Shinzo-Returns

安倍総理の志は死なない!!

たとえ実現しても「防衛費2%」が空虚でしかない理由

(北村 淳:軍事社会学者)
 先の総選挙で自民党が打ち出した「防衛費をGDP比2%水準に引き上げることを目指す」との公約に関して、対中戦略に関与している米軍関係者たちの間で“勝手な期待”や議論が持ち上がっている。
 もっとも、他国の国防費がどのような規模になるのか、そして国防費の構成内容などはアメリカが左右できる問題ではない。しかし、歴代首相をはじめとする政府首脳や多くの国会議員、それに国防当局までもが日本自身の国防について口を開けば「日米同盟を根幹に据え」というレトリックでアメリカの軍事力に頼り切る姿勢を示し続けてきた以上、米軍や米政府関係者は当然のことながら、国際社会からも「日本はアメリカの軍事的属国」とみなされているのは至極当然である。そのような“属国”の国防費に関して、米軍関係者がアレヤコレヤ議論するのもまた自然の成り行きといえよう。
自国の海洋戦力を日本に補強させたいアメリカ
 さして日本の実情を把握していない人々にとって「政党による公約」は「実現されるべき約束」である。そのため、日本の国防予算がGDP比2%、すなわち11兆円強(1000億ドル)の水準に引き上げられた状況を前提として議論することになる。
 そして、そのような議論は、昨今、米軍や米政府内で話題となっている台湾を巡る中国との戦闘が勃発した場合との関連でなされる場合がほとんどである。
 もちろん米中衝突が起こりうると考えている多くの人々も、中国軍の海洋戦力、そして接近阻止戦力が極めて強力になっている現状では、台湾防衛を契機としてアメリカが中国と戦闘を交えるのは極めて危険と考えている。そのため、2030年頃までにアメリカ海洋戦力を急速に強化して中国海洋戦力と拮抗する状況に立ち至ることを前提としている。ただしそのように米海洋戦力が復活を遂げたとしても、その間、中国軍が戦力強化をストップしているわけではない。そこでアメリカの海洋戦力を補強するために、台湾と中国に隣接している同盟国日本の海洋戦力を狩り出すことが不可欠となる。
 すなわち、米海軍に欠落している非原子力推進潜水艦、ミサイルフリゲートやミサイルコルベットあるいは高速ミサイル艇などの攻撃力の高い小型戦闘艦などを、海上自衛隊がふんだんに手にする国防予算で急速に調達させて米海洋戦力の弱点を補完するのだ。
 それと共に、米空軍や米海兵隊、米海軍の航空機が使用する日本全土の航空基地や民間飛行場に強力な防空システムを満遍なく配備させる。また、対馬から五島列島や九州の東シナ海沿岸域、それに南西諸島全域に日米両軍の地対艦ミサイル部隊と地対空ミサイル部隊を濃密度で配置につかせ、対中接近阻止態勢を万全に整えることも、毎年1000億ドルの国防費が維持されるならば容易な作業だ。
 それらの海洋兵器システムの急速調達と共に、対中戦闘に出動する日米両軍の艦艇や航空機のメンテナンスや修理を迅速かつ安全に実施できる軍港・航空施設の整備・増設にも努力を傾注させるのである。
 以上のように、日本の国防費が11兆円に倍増された場合には、潜水艦や水上戦闘艦、地対艦ミサイルなど日本自身の防衛産業によって生み出せる兵器を超スピードで取り揃えさせると共に、日本自身の軍事ロジスティックス態勢を強化させることによって、アメリカの海洋戦力を補強させようというわけである。
国防に関する戦略的思考があるのか
 しかし、日本の国内政治状況に精通しているごく少数の米軍関係者は、日本が国防予算を倍増してGDP比2%水準にすることなどは夢物語だとみなしている。
 日本の実情を熟知している人々は、日本政府や国防当局が上記のように対中軍事戦略に必要不可欠な要素に集中的に大増額した国防予算を投入するだけの戦略的意思決定を下すことは期待できないとして、上記のような議論を否定しているのだ。
 日本が国防費を倍増するといった事態そのものが夢物語なのであるが、万が一、GDP比2%が実現しても、自民党政権や現在の国防当局では、米政府やアメリカ産軍複合体の圧力のままにアメリカから超高額兵器を気前よく買いまくるのが関の山といったところ、と結論づけている。
 確かに、そもそも「GDP比2%」という数字ありきでは、国防に関する戦略的思考とは全くみなせない。
 実際に日本はそうした独自の思考がほぼ皆無のため、米軍やシンクタンク関係者の間で日本の国防予算の使い道が議論されるという異常事態が生じている。属国根性丸出しの「アメリカに頼り切る」国防姿勢を日本側が取り続けている結果がもたらした国恥的状況と言ってよいだろう。
 国防予算は、国防戦略を遂行するために必要な予算である。日本を防衛するための確固たる国防戦略を策定し、その戦略遂行のために必要不可欠な国防組織を再検討し、戦略達成に用いる組織、施設、兵器やロジスティックスなどの各種システムを維持開発調達するために必要な予算を割り出した結果が国防費なのである。「万が一の場合にはアメリカ軍が助けてくれる」程度の国防戦略しか保持せず「国防費をGDP比2%にする」といった目標を掲げるのは本末転倒以外の何物でもない。
 一見すると国防力の強化のように映るかもしれないが、内実を伴わない、軍事常識に反した馬鹿げた目標は、アメリカや中国はじめ国際軍事サークルからの嘲笑を誘うだけである。自民党は公約から撤回すべきであろう。