Shinzo-Returns

安倍総理の志は死なない!!

やはり張子の虎だった、中国の対艦弾道ミサイル

 2013年頃から我々軍事研究者の間で「中国の対艦弾道ミサイル(ASBM: anti-ship ballistic missile)は完成したのか」「飛翔軌道を修正して、動く米空母に命中させることができるのか」を議論してきた。
 特に、命中できるかどうかについて、技術的に可能か、実際に動く軍艦を目標に実験を実施したのか、このミサイルに対する米軍の現実的な対応といった点を議論してきた。
 そこには、中国の発表は事実よりも誇張などの宣伝が多く、すべてを信用できないという背景があった。
 今、ここにきて弾道ミサイルの弾着場となっているタクラマカン砂漠に、米軍の原子力空母や駆逐艦2隻、レールの上に置かれた空母を模した建造物が造られていることが、米宇宙技術会社の衛星写真で判明した。
 中国は、過去の実験などの段階を踏まえて、近い将来、地上に造った動く米空母を目標として、ASBM射撃の実験を行うのではないだろうか。
 この動く建造物を標的とした弾道ミサイルの発射実験とその結果(動画)を見れば、中国ASBMの本当の実力が分かる。
 ASBMの実態を評価するために、以下の順序で考察する。
①衛星写真から分かること。
②何の目的のために米国軍艦に似せた実物大の建造物を製作したのか。
③これまでの情報からすれば、ASBMは10年前に完成していたのではなかったのか。
④中国が発信するASBMに関する情報、特に攻撃のイメージは印象操作が大きい。
⑤動く目標に1発で命中すれば、日米のミサイル防衛にとって重大な危機だ。

1.衛星写真から分かること
写真の出所は、米情報機関からではなく民間宇宙技術の会社
 今回の衛星写真は、純粋な軍事情報である。
 民間の宇宙技術会社と米海軍協会が、衛星から撮影した写真を分析して、その結果をメディアに提供したものだ。
 解像度は、軍事偵察衛星より落ちるものの、グーグルアースの写真よりは解像度が良好だ。
 写真提供の理由の1つ目は、衛星写真の売り込みのために、衛星写真から判読できる情報を提供しているということだ。
 会社のビジネスのために、「こんなことができます」という売り込みの企みが含まれている可能性がある。
 偵察衛星を保有していない国々は、今回公表された写真を見て、かなり解像度の高いこのようなカラー写真をリアルタイムで欲しいと考えただろう。
 米国の宇宙関連企業にとっては、ビジネスチャンスとしてうまく活用しているということだ。
 2つ目は、軍の情報機関から提供を受けた情報を基に、自社開発の衛星を使って撮影したもの。この場合は、情報機関との連携作業だ。
 米国の情報機関が、中国軍の情報を発信したくても、極秘である偵察衛星の能力を公開することはできない。
 このため、民間会社の写真を利用して中国軍の情報を提供した可能性もある。
 実際には、米国のジョーン・カービー国防総省報道官(退役海軍少将)は、「衛星写真は見ていない」と言っていることから、会社のビジネスとして公開されたと考えていいだろう。
民間会社の衛星映像に写っていたものは何か
 2021年の10月20日に米宇宙技術会社が撮影したものは、色もブルー系で鮮やかで、形は米軍艦に似せられている。
 色が鮮明な青色であるのは、ミサイルが砂上の目標として識別できることだ。そして、日米に実験結果を明瞭に分かるようにして、威嚇しているのではないかと思われる。
 1つの空母には、陰が写っているので立体的な建造物で、レールと連結し、線路に沿って移動できるようだ。
 線路は曲線であり、曲線に動く軍艦を射撃目標とすることを想定している。
 残りの2つは、駆逐艦と空母の形をした建造物(形のみのもの)で、材質はコンクリートだろう。動くようには作られていない。
左:線路上の空母らしき建造物 右:駆逐艦らしき建造物

