Shinzo-Returns

安倍総理の志は死なない!!

安倍氏銃撃事件で露呈した「固定観念の罠」、動機・銃撃能力・警備体制…

「民主主義への挑戦」なのか
銃撃事件が浮き彫りにしたもの

 安倍晋三元首相銃撃事件が発生した直後、与野党の政治家や報道機関は、「政治的テロ」かのように捉えての言動や報道が相次いだ。
「言論を銃撃、暴力で封殺する行いは断じて許すことはできない」などと犯人を激しく非難し、「民主主義が決してテロに屈してはならない」と訴えた。
元自衛官だったことを
銃撃能力と結び付ける無理

 山上容疑者も奈良県随一とされた高校の優等生で応援団長を務めて人望もあったようだが、卒業後は家庭の都合からか大学には進学せず、専門学校に入った。
 2年間専門学校で学んだ後、2003年から2005年まで3年間は任期制自衛官として海上自衛隊に勤めた。
 任期制自衛官というのは、3カ月の基礎訓練後、階級が最下位の2等海士(2等水兵)となり、3年後本人が希望し、選考に通ればさらに2年間継続任用される。
 これに対して、防衛大学校や一般大学出身者は入隊すると菅長(下士官の最上位)に任じられ、1年後には3尉(少尉)の士官となる。
 中学、高校で優等生だった山上容疑者にとっては、鬱屈した思いを抱くことがあったのではないか。継続任用されずに除隊したのは嫌気が差したか、協調性に欠けると見られたのかもしれない。
 今回の事件では、山上容疑者が短期ながら海上自衛隊にいたことで、射撃や拳銃製作の知識、経験を得たかのように報じられている。
 だが2等水兵は、小銃射撃については、基礎教育で一応習う程度だ。彼は護衛艦「まつゆき」の砲雷科に属したが、扱うのは口径76ミリの艦砲や対空、対艦、対潜水艦ミサイルで、拳銃とはほとんど無縁だ。
 約17年も前に海上自衛隊にいたことを今回の銃撃事件に結び付けるのは無理がある。これも固定観念からの見方だ。
杓子定規だった警護体制
テロの対象者や実行者も変化

 固定観念の「罠」ということでいえば、テロ防止でも、今回の事件は教訓を残した。
 今回、安倍元首相の警備では、東京の警察庁から派遣されていた要人警護を専門とするSPは1人で、しかも役割はおそらく本省との連絡官にすぎず、警護の中心は奈良県警の警察官が当たっていた。
 現職の閣僚などには、通常は数人のSPが付くのだが、安倍元首相の退任後は一衆議院議員ということで、SPを1人しか付けなかったようだ。
 だが安倍氏は自民党内の最大派閥を率いる実質的には最大の権力者の一人で、それだけに憎まれることも多かったはすだ。SPは要人の前後左右に4人は付けるのが現実的だったろう。官僚の杓子定規の判断が災いしたといえる。
 要人警護では対象の人物の官職の上下よりは、襲われる可能性の大小をもっぱら考える戦術的判断が重要なはずだ。
 さらにいえば、テロの対象者や実行者に対する観念も変える必要があるかもしれない。
 従来の極右、極左のテロリストは何らかの組織に属した者が一般的だったから、公安当局が兆候を知り、事前防止がある程度できた。
 だが、今回の安倍元首相銃撃や秋葉原の無差別殺傷のように将来への絶望感や個人的な動機から要人殺害や多数の人々を殺傷しようとする個人的なテロは予防が難しい。
 日本は銃器の取り締まりが厳しいとはいえ、鉄パイプや火薬の材料となる薬物、陸上競技のスタートピストル用の雷管などを使い、先込み銃を作ることはそう難しくない。爆弾も自爆テロ用なら簡単に作れるから、今回の事件の模倣犯が出る危険が案じられる。
 2019年7月に京都市伏見区で起きた京都アニメーション制作会社の放火(死者36人、負傷者33人)や2021年12月に大阪市曽根崎で起きた精神科医院の放火(死者26人、負傷者1人)もそうした一匹狼のテロ事件だった。
 こうしたテロを考えれば、放火による大量殺人を防ぐため、火の手が上がると自動的に天井から水あるいは消火液を散布するスプリンクラーの設置に関係省庁と自治体が取り組むことも、「テロとの戦い」に有効な対策になると考えられる。
(軍事ジャーナリスト 田岡俊次)