ジャーナリスト
2023年02月20日
脱炭素を錦の御旗に金集めに奔走。環境省の「ミニ経産省」化が止まらない。
日本政府が昨年末に示した「GX(グリーントランスフォーメーション)実現に向けた基本方針」が、2月10日閣議決定された。脱炭素、エネルギー安定供給、経済成長の3つの課題を同時に克服するため、再生可能エネルギーや原子力への電源転換を進め、今後10年間で150兆円の官民のGX投資を行うというものだ。
GXを主導するのは経済産業省だ。焦点の1つとなったカーボンプライシング(炭素への価格付け)では、環境省が主張してきた「炭素税(二酸化炭素の排出量に応じて企業などに負担を課す制度)」は導入されず、経産省が主導する「排出量取引(企業間で排出量を売買する制度)」に軍配が上がった。
当てが外れた環境省は、脱炭素を錦の御旗に投資ファンドを設立するなど金集めに奔走している。「霞が関の監視役」にいったい何が起きているのか。
将来的にカーボンプライシング制度導入で得られる財源を裏付けに、10年間で20兆円規模の「GX経済移行債」を発行する。その政府の方針に環境省は、表向き歓迎の意を表明している。だが、裏はまったく違う。まるでお通夜のようだ。
「GXは、経済産業省に完敗です。ずっと環境省主導で炭素税の実現を目指してきたのが、見事にひっくり返された」とある官僚は打ち明ける。GX政策で環境省の存在感はほとんどなくなっているのだ。
環境省が炭素税を唱えてから20年以上になるが、経団連と経産省の抵抗で実現しなかった。それでも2012年に石油石炭税の税率を上乗せした「地球温暖化対策税」が創設され、環境・経産両省が特別会計として温暖化対策に使えるようになった。
「ミニ経産省」化が始まった
だが、それは「パンドラの箱」だった。環境省がまだ環境庁だった時代、予算も職員の数も貧弱だったが、環境保全のための規制行政を担い、時には巨大事業官庁を相手に公共事業を止めるような「山椒は小粒でもぴりりと辛い」(同省OB)存在感があった。
しかし、巨額の予算が転がり込んできたことから、霞が関の「ウォッチドッグ」(監視役)からは牙が抜け、事業官庁、すなわち「ミニ経産省」化が始まった。一般会計予算を1.5倍も上回る「エネルギー対策特別会計」を手に入れ、1500億円の公金をおおよそ50人の職員で、事業者や自治体などにまいている。
これで地域が本当によくなればよいが、コストに見合うだけの効果があるのか、検証されていない。しかも年間1300億〜1600億円の予算の数割が毎年、未消化に終わっているのが実態だ。
環境省は、中井徳太郎氏が事務次官だった昨年までの2年間を、炭素税実現の好機としていた。財務省出身の中井氏は、財務省を巻き込んで官邸に官僚を送り込み、水面下で折衝した。だが、志半ばで菅義偉政権は崩壊。岸田文雄政権となって、官邸では元経産事務次官の嶋田隆氏(現首相秘書官)がこの分野を差配し、一気にひっくり返した。
環境省は、「地域循環共生圏」と、新たな「脱炭素先行地域づくり」を掲げ、地域の脱炭素化を今後進めるという。しかし、当てにしていた炭素税の財源は得られず、省内に地域の事情を知る人材も少ない。
おまけに、同省は近く水質・大気の規制部局の大リストラを行い、脱炭素事業の新たな部局を増設するという。規制部局をリストラしたら、都道府県と市町村がそれに倣いリストラをする。環境モニタリング体制と環境規制は崩壊の瀬戸際だ。
マネーゲームに走る
それなのに、環境省は「ファンドが欲しい」との幹部の意向で、昨年10月「脱炭素化支援機構」(JICN)という投資会社を設立した。財政投融資から102億円、民間82社から102億円を集めた。設立目的は、「脱炭素化に意欲のある民間事業者等の取組を後押しする」としている。
ある企業は、環境省から「奉加帳」よろしく「1社1億円でお願いします」と出資を頼まれたという。「『お付き合いで出します』と言ったが、そんな小さなお金でやれることは知れている。支援機構を当てにするような業者は、どの銀行からも相手にされない不良業者では」と企業は心配する。JICNでは、環境省から出向した素人の官僚がファンドを運営するという。
省内では「なんちゃってファンド」と揶揄する声が広がっている。「脱炭素」を錦の御旗にしているが、幹部の天下り先の確保が目的ではないかというのだ。本来の規制行政を忘れマネーゲームに走る、「ミニ経産省」の未来は暗い。