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安倍総理の志は死なない!!

静岡リニア「川勝知事」JR東海にまたも無理難題

権限及ばない山梨県のトンネル工事中止を要請
小林 一哉 : 「静岡経済新聞」編集長
2022年11月13日

山梨県内のリニアトンネル掘削工事をどこで止めるかの議論を求めた静岡県地質構造・水資源専門部会(静岡県庁、筆者撮影)
川勝平太知事が公言する「命の水を守る」のうそが明らかになったリニア問題で、静岡県は新たな“無理難題”をJR東海に投げつけた。10月31日県庁で開かれた県地質構造・水資源専門部会は「静岡県内の湧水に影響が出ないよう、山梨県内の掘削工事をどこで止めるのか」という議論スタートを強く求めた。
「山梨県駅と神奈川県駅の間の部分開業」「2027年開業ができないのは神奈川県の責任」などの無責任な川勝発言同様に、リニア問題でさらなる混乱を引き起こすのが狙いのようだが、もともとは「水1滴も県外流出は許可しない」「静岡県の湧水は静岡県のもの」という川勝知事の無理筋の主張を踏まえたものだ。
今回の問題も、大井川下流域の水環境への影響とはまったく無関係であり、不毛な議論となることは明らかである。これまでの議論と同様にムダな時間を費やす可能性が高く、国土交通省は強い姿勢で静岡県を指導すべきである。
山梨の工事が「静岡の水」に影響する?
静岡県は10月13日、リニア工事に係る協議を求める文書をJR東海に送った。その文書では、山梨県内のトンネル掘削で、距離的に離れていても、高圧の力が掛かり、静岡県内にある地下水を引っ張る、静岡県内の湧水への影響を回避するために、「静岡県境へ向けた山梨県内の工事をどの場所で止めるのか」決定する必要があるとしている。
県専門部会で科学的・工学的な議論を進めるため、静岡県は山梨工区の工事をどの時点で止めるのか、JR東海案を出すように求めていた。
JR東海は静岡県の要請に困惑、今回の県専門部会ではどこで止めるのかなどの議論を避けた。現在、静岡県境約920m地点まで山梨県内の掘削工事が進んでおり、その約100m先端部分まで水の発生などは確認されていない。「締め固まった地質で安定している。断層帯は静岡県境の西側にある」として、県境まで掘り進めていく予定だった。
理論上、トンネル掘削することで高圧の力が掛かり、地下水を引っ張ることはある。とはいえ断層帯がない限り極めて微量であり、さらに現在のような締め固まった地質ではそのような現象が起こらない可能性も高い。
それなのに、突然、静岡県は山梨県内の掘削ストップを求めたのだ。
静岡県の掘削ストップ要求に強く反応したのは、山梨県の長崎幸太郎知事だった。長崎知事は「山梨県の話をするのに、ひと言もないのは遺憾だ」と怒りをあらわにした。
川勝知事が10月26日の関東地方知事会議で長崎知事に直接、“あいさつ”したことで、長崎知事も一定の理解を示したが、山梨県内の工事ストップを了解したわけではない。この問題の根は深い。
今回の問題は、今年4月25日、川勝知事が「これまでの全量戻しに関わることから、リニア問題は新たなステージに入った」と発言したことから始まった。当時の「新たなステージ」とは、南アルプスルートの路線計画決定と地質調査の問題だった。

