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中国鉄道メーカー、欧州で「車両契約解消」の衝撃

2年経っても運行認可出ず、今後の展開に暗雲
橋爪 智之 : 欧州鉄道フォトライター
2022年05月15日


チェコの民間鉄道会社レオ・エクスプレスが、購入契約を結んでいた中国中車(CRRC)製の新型電車「シリウス」3編成の契約を解消したと、チェコの情報サイト「Zdopravy.cz」が4月25日に報じた。同サイトは、複数の情報筋から契約破棄に関する情報を入手したとしており、その1つはレオ・エクスプレスからのものだとしている。
レオ・エクスプレスのスポークスマン、エミール・セドラジーク氏は同サイトの取材に対し、「契約上の取り決めにより、レオ・エクスプレスとCRRCの機密関係や進行中の交渉についてコメントすることはできません」と返答したが、契約終了について否定はしていない。契約は、すでに製造された3編成分の受け取り拒否はもちろんのこと、30編成分の追加発注オプションも含め、すべて破棄される見込みのようだ。
2年経っても認可を得られず
新型車両「シリウス」は、ヨーロッパにおける運行認可を取得するため、チェコのVUZヴェリム試験場で2年以上前の2019年9月からテストが続けられている。レオ・エクスプレスは当初、「新型車は2020年の春~夏頃から運行を開始する予定だ」と述べていたが、いまだに運行認可を取得できていない。


「シリウス」は、最高速度こそ現有車両のスイス・シュタドラー製FLIRTと同じ時速160kmであるが、直流3kV専用車のFLIRTと異なり、交流25kV・50Hzにも対応した複電圧車で、直流と交流区間が混在するチェコ国内の運用範囲拡大、および国際ルートの拡充を目論んでいた。また、中国メーカー製ではあるが、全パーツの5分の1はチェコ製で、信号システムなど主要部品もチェコ製を採用していた。
アルミ製車体・連接構造の「シリウス」は全長111.2m。現有車両より若干長いことからプラハ中央駅のレオ・エクスプレス専用ホームは長さが足りず、出発信号機の閉塞区間にも干渉してしまう問題があったが、対応工事を実施し完了していた。すでに製造された3編成のうち、2編成がチェコのヴェリム試験場へ送られていたが、契約解消後も当面はヴェリムに残るとされている。
契約破棄となると、両社とも今後の計画を見直す必要に迫られることになる。まず、車両を発注したレオ・エクスプレスは、この新型車両の導入に合わせて運行本数の増大や運行区間の拡大を予定していたが、これらの計画はすべていったん白紙撤回することになる。
レオの株主にはスペインメーカー
気になるのは、レオ・エクスプレスの株式の55%を保有するのはスペイン資本で、その一部にはスペインの鉄道車両メーカー大手のCAF社が絡んでいる点だ。具体的には、スペインの鉄道会社Renfeが49.9%の株式を保有し、5%はスウェーデンに拠点を置くEuroMaint Gruppe(ユーロメイント)という会社が保有しているが、この会社は2019年にCAFが買収し、同社の100%子会社となっている。


この先はあくまで憶測にすぎないが、CAFは以前よりチェコ鉄道の車両入札へ応札したり、ポーランドのバスメーカーであるソラリスを傘下に収めたりと、中欧市場へかなり関心を持っていることがうかがえる。また、2021年にはアルストムから連接車両「コラディア・ポリヴァレント」と「タレント3」のプラットフォームおよび生産拠点を取得するなど、事業の拡大を進めている。


