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小池都知事のグローバルダイニングへの「命令」は暴挙だと断言できる理由

緊急事態宣言の解除直前に、東京都の小池百合子知事が発出した飲食店への時短営業命令。その対象となった店の大半がグローバルダイニングの運営店舗であり、法的に見れば、暴挙と言わざるを得ません。なぜ、このような行政処分がまかり通ってしまったのでしょうか。(慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授 岸 博幸)
小池都知事の非道さへの批判は正しいが
法律上、制度上の問題とは何か
 3月21日の緊急事態宣言の終了間際になって、東京都は18日、時短要請を無視していた27の飲食店に対して、時短営業の命令を出しました。
 27店のうち、実に26店を運営しているグローバルダイニングは、これを違法として都に損害賠償を求める訴訟を起こしました。その帰趨はともかく、今回の訴訟は2つの重要な論点を提起していると思いますので、考えてみたいと思います。
 事の発端は、政府が緊急事態宣言を予定どおり3月21日に解除すると18日に発表したところ、都が同日、時短営業の要請に従ってこなかった27店に対して、21日までの時短営業の命令を出しました。
 なぜ、27店中26店がグローバルダイニングの店舗だったのでしょうか。都はその理由として、要請に応じないことで市中の感染リスクを高めること、時短要請に応じない旨を発信して他店の20時以降の営業を誘発するおそれがあること、といった点を指摘しています。
 これに激怒したグローバルダイニングが、憲法で保障されている“営業の自由”、“表現の自由”、そして“法の下の平等”に反しているとして訴訟に踏み切ったのです。
 すでに多くの識者がこの問題について論評・コメントしていますが、その多くは小池都知事の非道さや暴君ぶりを批判する内容となっています。もちろんそれはそれで正しいのですが、個人的には、この問題は同時に法律・制度の面での二つの重要な論点を提起しているのではないかと思います。
コロナ禍で“営業の自由”は制約されうるが
都の補償は非常識なほど少なかった
 一つ目の論点は、グローバルダイニングが提訴の理由の一つに挙げている“営業の自由”はどこまで守られるべきか、ということです。
“表現の自由”や“法の下の平等”といった民主主義の基礎となる権利は、それが制限された場合の代替措置が難しいことを考えても、できる限り厳格に守られるべきです。
 しかし、それと比べると、民主主義よりも資本主義の基礎となる“営業の自由”は、緊急時や非常時にはある程度の制限を受けて然るべきです。だからこそ改正新型インフルエンザ特別措置法(以下、「改正コロナ特措法」)では、緊急事態宣言中における時短営業の要請や命令が可能となっています。もちろん、制限を受ける際は十分な補償が前提となりますが。
 そう考えると、グローバルダイニングが“営業の自由”を訴訟の理由の一つに挙げているのにはちょっと違和感を禁じ得ません。
 ただ、今の憲法は基本的に平時のみを前提とした内容となっていて、憲法で定められた権利のうち、緊急時や非常時にどれが制約され得るのか、まったく不明確です。かつ、それらが制約された際の代替措置に関する基本方針も示されていません。
 だからこそ実際の行政の現場では十分な代替措置が必要になるわけですが、都の対応は非常識なものでした。時短協力金は1日6万円と、大規模な店舗にはとても十分とは言えない水準であり、かつ都は緊急事態宣言の初期の段階では大手チェーン店を協力金の対象から除外していたからです。
 そう考えると、緊急事態宣言という緊急時でも民間の事業者側が営業の自由を主張し、報道によると東京では2000を超える店舗が時短要請に従わなかったというのも、ある意味ではやむを得ないとも考えられます。
 こうした現実を踏まえると、政府がコロナ対応での失敗を真摯に反省する気があるなら、やはり早く憲法改正に関する議論を進め、緊急事態や非常事態に関する条項を追加し、非常時には憲法で保障されている権利の一部は制約されることを明示するとともに、できれば制約に伴う代替措置に関する基本方針についても明示されるような方向での憲法改正を早期に実現すべきです。
 憲法改正については、安倍晋三政権の終焉とともに議論が止まってしまった感がありますが、コロナの次のリスクである中国が、来年以降いつ何をしでかすか分からないことも考えると、早く憲法改正の議論を再開して、かつスピードアップすべきではないでしょうか。
なぜ解除決定日に「必要な限り」の命令を出す?
