Shinzo-Returns

安倍総理の志は死なない!!

「尖閣諸島は日本の主権下にある領土だ」…日本が世界から信頼される国になるまでに、安倍晋三が身を粉にして海外を飛び回った8年間

バブル崩壊以降、最高値をつけた株価、相次ぐ世界の半導体大手の国内進出。コロナ明けで戻ってきた外国人観光客。なんだか明るい兆しが見えている日本経済。
じつはその背景には、日本を過去30年間苦しめてきたポスト冷戦時代から米中新冷戦時代への大転換がある。いま日本を取り巻く状況は劇的に好転している。この千載一遇のチャンスを生かせるのか。
商社マン、内閣調査室などで経済分析の専門家として50年にわたり活躍、国内外にも知己が多い著者が、ポスト冷戦期から新冷戦時代の大変化と日本復活を示した話題書『新冷戦の勝者になるのは日本』を抜粋してお届けする。
今回は、新冷戦時代の日本の復活を用意した一因としての安倍政権戦略を検証する
前編記事「安倍晋三と黒田元日銀総裁の「意外な違い」が明らかに…いまになってわかったまさかの「新事実」」に引き続き、安倍政権の成長戦略について解説していく。
「地球儀を俯瞰する外交」
安倍外交のキャッチフレーズである「地球儀を俯瞰する外交」とは「単に周辺諸国との2国間関係だけを見つめるのではなく、地球儀を眺めるように世界全体を俯瞰して、自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった基本的価値に立脚し、戦略的な外交を展開していく」ことだ。
安倍総理は2019年1月の198回通常国会での施政方針演説で「我が国の平和と繁栄を確固たるものとしていく。そのためには、安全保障の基盤を強化すると同時に、平和外交を一層力強く展開することが必要です。この6年間、積極的平和主義の旗の下、国際社会と手を携えて、世界の平和と繁栄にこれまで以上の貢献を行ってきた」と述べている。
平和はただ叫んでいれば自然と手に入るものではない、その前提として防衛力の強化が不可欠である、という安倍イズムが詰まっている演説と言える。
安倍総理8年の在任中の外国訪問回数は81回、訪問国(地域を含む)は80ヵ国、のべ訪問国(地域を含む)は176ヵ国に及ぶ。飛行距離は158万キロ、地球約40周というスケールだ。
2013年の13回に始まって、ほぼ月1回のペースで外国訪問が行われた。文字通り、有言実行の「地球儀を俯瞰する外交」だった。特に就任当初の東南アジア訪問と米国訪問時のスピーチに安倍外交の目的と決意が示されている。
インド太平洋地域を重視
総理就任直後の2013年1月の東南アジア訪問の際、ジャカルタで予定していたスピーチ(アルジェリアで邦人が拘束され直接指揮を執るため、安倍総理が急遽帰国したので文面のみ)では、その後の安倍外交の基本である「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」と「日米同盟」の2点が強調されている。
アジアの海をオープンで自由で平和なものとし、法の支配が貫徹する公共財として保ち続けるためには日米同盟の役割が大きいと述べて、さらに海洋アジアとのつながりの強化を提唱、そして、未来をつくる5原則の中で「思想、表現、言論の自由」や「公共財である海は、力によってでなく、法とルールの支配するところ」と述べている。
翌2月にはワシントンを訪問、オバマ大統領との日米首脳会談に臨み、その後、戦略国際問題研究所(CSIS)でスピーチを行ったが、タイトルは「Japan is back(日本は戻ってきました)」、安倍総理自身の総理復帰を意味する「I am back」にかけて、日本を2級国家にするようなことはしない、と決意表明を行った。
内容はジャカルタ・スピーチと重なるが、第1にインド太平洋地域の重要性を指摘し、日本が貿易、投資、知的財産権、労働や環境を律するルールの推進者として主導的な地位を保つこと、第2は開かれた海洋公共財などのグローバルコモンズ(国際公共財)の守護者であり続けることを約束し、第3は米国、韓国、豪州など、志を同じくする民主主義各国といままで以上に力を合わせなくてはならない、と訴えている。
信頼される日本
その目標実現のために日本は国防においても、経済においても強くあらねばならないとして、「財政が苦しい中でも防衛予算を増やし、アベノミクスで日本にはびこるデフレを取り除き、株価を上昇させ、GDPを2%押し上げ、60万人の雇用を生み出す。第3の矢の成長戦略による民間投資への効果は予想より早く現れる」と自信を示していた。
さらに尖閣問題に言及して、「尖閣諸島が日本の主権下にある領土だということは、歴史的にも法的にも明らかであり、それに対するいかなる挑戦も容認しない」と強い意志を披露し、最後に「日米協力によって法の支配、民主主義、安全な世界を築くためにも、日本は強くあり続ける」と締め括っている。
また、2015年4月のワシントン訪問時には上下両院合同会議で日米同盟を「希望の同盟」と呼び、日米で力を合わせて世界をもっとはるかに良い場所にしていこうと呼びかけた。
安倍外交は世界に日本が自由主義、民主主義の守護者として信頼できるパートナーであることを認知させた8年間だったと言えよう。日米同盟を基軸として、「自由で開かれたインド太平洋」を推進、その目標実現のために自らの防衛力を強化し、アベノミクスで経済再生を推し進め、地球を40周して多くの国との信頼関係構築に努めたのである。
新冷戦時代の国際緊張の高まり、経済安全保障の重要性という見地から自由、民主主義の同盟国・友好国は互いにフレンド・ショアリングというグローバル・サプライチェーンの再構築に動き始めている。
そして、安倍外交は日本がフレンド・ショアリングの拠点として海外から選択されるための基礎を築いたという点で高く評価されるべきだろうし、その実例が台湾TSMCの熊本工場進出である。TSMCは日本に投資する海外企業の先駆けとして重要な役割を果たすことになるだろう。
気が付くと投資国としての魅力
TSMC以外にも米マイクロンは広島工場に半導体メモリーの最先端部品製造用の設備を導入、韓国サムスンは横浜に半導体拠点を建設、ベルギーの半導体研究開発機関アイメックは日本の半導体メーカー・ラピダス支援のため北海道に研究拠点を設置、米インテルはイスラエル半導体受託生産会社タワーセミコンダクタの富山工場を買収、など案件は目白押しである。
広島サミット直前の2023年5月18日には岸田首相が海外半導体メーカー7社のトップと会って政府は対日投資への支援に取り組む方針を強調している。これらは日本が新しい半導体サプライチェーンの核になる可能性を示唆している。
台湾TSMCの進出が起爆剤となって国内関連企業の設備投資が拡大しているのを見ると、じつは安倍総理の「地球儀を俯瞰する外交」が最大の成長戦略ではなかったのかと思わせる。新冷戦と安倍外交のコラボが海外企業の日本進出を通じて、日本経済の再生に大きく貢献する、そういう未来を強く予感させるのである。
訪日外国人旅行者数は安倍政権下で4倍に急増して2019年には3188万人を記録した。訪問客の多くは日本製品、日本文化に触れることで、ジャパンブランド、メイドインジャパンの素晴らしさを実感したことだろう。
TSMCはフレンド・ショアリングの一例だが、それ以外の海外企業の誘致要因としてジャパンブランドは魅力的だ。日本に進出して作られた製品はメイドインジャパンとして世界に販売できることになる。雇用される日本人労働者の質は極めて高く、現場主義のボトムアップによる製品の品質向上も期待できる。
しかも、この25年間賃金水準は横ばいで、これだけ安価で質の良い労働力はいまの世界を見渡しても日本でしか手に入らないだろう。