Shinzo-Returns

安倍総理の志は死なない!!

安全保障としての医療(後編)

From 三宅隆介
  @川崎市議会議員



失われた公共性


オミクロン株の感染拡大にともない、再び病床がひっ迫しつつあります。



ですが、国による緊縮財政の都合で病床数が減らされているとはいえ、日本の人口あたりの病床数は欧米に比べると決して少なくはありません。



この2年間、コロナ感染者数が桁違いに少ないにもかかわらず日本で病床ひっ迫が起きたのは、現在のわが国においては、地域医療に対して国(公共)のガバナンス(統治力)が効いていないからです。



つまり病床に公共性がないということです。



民間病院が持つ病床は、基本的に病院の「私有財産」となっており、政府や自治体がコロナ患者の受け入れを要請しても何ら法的拘束力がなく、そのためコロナ患者への対応は公立病院ばかりが追われるかたちになります。



戦後、長きにわたり地域医療の大部分を民間病院の自由競争に委ねてきたツケがきています。



ご承知のとおり、日本にあるすべての病床でコロナ患者を受け入れたのは、たったの2%でした。



現実には2%にも達していませんでしたが……。



よく日本では「官が強い」と言われることがあります。



しかし実際には、市議会で活動しているとよくわかるのですが、わが国の官の力は実に弱い。



現に、コロナのような有事であっても、民間病院には〝お願い〟しかできないのです。



国や自治体の地域医療へのガバナンスを効かせることができれば、もっと多くのコロナ病床を確保することができたはずです。



例えば、川崎市のお隣の横浜市には、国立病院、県立病院、市立病院が数多くあります。



一方、川崎市には国立病院も県立病院もなく、市立病院しかありません。そんな川崎市よりも
横浜市のほうがコロナ患者の受け入れはスムーズだったにちがいない。



ただし、先日のブログでも申し上げましたとおり、川崎市ではコロナ感染がもっともピークだった時期に、コロナ患者用の病床を477床確保した際、そのうち4割にあたる190床は川崎市の市立病院でした。



もしも厚労省のお達しどおりに市立病院に病床を削減していたらと思うと、空恐ろしさを感じ得ません。



大阪維新の会などは「府立病院と市立病院が2つ存在しているのはムダではないか」という議論を提起し、公立病院を統合してしまいました。



今の日本で公立病院を少なくすればするほど、国や自治体のガバナンスが効かなくなり、有事の際に対応できなくなってしまいます。



まずは病床を「公共財」と位置づけ、それを差配する権限を自治体に付与すべきです。



公的機関に病床編成の権限を付与せよ



病床は、一般病床と療養病床に分類されています。



一般病床は、救急を要する患者を対象とする病床で、入院期間が概ね三カ月までと決められており診療報酬が高い。



療養病床は、症状は安定しているものの、長期の療養を要する患者を対象とする病床で、入院期間は定められておらず、一般病床と比べると診療報酬が安い。



概ね一般病床の稼働率は低く、療養病床の稼働率が高い傾向にあります。



川崎市では前者は70%程度で、後者は95%以上です。



両者を比較してみると、一般病床のほうが診療報酬が高いので、療養病床を持ちたがる病院が少ない傾向にあります。



そのため、全国的に療養病床が不足しています。



とりわけ、首都圏の療養病床にいたっては、ほぼフル稼働の状態です。



療養病床がひっ迫すると、地域医療に多大な影響を及ぼします。



例えば、ある高齢者が階段で転んで骨折して入院したとします。



まずは一般病床に入院しながら治療を受け、ある程度回復すると療養病床に移されます。



しかし療養病床に空きがなければ一般病床にとどめておく必要が出てきます。



一般病床の診療報酬の特徴として、最初の一カ月が高く、それを過ぎると徐々に安くなっていきます。



そのため、一般病床を経営する病院は、新規患者を受け入れなければ経営が立ち行かなくなってしまうのです。



つまり療養病床に空きがなければ、安い診療報酬で療養病床待ちの患者を一般病床で入院させなければならず、その間の入院患者は〝不良債権〟のような目で見られてしまうことになります。



ちなみに、川崎市(川崎北部医療圏)の療養病床の自己完結率は約50%を切っています。



これは川崎市の一般病床に入院していた患者の2人に1人は、川崎市以外の療養病床を探さなければならない状態を意味しています。



例えば病院からは県内の遠方地域や八王子市など、最悪の場合は山梨県の病院を紹介された、というケースもあります。



要するに療養病床がひっ迫すると、不良債権化した患者が一般病床に溢れることになります。



これが常態化すると、救急車で運ばれてくる患者が病院にとって不良債権化しないかどうかなど〝値踏み〟するケースが増えてくることになります。



現に、寝たきりになることが予想される高齢者の多くが、救急受け入れのたらい回しにあっています。



つい数年前まで川崎市では、現場に到着した救急車が受け入れ病院をさがすのに手間取り、患者を載せたまま現場に滞在してしまうケースの割合が増えてしまいました。



そして全国の政令市のなかで最悪な状態となっていました。



これは療養病床の不足している医療圏に共通する問題です。
繰り返しますが「病床は公共財!」という法的拘束力ができれば、政府や地方自治体の権限で、それらの病床で患者を受け入れるように命じることができます。



この法改正は直ちに行われるべきです。