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安倍総理の志は死なない!!

リニア期成同盟会にけんか売った静岡知事の詭弁

JR東海社長の静岡県庁訪問は成果得られず
小林 一哉 : 「静岡経済新聞」編集長
2022年09月27日
金子慎JR東海社長は9月13日、川勝平太知事の「リニア中央新幹線建設促進期成同盟会」加入を機にリニア静岡工区の早期着工を要望するとともに、最近の川勝発言に事実誤認が多いことから直接、是正を試みる目的で静岡県庁を訪問した。
約1時間15分の面談は非公開で、その後、両者の囲み取材で面談の中身を確認したが、お互いの主張の食い違いだけが目立ち、金子社長が要望したJR東海への歩み寄りを川勝知事は一切、拒否した。
金子社長は川勝知事の「期成同盟会」加入に期待を寄せたが、実際は、川勝知事が“獅子身中の虫”という内部の者でありながら組織に危害を与える厄介者になったことをJR東海が分析できずに面談を申し込み、大失敗した。
金子社長の要望に川勝知事は応じず
JR東海は9月8日、急きょ知事との面談を申し込んだ。ところが、翌日の9日、川勝知事は、「期成同盟会」会長の大村秀章・愛知県知事宛てに、リニア神奈川県駅建設現場近くの「関東車両基地」用地取得がまったく進んでおらず、危機的な状況だとする報告書を送付した。大村知事だけでなく「期成同盟会」全知事に送った報告書(写し)が静岡県の公式見解となり、金子社長がいまさら是正を試みても、川勝知事が応じるはずはなかった。
その2日前の9月7日、リニア実験線の稼働する山梨県と隣接する神奈川県駅(相模原市)までの「部分開業」が可能かどうかを確認するために、川勝知事は藤野トンネルと神奈川県駅の2つの建設現場を視察した。
移動の途中で“偶然”関東車両基地の現場を通ったところ、「(整備予定地の)道の両側に数多くの人家があり、地域住民が普通の生活をしていたことから、(関東車両基地)用地取得が滞っている」(報告書)“事実”に驚いたのだという。
関東車両基地の計画では、神奈川県駅の西側に敷地面積約50ヘクタールに幅350m、長さ2km、高さ30mというリニア運行に欠かせない広大な施設を建設する。しかし、2013年夏に関東車両基地計画が公表されて以来、一部の地元住民らが自然環境保全を訴えて、土地収用などに抵抗するリニア反対運動を繰り広げている。
もともと反対運動で土地取得が難航していることは知られており、実際は当初から川勝知事の視察ポイントに加えていたと見られる。
視察の翌日、8日に開かれた定例会見で川勝知事は「たとえ来年工事開始をしても11年を要するから、関東車両基地の竣工は2030年代前半。それぞれの現場でスピード感を持って取り組まなければならないが、神奈川県の現状は危機的。全体のスケジュールに大きな影響を及ぼしている」などと説明した。
また、「2027年開業が静岡県の工事拒否によってできないとJR東海が広報しているが、神奈川県の現状を見れば、静岡県がリニア開業を遅らせているというのはJR東海が作った風評だ」などと怒りをぶちまけた。
さらに「2027年の開業をお題目のように唱えても、題目は実現しない。題目は題目でしかない」と2027年開業を目指す「期成同盟会」まで批判した。
川勝知事は8月9日の「期成同盟会」総会で「2027年品川―名古屋間の開業、2037年大阪までの延伸開業を目指す同盟会の立場を共有する」「リニア整備の促進を目指してスピード感を持って課題の解決に取り組む」と表明した。
ところが、関東車両基地の視察で、川勝知事は「2027年品川―名古屋間の開業を目指す」立場を「現実的でない」とあっさりと反故にしてしまい、さらに、神奈川―山梨間の「部分開業」という独自の目標を明らかにした。
部分開業論は川勝流の詭弁