その後も命令継続は可能だが、やらない
 二つ目の論点は、27店を対象(翌日の3月19日になって32店に拡大)に緊急事態宣言終了までのわずか4日間のみ、時短営業の命令を出すという小池都知事の暴挙は、まず法律上正当化し得るのか、そして、法律上そうした暴挙を防げないのかということです。
 グローバルダイニングの提訴のように、憲法上の表現の自由や法の下の平等という法の大原則に言及するまでもなく、時短営業の命令発出の根拠法を読めば、小池都知事の判断は明らかに間違っていて、暴挙と言っても差し支えないと断言できます。
 今回の命令は、改正コロナ特措法のうち緊急事態宣言中に都道府県知事が取り得る対応についいて規定した第45条に基づいて発令されています。
 具体的には、最初は知事が飲食店に対して時短営業を“要請”することができます(第2項)。そして、飲食店が正当な理由がないのにその要請に応じない場合、“(コロナの)まん延を防止し、国民の生命及び健康を保護し、並びに国民生活及び国民経済の混乱を回避するため特に必要と認めるときに限り”、要請した措置を講じるよう命令することができます(第3項)。
 つまり、“特に必要”と認められる時だけに時短営業の命令を発出できるのです。しかし、18日の段階では、政府が緊急事態宣言を予定どおり21日に解除すると決定したくらいに、都内の新規感染者数も病床の逼迫度合いも改善していました。
 それでも、仮に都が新規感染者数のリバウンドのリスクを深刻に捉えていたとしたら、2000を超える店舗が時短要請を無視していたのですから、27店舗に限定せず、もっと多くの店舗に時短命令を出していて然るべきです。
 さらに言えば、改正コロナ特措法上、都道府県知事は政府に対して(緊急事態宣言の次善の措置として)“新型インフルエンザ等まん延防止等重点措置”を講じることが要請できるので(第31条の4)、21日の緊急事態宣言解除の段階で政府にその要請をし、その措置の下で時短命令を継続させていて然るべきです。でも、小池都知事はそのどちらの対応もしませんでした。
 かつ、都は27店に時短命令を発出した理由として、“緊急事態宣言に応じない旨を強く発信するなど、他の飲食店の20時以降の営業継続を誘発するおそれがある”としていますが、別にグローバルダイニングは“他の店も時短要請を無視しよう”などと他の店を煽った訳ではありません。
 かつ、2000店舗以上が時短要請を無視していたのですから、他にもネット上で20時以降の営業を告知していた店はあるはずですので、これが命令の理由に入るならば、要請を無視したすべての店舗の情報発信を確認し、もっと多くの店舗に対して時短命令を出すべきでした。
見せしめの意味しか感じられない決定
コロナより恐ろしいリスク要因・東京都
 これらの事実を考え合わせると、今回の27店のみに対するわずか4日間の時短命令には、都が感染対策をがんばっています、飲食店は言うことを黙って聞かないと痛い目にあうぞ、飲食店が言うこと聞かないから感染者数が減らないんだ、ということを世に示すための政治的パフォーマンスであり、見せしめの意味合いしか感じられません。
 それでは、改正コロナ特措法上で定められた政策手段がポピュリストの首長による政治的パフォーマンスに利用されるのを防ぐ方法はないのでしょうか。私はこの点が一番難しいと思っています。
 というのは、緊急事態宣言中における知事の要請や命令の権限を定めた改正コロナ特措法第45条を例にとると、例えば、知事が要請や命令を発動できるのはどういう場合かを、具体的数字や客観的な条件などで示すのは非常に困難だからです。
 となると、改正コロナ特措法がポピュリスト首長による政治パフォーマンスに利用されないようにするには、法律上、都道府県知事よりも上位に位置する政府の側が、法律上定められた総合調整の権限をフルに発揮して、ポピュリスト首長の暴走を防ぐしかありません。
 その意味で、今回の時短命令という不合理な行動に対して、コロナ担当である西村康稔経済再生担当大臣が何のアクションも取っていないことは非常に残念です。
 しかし、このように政府が都の暴走に近い行動に対して何もしないままの状態が続くと、極論すれば、都内の飲食店にとっては、コロナ以上に都知事が最大のリスク要因となりかねないことを、そろそろもっと多くの人が意識すべきではないでしょうか。