Shinzo-Returns

安倍総理の志は死なない!!

ロケットが飛ばない国・日本…技術力を支える町工場が「給料の低さ」で崩壊しかけている

世界から「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と称えられてから早40年。今の日本は、技術立国とも言えない状況に陥っている。その理由は何か。前編記事『日本のロケット開発は「アメリカに周回遅れ」の現実…日本のものづくりが存続の危機に瀕しているワケ』に引き続き、H3とMRJの失敗を探ると、我が国の「病巣」が見えてくる。
最先端の技術が職人頼み
なぜ、日本はロケットも飛行機も飛ばせなくなってしまったのか。
それにはいくつもの理由がある。まず、前編で紹介したような下請けや孫請けの企業が、人手不足や予算不足に喘いでいるという実情がある。
H3とMRJの部品を製作していた下請け会社の従業員はこう明かす。
「どちらの部品にも、相当な精密さが求められています。普段は手袋をはめて作業するのですが、機械を使っても検出できないようなチェックをするときは直に触らなければいけません」
最先端技術の結晶のように見えるロケットや飛行機も、根幹を支える超高精度の部品は町工場が作らなければいけない。それなのに、町工場の技術力はいまだに職人頼り。人材不足と高齢化のダブルパンチで立ち行かなくなりつつある。
優秀な技術者たちが海外流出しているという点も見逃せない。
「周辺の町工場には、定年を迎えた熟練のエンジニアを雇う体力が残っていません。彼らは働き口を求めて中国やアメリカに渡ってしまう。同時に、こうした中小企業で働こうとする若者が年々少なくなっているため、技術継承がまったく行われていないのです」(前出の下請け会社従業員)
技術の基礎を支える工学の世界でも、人材流出が著しい。'21年には、日本の研究者が中国に流出したことについて、井上信治科学技術担当相(当時)が「非常に大きな危機感を覚えている」と懸念を示した。
圧倒的に不足する資金力
加えて、この30年で貧しくなった日本には、ロケットのような先端技術にかけられるカネもない。OECD(経済協力開発機構)によると、'19年における日本の研究開発投資額は約1700億ドルで、米国や中国の3分の1以下の水準。しかも過去10年間ほぼ横ばいという状況が続いており、差は拡大する一方だ。
そして、H3開発を主導するJAXAに対して政府から割り当てられる予算は約1552億円(令和4年度)。約3兆4000億円の予算を誇るNASAと比べると20分の1にも満たないのだ。
三菱重工元取締役で、H2Aの開発をはじめ約40年にわたりロケット開発の現場に携わった山崎勲氏はこう指摘する。
「H2Aの開発時から政府は『純国産』のロケットを作ることにこだわっていました。しかし、年に3回程度しか打ち上げない日本では需要が少ないため、国産の部品はコストがかかる。それでも日本の町工場の技術力は優れているので、現場に無理をさせて、限られた予算と時間の中で何とか部品を作れたんです。
ただ、H3は世界の衛星打ち上げを受注するために、H2Aと比べて打ち上げ費用を半分にすることが求められています」
疲弊する現場の尻を叩いて辻褄を合わせようとするが、使えるカネは以前の半額。これで良いモノが作れるはずがないことは、誰にでもわかる。
内部で足の引っ張り合い
H3やMRJの失敗からは、こうした根源的な資金不足に起因するJAXAの焦りも透けて見える。今回JAXAは、2月に2度発射を延期したが、僅か1ヵ月後に打ち上げを敢行し、失敗した。
「当初は'20年度中の打ち上げを目指していたから、3年連続延期だと予算的なプレッシャーがますますかかる。本年度会計が終わる前の3月中に何としても実績を作りたかったのではないか」(全国紙経済部記者)
少ない予算で何とかしようと焦って失敗、それによりさらに資金面の圧力や時間的制約が強まる悪循環に陥っているのだ。
一方で、極度のタテ割り組織である三菱重工では、部署同士が足の引っ張り合いを繰り広げていたという。
「三菱重工には零戦などの戦闘機を手がけたことで知られる『名航(名古屋航空宇宙システム製作所)』と、ミサイルなどを手がける『名誘(名古屋誘導推進システム製作所)』という2つの大きな開発部門があります。双方が強いライバル意識を持っていて、常にトラブルの火種を抱えていた。
たとえば、名誘出身の川井昭陽氏が'13年に三菱航空機の社長になった際、名航の出身が多い開発チーム内では『ミサイル屋の言うことなんて聞けるか』という空気が蔓延していたそうです」(前出の全国紙経済部記者)
どの企業でも起きている
こうした現場の軋轢も相まって、MRJは何度も延期を重ねることになる。もともと開発は日本人の手で進めていたが、'17年頃から外国人技術者たちを雇い始めた。それどころか、最高開発責任者に英国の技術者が就任することとなった。
ところが、ここでも新たな軋轢が生まれてしまう。外国人技術者の性急なやり方や報酬の格差に日本人技術者は反発し、さらに現場は混乱した。
それでもズルズルと開発を続けていたのは、誰もが「開発中止となれば、自分が責任を取らされる」と恐れていたからだろう。H3が同じ道を辿ったとしても不思議ではない。
人手不足や資金不足、そして組織の硬直と内部対立―。ここまで失敗の原因として紹介してきた要素は、日本のどの企業でも今まさに噴出している。「現場の努力や創意工夫で乗り切る」という日本人が得意な戦法では、もはや世界と渡り合える時代ではないのだ。
ジャーナリストの大西康之氏はこう解説する。
「失敗を許容する余力がない今の日本では、『スペースX』のような新勢力は生まれません。優秀なエンジニアや技術力の蓄積はあるのに、この2つの武器を使いこなす仕組みが組織に備わっていないのが大きな問題だと思います」
現場の努力にすべてを任せて、上層部は決断を避けた上に責任すら取らない「昭和的思考」は、限界がきている。戦前から日本人に根づいているこの考え方こそが「失敗の本質」といえよう。
「週刊現代」2023年3月25日号より