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リニアより北陸新幹線「全線開通」が優先か? 南海トラフに備えた大動脈“二重系化”を再考する

リニア開業目標断念
 建設中のリニア中央新幹線を巡り、JR東海は目標にしてきた2027年開業の断念を3月29日に表明した。


 川の水量減少などを懸念し、静岡県が着工を認めなかった静岡工区の遅れが響いた形だが、静岡以外でも、山梨、長野県内の工事が当初目標に間に合わない可能性が4月になって初めて示された。


 リニア中央新幹線の重要な使命のひとつは


「大動脈の二重系化により災害リスクに備える」(交通政策審議会)


ことにある。災害時にも、東京圏と西日本の交通を断絶させない、という意味だ。


 ならば、優先すべきは南海トラフ地震のリスクも大きいリニア中央新幹線よりも、日本海側を迂回して東西を結ぶことのできる北陸新幹線の全線開通ではないか。
大雨で発揮された代替機能


 2023年6月2日から3日にかけて、台風接近にともない発生した線状降水帯の影響で、東海道新幹線は長時間にわたる運転見合わせを余儀なくされた。東西の大動脈がストップしたことで各駅に立ち往生する旅客の姿がメディアで報じられたが、この時に注目されたのが、北陸新幹線を介した迂回乗車だった。


 当時の北陸新幹線の終点は金沢。東京から関西方面へ行く場合、東京~金沢間を北陸新幹線、金沢~大阪間は在来線の特急を利用するルートだった。トータルの所要時間は5時間余りで、東京~新大阪間を2時間半足らずで結ぶ東海道新幹線に比べれば倍以上となったが、利用者にとっては迂回路の存在が心強かった。2024年3月に敦賀まで延伸開業したことで、同ルートの所要時間は現在、4時間45分程度に短縮されている。


 実際、北陸経済連合会は北陸新幹線開業前の2011(平成23)年の時点で、東海道新幹線を代替する機能に着目し、国家プロジェクトとしての早期全線開通を訴えた。


 想定では、東海地震が発生し、東海道新幹線の東京~名古屋間が不通になった場合の影響を試算。影響人数は1日約20万人、出張や旅行の取りやめにともなう経済損失は


「50億円」


に上るとした。一方で、北陸新幹線が新大阪まで全通し、補完機能が最大限に発揮されれば、1日に約10万人の輸送が確保でき、経済損失は26億円に抑えられるという。その機能回復を47%と評価した(現在の終点である敦賀まででも33%まで回復できると試算された)。


 北陸新幹線回りの東京~新大阪間の所要時間は、3時間半程度と想定されている。東海道新幹線よりも1時間ほど余計にかかるが、非常の迂回ルートとしては十分だろう。東日本大震災で東北新幹線が不通になった際は、在来線の臨時列車が代替輸送を担ったが、北陸新幹線が全通すれば、在来線を使わず、


「速度も輸送力も格段に優れた新幹線」


で補完できるようになるわけである。


東海道新幹線の不通は「国家的懸念」


 東海道新幹線にとって、最も懸念される災害のひとつが、南海トラフ巨大地震だ。


 国の国土強靱(きょうじん)化基本計画(2023年7月改定)は、南海トラフなどの大規模災害が発生した際の「起きてはならない最悪の事態」を、35項目にわたって例示している。


 そのなかで


「太平洋ベルト地帯の幹線道路や新幹線が分断するなど、基幹的陸上、海上、航空交通ネットワークの機能停止による物流・人流への甚大な影響」


と具体的に新幹線を挙げ、「情報通信サービス、電力等ライフライン、燃料供給関連施設、交通ネットワーク等の被害を最小限にとどめるとともに、早期に復旧させる」と掲げた。新幹線の不通にともなう東西交流の断絶は、国家的な懸念とされているわけである。


 内閣府がまとめた南海トラフの被害想定によると、新幹線は210~290か所が被災。震度分布を見ると、東海道新幹線の沿線では震度7~6強という強い揺れが想定されている。新潟県中越地震(2004年10月)や東日本大震災(2011年3月)など、これまでの大規模地震の被害を踏まえれば、復旧までの時間は1か月単位となることも覚悟しなければならないだろう。


 これに対し、北陸新幹線が通る日本海側の各県は、南海トラフの震度分布では


「震度5弱~4程度」


で、被害は東海道新幹線よりも小さいことが想定される。


リニア、南海トラフ「二重系」への可能性


 では、東海道新幹線の災害に備えた「二重系」と位置付けられ、建設が進められているリニア中央新幹線はどうだろうか。


 JR東海は、自社のウェブサイトで、2011年の交通政策審議会陸上交通分科会鉄道部会中央新幹線小委員会の答申を次のように引用し、災害対策としての存在意義を強調する。


「中央新幹線の整備は、速達性向上などその大動脈の機能を強化する意義が期待されるのみならず、中央新幹線および東海道新幹線による大動脈の二重系化をもたらし、東海地震など東海道新幹線の走行地域に存在する災害リスクへの備えとなる。今般の東日本大震災の経験を踏まえても、大動脈の二重系化により災害リスクに備える重要性がさらに高まった」


建設を推進する沿線自治体も、同様の立場だ。例えば、山梨県は災害時の輸送路としてリニアを活用することを想定し、次のようにアピールする。


「リニアは速達性と地震時の安全性に優れており、山梨県に大規模な地震などが発生した場合は、リニアによって県外から速やかに救援部隊や薬品などの支援物資が到達することが可能になります。また県外で災害が発生した場合は、山梨県に人員や物資を集積し、リニアを活用して被災地の支援を行うことが可能となります」


とはいえ、南海トラフの震度分布を見れば、内陸部を通るリニアも、震度6弱のエリアを通過する。東海道新幹線と接続するターミナルの名古屋駅は、特にネックとなり得る。


 名古屋市の想定では、同駅の位置する中村区の最大震度は7で、区内まで津波の到達が見込まれている。駅自体は浸水域に色分けされていないものの、液状化の可能性は「大」と評価されている。駅を含めた周辺の都市機能が停止を余儀なくされる懸念は大きい。一部区間で復旧したとしても、東京~名古屋間の一体的な


「東西輸送」


には不透明感がある。


目的「リニア」or「東西交通の確保」


 今後ルート選定と建設が本格化するリニア中央新幹線の名古屋~大阪間についても、同様に南海トラフ巨大地震による強い揺れと被害が想定されている。ひとたび南海トラフが起これば、東海道新幹線、リニア中央新幹線の


「共倒れ」


も想定されうる。


『リニア新幹線と南海トラフ巨大地震「超広域大震災」にどう備えるか』(集英社)を2021年に著した神戸大学名誉教授の石橋克彦氏は、南アルプストンネルをはじめとする山岳トンネルが複数の断層や破砕帯と交差し、崩落や地下水噴出が想定されることや、乗客の避難路の険しさを挙げた。リニアそのものに疑問を投げ掛ける議論だ。


 リニア建設の是非はおいても、地震に対する安全性は常に検証され続けるべきだし、そもそもリニアの開通は「目的」ではない。


「持続的な東西間の移動に資する輸送機関」


が求められているのである。東海道新幹線の代替機能としては、南海トラフの想定被害が比較的小さい北陸新幹線の方が、リニア中央新幹線よりも優れているといえないだろうか。


 基幹的な交通路の確保は国家的な課題だ。北陸新幹線の敦賀~新大阪間は未着工で、いまだ開通の見通しが立たないが、リニアにも増してスピードアップすべきだろう。