来春の静岡市長選挙出馬のために、静岡県リニア問題責任者、難波喬司氏は辞職した(静岡県庁、筆者撮影)
「地質脆弱などで高圧湧水の恐れ」があった山梨県内のルートを回避して、現在の南アルプスルートに決定したことを問題視して、「静岡工区の全区間で切羽崩壊と大量湧水の発生懸念」があるから、JR東海は南アルプスルートを回避すべきだったと主張した。現在の南アルプスルートへ強い疑念を投げ掛け、ルート変更の議論にまで持ち込みたい川勝知事の意向が見え隠れしていた。
川勝知事は今後、ルート計画決定を問題視していくと強気の姿勢を見せていたが、静岡県のリニア問題責任者、難波喬司副知事(当時)は「(2011年5月の国交省の)整備計画決定時のことであり、専門部会で問題視しない」と蹴ってしまった。
工区の名称に言いがかり
難波氏の対応を見て、川勝知事は別の「新たなステージ」を持ち出した。
「山梨工区、長野工区が静岡県内に入っていることは失礼であり、無礼であり、私も長崎知事も知らなかった」などの発言を行い、「リニアトンネルは静岡県内10.7kmを通過するのに、静岡工区が8.9kmであり、約1kmずつ山梨工区、長野工区が静岡県内での工事となるのは納得できない、静岡県内すべてを静岡工区とすべき」という主張に切り替えた。
川勝知事の新たな主張を基に、事務方が「山梨県内の工事をどこでストップさせるのか」という“無理難題”をひねくり出して、JR東海へ送りつけたのだ。
実際には、静岡県内の断層帯などを踏まえ、山梨工区、長野工区から上り勾配で工事をするため、静岡県内のそれぞれ約1kmを工事区間とした。
いずれの工事も静岡県境でストップするから、「失礼でも無礼でもない」のだが、「ルート計画決定」問題で大騒ぎするつもりだったのに、当てが外れた川勝知事は、今回の山梨工区の工事ストップで新たな大騒ぎのタネをまきたかったのだ。
国交省は2020年4月から有識者会議を立ち上げて、約2年間の議論で「大井川下流域の水環境への影響はほぼなし」とする結論をまとめた。
ところが、国交省は「全量戻し」を求める川勝知事の口車に乗ってしまい、工事中の10カ月間に山梨県外へ流出する最大約500万立方メートルを戻す方策は解決していないと中間報告に記した。
有識者会議は「県外への流出量は非常に微々たる値でしかない」と結論づけた。下流域の利水に使用された直後、島田市神座地区の河川水量は平均約19億立方メートルであり、その変動幅はプラスマイナス9億立方メートルもあるから、最大約500万立方メートルは県内の変動幅に完全に吸収されてしまうと説明していた。それにもかかわらず、国交省は「工事中の全量戻し」の方策をJR東海に求めたのだ。
この結果、県は「工事中のトンネル湧水全量の戻し方について解決策が示されていない」ので、「トンネル工事を認めることはできない」という見解を導きだした。山梨工区のトンネル工事による静岡県内の湧水への影響も「工事中の全量戻し」の延長線上にある。
たとえ影響があったとしても、極めて微々たる値であり、多くの専門家はそんな議論をする必要性に疑問を投げ掛けている。
県の専門部会はトンネル工学を無視
JR東海は専門部会で、先行探査を役割とする高速長尺先進ボーリングを使い、地層を確認しながら掘削するので大量の出水はありえないと説明したが、県専門部会委員は「高速長尺先進ボーリングが破砕帯に当たれば大量湧水を招く」などトンネル工学を無視した発言を行った。丸井敦尚委員は高速長尺先進ボーリングの役割を正確に説明したが、他の委員と意見の食い違いのみが明らかになった。専門部会委員の1人、トンネル工学を専門とする安井成豊委員は招集されておらず、県専門部会の議論に正当性はない。
このような場合、国交省がちゃんと指導に乗り出すべきだが、担当者は「今回の問題も東京電力の田代ダム取水抑制案による大井川への放流で解決することを期待する」との発言でお茶を濁した。川勝知事はこれまで、田代ダムからの放流を「工事中の全量戻しと認めない」と発言しているから、まずは川勝知事への対応をきちんとしなければならないのだ。
このままでは、川勝知事の思惑通りに新たな不毛な議論が始まることになる。10月6日開かれた県議会産業委員会で、県企業局は「大井川広域水道が水不足に悩まされたことはない。給水に十分な余裕がある」と説明した。川勝知事「62万人の命の水」がでっち上げであることが明らかになった。このような動きの中で、県議会12月定例会では、自民県議らが川勝知事の「命の水」のうそを追及するとしている。リニア問題の解決には、川勝知事のうそを排して、事実を正確に伝えていくしかない。
国交省は大井川下流域の水環境問題がすでに解決していることを住民らにわかりやすく説明する場を設け、「命の水」の真実を伝えてほしい。