© JBpress 提供 出典:米マクサー・テクノロジーズ(2021年11月8日公開)
なぜ、タクラマカン砂漠に造られたのか
 人が住まないタクラマカン砂漠やゴビ砂漠の一部は、もともと中国が弾道ミサイルの実験を行う場合に弾着地域として使われてきた。
 その弾道ミサイルの弾着地点に、米軍艦を模した建造物があるとなれば、それはミサイル射撃の標的として想定しているからだ。
2013年、砂漠に作られた空母に似せた固定目標にミサイルが命中
 2013年、アルゼンチン軍サイトに、「中国のゴビ砂漠に長さ約200メートルの巨大な白い建造物が作られた。そこには兵器により2つの巨大な穴が開けられていた。この建造物は、米軍空母の甲板を想定したものである」と、実際の米空母の写真と白い建造物の写真が並べられ掲載された。
 中国の環球網は、わざわざこのことを紹介した。
 これは、砂漠にある長方形のコンクリート建造物にASBMが命中し、2発の弾痕(ミサイルの弾頭や砲弾が着発して、土に穴を開けた痕)ができたということなのだろう。
 移動していない固定目標物に命中させただけというものだ。
米空母の写真と白い建造物の比較

© JBpress 提供 出典:中国環球網 2013年1月23日
 この情報について、環球網はアルゼンチン軍サイトとしているが、実際は中国がアルゼンチン軍に意図的に書かせたものと考えられる。
 その理由は、アルゼンチン軍は中国の脅威がないことから、わざわざゴビ砂漠一体を調査することもないし、掲載して国民に伝える必要が全くないからだ。
 これは、中国からの支援を受けているアルゼンチンを利用した一種の宣伝戦だ。
2.米軍艦の実物大建造物を砂漠に作った理由
・作られてから年月が経過し、実験に使われたものであれば、建造物の軍艦近くには、多くの弾痕が見えるはずだが、全く見えない。破壊された形跡もない。
 従って、米国宇宙関連企業の公表のとおり、10月に製作された新しいもののようだ。ということであれば、これからミサイルを命中させる実験を行うと考えていい。
・空母建造物の両側に、線路が長く伸びている。
 これは、線路に乗る空母を実際に動力で移動させて、動く目標として射撃し、命中させる実験を実施する。
 移動しない固定の建造物(コンクリートか?)で作られた駆逐艦は、停泊中の目標に命中させる実験に使用されるものと考えられる。
・なぜ今、これを中国が製作したのか。そして、米企業が公開したのだろうか。
 3つの米軍艦に見立てた建造物は、砂漠の薄茶色の中に鮮明な青色で着色されている。衛星から見てくださいと言わんばかりのものだ。
 つまり、中国は極めて近い将来に、米国の軍艦をASBMで攻撃できること、さらに移動している空母も狙えるということを見せつけたということだ。
 近いうちに、これらの3つの目標を射撃して、命中している証拠を見せるだろう。
 以上のことから、「DF-26」および「DF-21D」を移動目標に命中させる技術の完成が間近なことが分かる。
3.10年前に完成していたはずでは?
 中国は、DF-21Dについては、2006年に開発を完了させ、2010年に配備した。
 2010~2013年に実験が行われ、米空母と同じ大きさの目標に命中した。
 2発射撃すれば1発は半径の中に命中するという半数必中界(CEP)が20メートルということから、当然の結果ではある。
 だが、これは、あくまで固定目標に対してであった。
 実験が成功したということで、DF-21Dは2015年に軍事パレードでも公開された。
 DF-26については、2014年に開発し、2015年の軍事パレードで公開された。2016年、中国は、操縦可能な弾頭の技術を完成させ、2018年に配備したことを発表した。
 中国はこれまでに、これら2種類のミサイルで、実際に動く艦艇を目標にした射撃実験を行ったという情報は発信していない。
 それにもかかわらず、実験に成功し部隊を配備したなどと発表していたのだ。
 そして、実際の実験場になったのが、2020年南シナ海で行った実験だ。
 2021年の1月3日、中国軍の内情を知る関係筋や米軍高官の話(情報源が明らかではないので、どこかに疑問が生じる情報だが)として、「中国が南シナ海で、2020年8月に行ったASBM発射実験では、海上を航行中(動く)の船を標的にし、異なる位置からミサイルを2発発射し、ほぼ同時に船を直撃し、沈没させた」という発言があった。
