Shinzo-Returns

安倍総理の志は死なない!!

中朝ミサイル飽和攻撃の危機に即時対応出来ない日本政治が抱える欠陥 日本を取り囲む緊張のミサイル威嚇

中国の弾道ミサイル5発の日本EEZ内着弾の意味
日本は四半世紀以上もの間北朝鮮の核・ミサイル脅威に直面してきたが、結局、既存のミサイル防衛体制を破る程のミサイル能力を北朝鮮が手にすることを許してしまった。
ただ、これまで、北朝鮮による複数かつ多様なミサイルによる連続または同時発射による飽和攻撃の可能性を懸念し続けてきたが、8月4日、中国人民解放軍が「重要軍事演習」で発射した弾道ミサイル9発のうち5発が日本の排他的経済水域(EEZ)内の「訓練海域」に着弾するという事案は、中国による対日飽和攻撃の可能性を改めて示すものとなった。
しかも、着弾地点は与那国島から80km程度の位置である。また、2機の無人機が沖縄本島と宮古島の間を通過したことが確認された。与那国島や石垣島等の八重山諸島住民、そして周辺海域で操業する漁業関係者の間で不安感が拡散するのも当然である。
これまで北朝鮮の弾道ミサイルが日本のEEZ内に着弾するか否かに報道の関心を集めてきたが、中国の弾道ミサイルが日本のEEZ内に着弾したことは、むしろ想定外に近かったことではないだろうか。
北朝鮮の弾道ミサイルが日本のEEZ内の本州に極めて近くで着弾したのは、秋田県の男鹿半島の東方約250kmの地点であったことがあげられる。今回の中国の弾道ミサイルの着弾地点が与那国島から100km未満だったということは、さらなる深刻視に値する。
国家安全保障会議を即招集しなかった危機
しかし、一層の懸念の元となったのは、日本政府の今回の反応の鈍さだった。国家安全保障会議が即時即招集されなかったのである。北朝鮮のミサイルをSM3でもPAC3でも一度も迎撃したことがなく、同国のミサイルのEEZ内着弾というニューノーマルに慣れてしまったツケという反論の余地もあろう。
中国は、北朝鮮のミサイルにも反応できないのか、と日本の足元を見たとしても不思議ではない。迎撃する前から「迎撃失敗のリスクは大きい云々」するようであれば、最初からミサイル防衛システムなど導入する必要はない。
せめてもの救いは、防衛省が中国に対して厳しく抗議する旨表明したことである。着弾地点は日本のEEZ内である。短期的危機に対し長期的に構える日本の姿勢は、安倍政権後も基本的には変わらないのであろうか。
防衛3文書改定が本年末までに予定されており、閣議決定前の国会でも議論される機会があると報じられているが、こうした議論を通じて国家安全保障の最終意思決定に関わる面々には覚醒してほしい。
米国「平和的ニューノーマル」の政治的抑止力
他方、米国はといえば、中国による対台湾演習攻勢という軍事的ニューノーマルに対抗し、米議会議員らの「切れ目ない」訪台を容認している。こうした政治家の訪台の常態化は、いわば平和的ニューノーマルといえる。
8月のペロシ米下院議長の訪台後中国は、台湾周辺で大規模な軍事演習を実施するなど圧力を一層強めた。ところが、こうした圧力を無視するかのように、米議員の訪台はむしろ活発化している。 ペロシ氏訪台後の後、9月上旬までに約30人の米議員が訪台した。10月11日にも米下院の情報特別委員会と軍事委員会の議員からなる訪問団が台湾入りした。
また、9月上旬にフランスの上院議員団も訪台し高官と面談した。10月上旬にはドイツの超党派議員団が訪台した。日本については、7月以来、超党派の国会議員団が次々と訪台していることは既報のとおりである。
こうした平和的ニューノーマル戦術で期待されるメリットは、第1に、議員訪問団が滞在中、中国は台湾に対し下手に軍事的に手が出せないことだ。もし米議員が中国の対台湾軍事攻撃の犠牲になれば、米軍の本格的介入は必至となる。つまり、この平和的ニューノーマルは、導火線(トリップワイヤー)の役割を担っており、したがって中国に対し抑止効果を有していると見ることができる。
第2に、米議員の訪台の度に、米国による台湾に対する武器供与の継続に示される台湾防衛意思が表明されるともに、台湾の国際組織への参加の奨励等の政治的メッセージが拡散されることである。
