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「EV一辺倒では脱炭素は実現できない」ボッシュが研究車両「CVT4EV」を開発した意義

内燃機関車が搭載する「CVT」をEVに組み込んだ
ドイツに本社を置く部品メーカーボッシュの研究車両「CVT4EV」は、EV(電気自動車)が抱える課題を低減しながら、同時に走行性能の魅力を増大させる、これを目的に開発された。ベース車両はフォルクスワーゲンのEVで市販車の「eゴルフ」(2017年モデル)だ。注目すべきは、世界中の内燃機関車が搭載する連続無段変速機である「CVT/Continuously Variable Transmission」をEVに組み込んだことだ。
EVは、電動モーターを動力源として駆動力をタイヤに伝えて走るが、電動モーターの出力軸は回転数が高いため、そのままでは使用できない。そのため、減速機を通じ駆動力として最適な回転数に減速するプロセスが不可欠だ。
減速機は金属製の歯車で構成されるためギヤ比は固定される。つまりEVは1速(段)のギヤを介して駆動しているため、たとえば最高速度は、搭載するモーターの回転数上限から求められた減速機のギヤ比によって上限が決まってくる。
そこでポルシェのEV「タイカン」や、タイカンをベースにしたアウディのEV「e-tron GT quattro」、「RS e-tron GT」(ともに前後に電動モーターを備えるAWD方式)では後輪側に2速の自動変速ギヤを備え、RS e-tron GTでは名に恥じない250km/hの最高速度と、充電一回あたりの走行距離であるAER(All Electric Range)534km(WLTCモード値)を両立させた。
また、商用車であるボルボトラックの「Volvo FL Electric」も2速の自動変速ギヤを定格出力135kWの駆動モーターと組み合わせている。AER300kmを達成しながら、2速のギヤを自動変速させることで出力を抑えた電動モーターが使用でき、最小200kWhのリチウムイオンバッテリーによって、重い荷物(GCV/連結車両総重量16.7t)を運搬できるのだ。
CVTを使うことで構造的な偏りを克服する
このようにEVでは減速機に代わって有段トランスミッションを用いることで、モーター回転数と駆動力の最適なマネージメントができる。そのため、最高速度を向上させたり、出力の小さいモーターと容量の少ないバッテリーで重い荷物を運んだりすることが可能だ。
しかし、この手法では比率の決まったギヤ段を用いることから、走行性能を高めるか、あるいはAERを優先するのかなど構造的な偏りが生じてしまう。
CVT4EVは、固定ギヤ(減速機)の代わりに無段変速のCVTを使うことで、そうした偏りの克服を狙った。ご存知のようにCVTは軽自動車から乗用車、さらには商用の小型バンにまで幅広く搭載されているトランスミッションだ。北米や欧州市場でも数多く搭載車が販売されていることから我々にとっても馴染みが深い。
CVTの原理はとてもシンプル。入力側と出力側の2セットのプーリー(滑車)をベルトでつなぎ、プーリーの大きさを変えることで、変速ギヤ構造を用いることなく無段階に変速する。幅広いレシオカバレッジ(変速比率の幅)が設定でき、なおかつ小型に設計できることも利点だ。
繰り返しになるがCVT4EVでは、CVTを電動モーターの減速機代わりに使う。無段変速機構の強みを活かすことで有段ギヤ以上の効果が得られるからだ。
モーターやバッテリーの小型化は省資源化に直結する
「走行性能の向上とともに、搭載する二次バッテリー容量の小型化、AERの延長、これらすべてを同時に向上させることがCVT4EVでは可能になる」(ボッシュの技術者)と言うが、モーターやバッテリーの小型化は省資源化に直結することから歓迎されるべき事象だ。
筆者による試乗では、電動駆動モーターのトルク値を290N・m(eゴルフ正規の値)とし、最高速度が85km/hになるよう設定したテストと、電動駆動モーターのトルク値を203N・m(30%減少)させ、CVTのレシオカバレッジを2.55として最高速度を120km/hに設定したテストを行った。
結論からして、トルク値を小さくした場合でもeゴルフ本来以上の走行性能が確保されていることがわかった。また、別に行った登坂路テストでも変速比率の幅が広くとれるためスムースな発進が体験できた。ボッシュによるとこうして走行性能を上げてもAERは最大4%向上(ゴルフより1クラス大きいDセグメント車両で達成)するという。
「EV中心」に移行するにはハードルがたくさんある
2021年はEVが救世主であるかのような、そんなバラ色の情報が錯綜した。ただ、残念ながらその解釈には事実誤認が含まれている。既存のエンジン車は悪で、新たなEVこそ正義とするシナリオは道理が通らなかったのだ。
ここは白黒、ゼロイチの世界ではない。内燃機関と電動化は手と手を取り合い、国と地域を鑑みた普及を目指してこそ、真のカーボンニュートラル化へと近づける。
一例はトヨタ自動車が2021年12月に行った「バッテリーEV戦略に関する説明会」が示した。ここでは、水素エンジンや代替燃料もカーボンニュートラル化への手段であることが世界に向けて発信されている。
EVを含めた電動化によって利用者には様々なメリットがもたらされる。たとえばEVの滑らかな走りは快適で、乗れば誰もが笑みをこぼす。しかし、世界中の自動車メーカーがEVを中心とした生産体制に移るには越えるべきハードルがいくつも存在する。
要となる二次バッテリーでは、産出能力に限りのあるコバルトの確保を単純計算で現状の100倍に、20年先には1000倍以上にそれぞれ高める必要があるとの声がある。しかし、コバルトを含むレアメタル(ニッケルやリチウムなど)を必要とするだけタイムリーに産出し続けることは物理的に不可能だ。
また、コロナ禍がもたらした部材不足として半導体が話題だが、それ以外にも銅を多用するワイヤーハーネスや、樹脂や天然由来の素材を使った部材においても不足が続く。
カーボンニュートラル化は「グラデーション」で実現する
だからといって筆者は、「EV社会は実現しない、目指すべきではない」とは思わない。冒頭に述べたようにEVを含めた電動化は、部分的な環境負荷の低減効果が期待できるし、カーボンニュートラル化された電力の同時同量がスムースに行える北欧(例/水力発電に恵まれたノルウェー)では、この先も引き続きEVを高い比率で普及させればいい。
そういった理屈だから、その逆もある。つまり車両の電動化だけを急がずに、まずはインフラ整備を増強すべき国と地域も存在するのだ。
そもそも電動化社会とは、温室効果ガス削減やカーボンニュートラル化が目的であって、世界をEV一色にすることではない。この先もHV(ハイブリッド車)やPHV(プラグインハイブリッド車)は電動化社会に貢献し続ける。
こうして徐々に明らかになり、世界へと浸透する事実から、内燃機関と電動化の二者択一論から始まったカーボンニュートラル化は、じつは両者が混ざり合うグラデーションによって実現するのではないか。ボッシュの研究車両であるCVT4EVに試乗しながら、そんな思いを抱いた。
---------- 西村 直人(にしむら・なおと) 交通コメンテーター 1972年1月東京生まれ。専門分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつために「WRカー」や「F1」、二輪界のF1と言われる「MotoGPマシン」でのサーキット走行をこなしつつ、四&二輪の草レースにも精力的に参戦中。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も積極的に行い、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。著書には『2020年、人工知能は車を運転するのか』(インプレス刊)などがある。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)理事、2020-2021日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。 ----------