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安倍総理の志は死なない!!

中国がロシア抱き込む「氷上シルクロード」の野望 「北極海航路」をめぐりアメリカと熾烈な争奪戦

3月20~22日、中国の習近平国家主席がモスクワを訪問し、ロシアのプーチン大統領と首脳会談を行いました。両首脳はウクライナ情勢について意見交換を行ったほか、軍事・経済両面での連携をさらに深めることで一致したようです。
両国にはアメリカへの対抗という共通課題がありますので連携強化は当然の戦略ですが、中国にはロシアに近づく隠れた狙いがあります。東アジアからカムチャッカ海峡を抜け、ロシア北岸に沿ってヨーロッパに続く「北極海航路」です。
「地理的な条件」は変わりうる
ウクライナ紛争以降、注目を集めている「地政学」とは、各国の「地理的な条件」に着目して、軍事や外交などの国家戦略や国際関係などを考察する学問です。この「地理的な条件」は、「変わらない」ことが前提ですが、過去にはその前提を大きく覆した事例があります。「スエズ運河」と「パナマ運河」です。
スエズ運河は、1869年に開通し、アフリカ大陸を迂回することなく、ヨーロッパとアジアの行き来が可能となりました。これにより、大英帝国をはじめとするヨーロッパ列強は、対アジア貿易や植民地化を加速させるなど、各国の対アジア戦略は大きな影響を受けました。
アメリカは、1914年に開通したパナマ運河により、艦隊の太平洋・大西洋一体運用が可能となり、海軍国としての地位を大いに高めました。
経済面でも、パナマ運河は、アメリカ東海岸とアジア諸国の距離を縮め、その後のアジア諸国の経済成長の取り込みにも貢献しています。もし「スエズ運河」や「パナマ運河」がなかったらと考えると、両運河のインパクトがよくわかります。
この両運河に勝るとも劣らない、今注目の「地理的条件の変化」が「北極海航路」です。これまでは、自然環境が非常に厳しく、氷の面積が縮小する夏期のかなり限定された期間しか通行できませんでしたが、近年は地球温暖化の影響から、年々通行可能期間が長くなっており、将来的には通年通行が可能になるとみられています。
ヨーロッパまでの距離が劇的に短縮
東アジアからヨーロッパまで、「北極海航路」を使えば、マラッカ海峡からスエズ運河を通る「南回り航路」に比べ、約4割もの距離短縮が可能になるため、通年通行が可能になれば、輸送量は飛躍的に伸びるといわれています。
現在、北極圏に関する議論を行う国際会議体としては、1996年に北極圏国8カ国(カナダ、デンマーク、フィンランド、アイスランド、ノルウェー、ロシア、スウェーデン、アメリカ)によって設立された「北極評議会」があります。
北極における持続可能な開発、環境保護といった共通の課題について協力等を促進することを目的としていますが、議論は緒についたばかりで、これらの課題に関する国際的なコンセンサスはまだ得られていません。
さらに2021年からロシアが輪番議長国でしたが、同国のウクライナ侵攻により、現在、同評議会の機能が完全に停止しており、関係国による「秩序なき主導権争い」の様相が強まりつつあります。
北極圏国8カ国の中で、最も影響力が強いのが、そのロシアです。ロシアは北極海に面する長大な海岸線を有しています。
国連の海洋法条約は、各国が海岸から200海里以内の水産資源と鉱物資源の権利を有していることを定めていますが、大陸棚が続いていれば、さらなる領有権の主張も認めており、ロシアは2001年、この規定に基づき北極海の「45%」の領有を主張しました。
この時は、データ不足などを理由に国連に却下されました。しかし、もしロシア沿岸から大陸棚が延々と続いていてロシアに広大な領有圏が認められるようなことになれば、北極圏航路の商業通行にも大きな影響力を及ぼす可能性があります。
現在、ロシアの北極海沿岸には、軍基地やLNG積み出し港などがあるだけですが、北極海航路の通年通行が可能となれば、資源開発をさらに進めるとともに、大規模港湾の整備などにも力を入れるものと思われます。こうなれば、ロシアの地政学上の位置づけも大きく変わります。
ロシアに対抗するのがアメリカです。アメリカはアラスカ州で北極海に面しており、北極評議会のメンバー国ですが、地理的条件に基づく影響力ではロシアにかないません。
少しでも北極海への関与を深めるべく、2019年にトランプ前大統領はデンマークに対してグリーンランド買収を持ちかけました。アメリカは1946年にもトルーマン大統領(当時)が同様の提案を行っています。こうした一連の動きからは、ロシアを念頭に、なんとか北極海の軍事的・経済的主導権を握りたいという思惑がみえます。
今後も、アメリカは、同盟国であり北極海に広大な領有圏を有するカナダとの連携を強め、ロシアの押さえ込みを図ろうとするでしょう。
「氷上のシルクロード」を国家戦略に
もう一カ国、「北極海」を虎視眈々と狙っている大国があります。中国です。地図を見ると一目瞭然ですが、中国は北極海に面していません。
しかし、中国は2021年に始まった第14次5カ年計画に「北極の実務協力に関与し、『氷上のシルクロード』を建設する」と明記しており、北極海に面するロシア・ヤマル地域でのLNGプロジェクトにも参画しています。
中国は、ヨーロッパまでのルートとして、南回り航路による「海のシルクロード」と、内陸の「陸のシルクロード」からなる「一帯一路」政策を進めていますが、ここに「氷上のシルクロード」を加えることを国家戦略に位置づけているわけです。
ルート上に位置する国が多い「海・陸」に比べ、ロシアとその他数カ国しか関与しない「氷上のシルクロード」は、中国にとって距離の短縮だけではない大きなメリットがあります。
とはいえ、北極海に面していない中国は、直接的な利害を持つ国々からすると「部外者」です。アメリカなどはかたくなに中国の関与を阻止するでしょう。そこで、中国が頼りにするのがロシアです。昨年のウクライナ侵攻以降、ロシアの経済的な中国依存は急速に高まっています。
この傾向が続けば、経済力が圧倒的に強い中国がロシアへの影響力をさらに高め、ロシアを通じて、「北極圏権益争奪戦」に参加するだけでなく、主導権すら握るかもしれません。中国とロシアの連携強化は、こうした視点からも見ていく必要があります。
実際に、「北極海航路」が通年通行でき、かつ、世界物流の大動脈となるまでには、相当の時間がかかると思いますが、すでに、沿岸国のみならず、中国までが参画した「主導権争い」が激しくなっています。
北極海をめぐる国際ニュースに耳を傾けるとともに、世界地図やGoogle Earthを眺めながら、各国の地理的条件やそれが変化すると何が起こるのか、を考えてみると、地政学に対する理解がより深まると思います。
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