さらに、実質的により重要なことだが、中国がこうした米国による議員訪台攻勢への反発から台湾に対する軍事的圧力を強めれば強める程、米議会が次々と台湾に対する軍事支援を強化する法案を可決している。
最近では、例えば9月14日、米上院外交委員会は台湾への軍事支援を強化する「2022年台湾政策法案(Taiwan Policy Act of 2022)」を賛成多数で可決した。同法案は、今後4年間で総額45億米ドルの援助が盛り込まれ、1)北太平洋条約機構(NATO)非加盟の主要な同盟相手として台湾を指定、2)中国の敵対行為に対する制裁を主な内容としている。
南西防衛に待ったなし、大国然の余裕はもはや無意味
日本の弾道ミサイル防衛体制は、2020年にイージス・アショア配備断念が正式に決定されて以来、北朝鮮のミサイルによる飽和攻撃危機への対応について、実質的に「裸」である状態に変わりない。日本の南西防衛が年頭に置いているのは中国であるが、もはや中朝のミサイルに対し複合的危機を一層想定する必要がある。
南西諸島の守りに対する日本の自衛隊の配置については、2019年の600人のミサイル部隊の奄美大島への配置を始め、2020年の宮古島へのミサイル部隊配備、2023年の与那国島へのミサイル配備に向けた陸上自衛隊駐屯地着工、2023年の電子戦部隊配備が予定されている。
防衛省は、12式地対艦誘導弾の射程を中国本土まで到達可能な1000km以上に延長するための開発に着手しており、将来の量産化に向けた経費を含め開発費計272億円を2023年度の概算要求で計上している。これは、敵の航空機や巡航ミサイルを「03式中距離地対空誘導弾」(中SAM)で迎撃するとともに「12式地対艦誘導弾」(SSM)で敵艦艇を攻撃する、という構想に基づくものである。
しかし、こうした構想の実現を遅らせるのは、政治サイドである。国会で議論すべきまともな防衛論議は依然として聞かれず、したがって実質的議論は進んでおらず、防衛費増額も、財源論をめぐって結論は出ていない。現在のスケジュール感では、将来の対応に遅滞が生じる恐れがある。
また、今回の北朝鮮のミサイル攻勢については、米国は空母ロナルド・レーガンを展開し米韓共同演習を繰り返す一方、日米韓共同演習を実施、さらに海上自衛隊および陸上自衛隊と順次共同演習を通じて抑止態勢の機動性を示すことで対応した。日本としても、Jアラートの機能不全等諸課題を引きずりながらも、当面は「切れ目ない」日米同盟協力を堅持することが関の山である。
当面の強化策としての米国中距離弾道ミサイル配備
日本は年末に「国家安全保障戦略(国家安保戦略)」、「防衛計画の大綱(防衛大綱)」、そして「中期防衛力整備計画(中期防)」の3文書改定後、将来のスタンド・オフミサイル配備でさらに対中抑止効果を向上する予定だが、中朝のミサイル脅威の増大の速さを踏まえれば、時間的余裕が狭まっていることは明らかである。やはり、米国の中距離弾道ミサイルの配備を当面の措置として早急に意思決定する必要がある。
中朝にとっては、日本の防衛態勢が「裸」に近い状態であればあるほど好都合である。日本にはもはや大国然の余裕は許されない。「切れ目ない」防衛を目指しながら、実際は「切れ目だらけ」なのだから。
特に、ロシアのウクライナ侵攻では市民が標的になっている点を考慮すると、中朝のミサイルの標的が純粋に軍事目標に限定されていると安心することはもはやできない。さらに、同事案で原子力発電所が攻撃目標になることが現実となった今、日本でも福井県等では懸念が生じている。
10月13日、米国のバイデン政権は新たな「国家安全保障戦略」を公表した。日本を始めとした同盟国とともに中朝ロと対峙する姿勢が改めて強調されている。政治サイドには賢明な判断と迅速なる行動を願う。
8月の中国に加え、9、10月とまた北朝鮮のミサイル試射が頻発している。その意味合いを、「日本を取り囲む緊張のミサイル威嚇・2 日本方向に向けたミサイル試射に狂奔する北朝鮮が核を使う条件とは」で検討してみたい。