 一方で、船を直撃したというのではなく、「同海域内に着弾した」だけという情報もあった。
 これについて、米インド太平洋軍司令官は、「中国軍は動く標的に向けてASBMをテスト」したことを認めたが、命中したことまで明言しなかった。
 命中しなかったとしても、実際に海流や風の影響を受けて、自由に動く目標に向けて射撃したのであれば、ASBMの実験は、実戦的で最終的な実験を行ったと考えていいはずだ。
 しかし、今回公表された地上の移動目標や固定目標に対して、射撃実験を行うということは、前回の最終的な実験から、前の段階に戻るということになる。
 では、なぜ後戻りの実験になるのに今回、砂漠に動く目標をわざわざ建造する必要があったのか。
 2020年、南シナ海で実施したとする射撃の成果は、嘘だったのか。
 やってみたものの命中しなかったので、動く空母を狙って命中させるためには、再度実験を行う必要ができたのだろうか。
 または、完成しているのだが、実証実験の結果を米国に見せつけるために再度実験しようとするのか。
 あるいは、より複雑な射撃実験を行うためというのもある。例えば、今回製作した複数の目標を同時に攻撃するというものだ。
 1つの移動目標、複数の固定目標を同時に射撃して、命中させようと考えているのか。
 今回、動く米軍艦の建造物をわざわざ製作したということは、ASBMの実験を実際に動く物を標的に行わなければならないという認識だからだろう。
 ASBMは今度こそ、完成に近づいている段階だと言える。
4.印象操作度が高い中国のASBM情報
 中国は、「何度もASBMの実験に成功した。米空母を攻撃すれば大きな被害がでる」と言い、イメージ図も公開してきた。パレードで世界に見せつけてもきた。
 だが、実際は、動く目標に命中させる実験には、成功していなかったのだ。
 では、これまでASBMについて軍事パレードで公開してきたこと、中国のメディアが成果やイメージ図を発信してきたことは、何であったのか。
 これらのことについて、例を挙げて紹介したい。
 中国は、2000年以前からASBMについて公表し、2004年に中国第2砲兵がASBMについて紹介した。
 2010年、中国は、DF-21Dが中・低速の移動目標の攻撃が可能であるとし、距離の陸上移動式ランチャーから、移動する空母打撃群を標的にできる世界初の兵器システムの開発、試験に成功、配備したことを発表した。
 2013年当初には、「CHINA NET」で、ASBMが空母攻撃のシミュレーションを行ったことも発表した。
 このように、中国はメディアを通じて、DF-21Dは2010年から、DF-26は2014年から、米空母に撃ち込めると、何度も言っていたのだ。
 例えば、ロケット軍のミサイル旅団は、数千キロメートル離れた1~3つの大型海上機動目標(空母や巡洋艦などを含む)に、約54発のDF-21DやDF-26を発射すれば、マッハ17の超高再突入速度で突進することができる。
 米軍は、迎撃に失敗するだろう。そして、空母の飛行甲板や格納庫の破壊は深刻で、沈没しなくても空母に壊滅的な打撃を与える可能性がある、とまで威嚇していたのだ。
 これらの発表は、実験成功を基にした発表ではなかったと言える。
中国メディアが発信した「DF-21D」が米空母を攻撃するイメージ図
 現在、中国はASBMの実験を繰り返し、やっと「飛翔軌道を変更して命中させる」という最終段階の実験に漕ぎ着けたようだ。
 10年間ほど、ASBMが成功したと言い続けてきたわけだから、今回こそ証拠を示すために、動画で撮影したものを公開してもらいたいものだ。
 これまでの発表などは、中国が米国に対して脅威をあおる印象操作、宣伝戦であったと言える。
5.日米のミサイル防衛にとって重大な危機
 中国のASBMの開発は、やっと現実として完成段階に近くなっているが、タクラマカン砂漠に設置した移動する目標に、飛翔軌道を変更して命中させてこそ、概ね完成だ。
 また、南シナ海でも太平洋上でも、自由に動く船舶に対して、実際に射撃実験を行い、命中したという情報を確認できれば、完成ということになる。
 近い将来、動く目標に命中させて実験が成功すれば、日米にとっては重大な脅威となる。
 これらに対して、日米はミサイル防衛に本腰を入れなければならない。
 また、ミサイル防衛だけでは対応ができないことから、敵基地攻撃能力を持つことは必須となる。