川勝知事は会見で「『部分開業』と言ったのはJR東海である。2027年に品川―名古屋間の暫定開業を行い、2045年までに大阪に延伸する計画だった。暫定開業とは部分開業なんです」、「部分開業はJR東海の主張である。名古屋と東京が2段階の第1段階、私はこの考え方をある意味で応用している」など川勝流の“詭弁”を弄して説明した。
金子社長との面談でも「リニア実験線を延伸して間断なく営業線につなげるとJR東海が説明している。できるところからやったほうがいい」と述べるなど、「部分開業」を今後も唱える構えだ。
山梨県の「実験線」を延伸して神奈川県と甲府を結んでも、多くの利用者は見込めない。採算面からJR東海が納得しないことははっきりとしている。
川勝知事は「関東車両基地の土地取得難航で部分開業さえできない」と主張を切り替え、2027年の開業遅延を静岡工区の未着工ではなく、他県の問題へ責任転嫁したいようだ。
さらに「神奈川工区以外も用地取得の進捗などを調べ、検証すべき」とも述べた。このままでは、他県の用地取得が難航する状況などを確認して、「期成同盟会」に新たな報告書を送付しかねない。
川勝知事が率先して他県の抱える課題をほじくりだすのでは、期成同盟会の理解が得られない。
特に、今回の関東車両基地視察では、事前に神奈川県との調整をまったく行わず、視察後にも神奈川県に用地取得の進捗などの確認を行っていない。その点を記者から問われると、川勝知事は「神奈川県の記者も来ていたので、神奈川県の担当者に伝わっている。こちらから聞くまでもない」などと述べた。偶然の視察という不確かな情報を基に、用地取得が進んでいないと指摘したことは黒岩祐治・知事に真っ向からけんかを売ったことになる。
知事会見と同じ8日に行われたJR東海の会見で、金子社長は「川勝知事が他県の工事状況について、何か特別の情報を持っているのかわからないが、(関東車両基地の)土地の大体半分くらいは取得している。用地を取得したところから工事を進めて工期の短縮を図る。2027年の開業は静岡県の工事ができていないので難しい状況だが、他の工期・工程は緩めず、関東車両基地の工事を含めてしっかりと進めていきたい」などと述べた。
当然、川勝知事は8日の会見内容を承知して、9日に報告書を沿線知事に送っている。13日の面談でも金子社長は同様のことを述べたが、まったく意味をなさなかった。
言いたい放題の川勝知事
川勝知事は9月22日の定例会見で、あらためて、「神奈川県の用地取得の失敗で、2027年の開業は不可能だ」などと黒岩知事の責任を追及した。さらに、「開業の遅れで長期債務残高が膨らみ、JR東海のビジネスモデルは崩壊に近い状況であり、不測の事態を招いている(金子)社長は経営責任を取らなくてはならない」などと厳しい意見を述べた。他県の工事進捗状況やJR東海の経営責任まで首を突っ込んで、言いたい放題の川勝知事へ「期成同盟会」は“レッドカード”をつきつけるしかないだろう。
まずは9日に送った報告書の中で、川勝知事は「中央新幹線の早期建設の実現を強力に推進するためには、沿線地域の住民に対し、正しい情報を提供する必要がある」と記しているから、これまで静岡県民に説明してきた川勝知事「命の水」が正しい情報なのか、問いただすべきである。


9月8日の知事会見と同時に、静岡県庁東館に掲示された「命の水」の書(筆者撮影)
拙著『知事失格リニアを遅らせた川勝平太「命の水」の嘘』(飛鳥新社)で、川勝知事がお題目のように唱えてきた「命の水を守る」は静岡県民に情緒的に訴えるキャッチフレーズでしかなく、62万人の「命の水」は、実際は26万人に過ぎず、その26万人も水不足に悩まされたことはないことを明らかにした。
もし、地域住民に正しい情報を提供する必要があるならば、「期成同盟会」は川勝知事に「命の水」が真実かどうかを聞いたほうがいい。リニア静岡問題を解決するのに、金子社長のように川勝知事の誠意に期待することがムダであることは、今回の面談でも明らかだ。