これらの動向から、シリウスが2年以上にわたってテストを続けるも一向に運行認可を取得できないことを口実としてCRRCとの契約を破棄させ、代わりに同社製の車両を導入させることも視野に入れているのではないか、というシナリオが見えてくる。
実際、今回契約を破棄されたとされるシリウスも、すでに営業を行っているシュタドラーFLIRTも、最高時速160kmの連接式車両という点でコラディア・ポリヴァレントやタレント3と共通している。
CRRCは今後どうする?
一方のCRRCは、シリウス3編成をすでに製造し、テスト走行も開始している。しかし前述の通り、ヨーロッパ域内での走行認可が取得できなければ営業運行ができないため、ヨーロッパ域内ではどこの鉄道会社とも契約することはできない。となると考えられるシナリオは2つある。1つは認可取得へ向けて引き続きテストを行い、その傍らで他の運行会社との交渉を地道に続けること、もう1つはヨーロッパ域内での運行を諦め、他の国や地域へ売却することだ。
こうした認可や運行許可は、あくまでヨーロッパ域内での話で、標準軌で直流3kVもしくは交流25kV・50Hzで電化されている国であれば、理論上は運行することが可能なので、この基準に合致する国を探すというのが手っ取り早い。極端な話ではあるが、例えば中国は交流25kV・50Hzで電化されているので、同社が引き取って持ち帰ったとしても運行できないわけではない。
CRRCはすでにオーストリアのウィーンに支社を置き、ヨーロッパへの販路拡大に注力しているが、今のところヨーロッパ市場へ参入できているとは言い難い。
今回、契約を破棄されたレオ・エクスプレス向けシリウスとは別に、同社は2つのプロジェクトを推進している。1つはハンガリーの貨物会社レールカーゴハンガリア(Rail Cargo Hungaria・RCH)向けの電気機関車バイソン、もう1つはオーストリアの民間鉄道会社ウェストバーン(Westbahn)向けの新型2階建て電車で、これらはいずれもリース契約となっている。
RCH向け電気機関車は、すでにテスト走行を開始しており、こちらも運行認可の取得が課題となっている。ウェストバーン向けの新型2階建て電車は、先日中国より出荷され、5月4日にチェコのヴェリム試験場に到着、今後はテスト走行と認可の取得へ向けた準備に入る。


リース契約は、車両の保有権はあくまでCRRCにあり、運行開始後は同社の責任のもとで運行会社がリース料を払いながら使用するという形で、契約にはフルメンテナンスも含まれている。一定期間のリース終了後、鉄道会社がその車両に満足すればそのまま残りの資産価値分を支払って買い取ることもできるし、不要となれば契約解除できるという点は、自動車のリース契約と同じ仕組みだ。実際に運行を始めるまではリース料の支払い義務はないから、鉄道会社側は運行開始が遅れてもリスクを負うことはない。
CRRCは欧州に踏みとどまれるか
RCHやウェストバーンがレオ・エクスプレスと異なるのは、CRRC製の車両導入が今後を見据えた長期計画に基づくものではなく、あくまで「買い増し」のような位置付けであることだ。つまり、現有車両の置き換えや増発計画といった会社の戦略に影響を及ぼすものではなく、レオ・エクスプレスのように、車両を導入できないことが経営計画に大きく響くことはない。
ウェストバーンに至っては、自社の予算ですでにシュタドラーから新型電車を大量導入しており、CRRC製の車両は「もしうまく走るようになれば、今後はそちらから買うことを検討するよ」というスタンスだ。もともと計画に組み込まれていない買い増しであることに加え、営業運転が開始されるまで費用を払う必要はないのだから、ウェストバーンが大きなリスクを背負うことはない。
逆にCRRCは、ここからが正念場となる。契約破棄という汚名を返上するためにも、リース契約を承諾している2つの会社へ、まずはきちんと車両を納入し、さらにこの2つの顧客を満足させるだけのパフォーマンスを見せなければならない。当然ながら、ヨーロッパの鉄道会社のほとんどはこのニュースを注視しているはずで、2つのリース契約で成果を上げなければ、ヨーロッパ市場への進出という野望は霧散することになる。
はたして今回の契約破棄という失敗を糧に、ヨーロッパ市場へ食い込み、踏みとどまることができるか。世界最大の鉄道車両メーカー、巨人CRRCの真価が問われる。


シナ製の太陽光発電装置、中身はドイツ製なので修理に応じてくれないよw