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捕鯨会社が商業捕鯨で悲願の黒字!「クジラ肉」の単価が劇的回復した理由

日本で唯一、大型クジラの捕獲、加工、販売を行う共同船舶。長年、国からの補助金頼みだったが、2019年に商業捕鯨に転換すると、翌年度で補助金が打ち切られた。そこから赤字が続いたが、今期、黒字に転じる。下落したクジラ肉の単価が劇的な回復を果たしたからだ。(ノンフィクションライター 山川 徹)

写真はイメージです Photo:PIXTA© ダイヤモンド・オンライン
補助金打ち切り後
初年度の赤字は7億1500万円

 鯨肉市場が活況を呈している。昨年11月には下関市場で、イワシクジラの生肉がキロ50万円もの高値で落札された。10月にも大阪で、ニタリクジラの生肉にキロ25万円の値がついた。
 日本で唯一、大型クジラの捕獲、クジラ肉の生産、販売までを行う共同船舶は今期、商業捕鯨を開始した2019年以来初めて黒字になる見込みだ。社長の所英樹は語る。
「調査捕鯨時代は国からの補助金で、赤字にならない仕組みだった。誰が経営者でも成り立っていた」
 調査捕鯨の補助金に頼り切っていた共同船舶が、存亡の機に直面したのは19年のことである。
 80年代、国際的な反捕鯨の風潮から商業捕鯨は中止に追い込まれる。日本はクジラの数や生態を把握し、持続的に利用すべく87年から南極海などで調査捕鯨を開始した。調査の現場を担ったのが、共同船舶の捕鯨船と船員である。
 日本は、32年にわたる調査で、鯨種ごとの数の推移、割り出した資源量を基に数を減らさないだけの捕獲枠の算出方法などを完成させた。守りながら捕る――。日本はIWC(国際捕鯨委員会)や国際社会に、持続可能な捕鯨のモデルを示し、商業捕鯨再開を訴えた。
 しかしIWCも反捕鯨国も耳を傾けようとしない。日本は19年にIWCを脱退し、調査捕鯨をやめて、日本の200カイリ内での商業捕鯨再開を決断する。当初、国は「実証事業支援」の名目で、共同船舶に約13億円の補助金を給付した。ただし2年目の20年度で補助金が打ち切られ、企業としての自立を迫られた。
 商業捕鯨初年度の赤字は7億1500万円。捕鯨産業において9割以上を供給する共同船舶の倒産は、日本の捕鯨産業の終焉に結びつく。
 そんな危機的状況から黒字に転換できた要因が、クジラ肉の単価の回復である。
商業捕鯨になり、
安売りで値崩れした

 商業捕鯨2年目に企業再建、ひいては捕鯨産業の復興を託されたのが、経営コンサルタントの所だった。
 所は10年前にも共同船舶の取締役として捕鯨産業の経営にメスを入れた経験があった。当時、売れ残ったクジラ肉の在庫は累計3000トン以上。水産庁から調査を委託されていた日本鯨類研究所と共同船舶を合わせると15億円の債務超過となり、約60億円の借り入れがあった。毎年3億円の赤字を垂れ流していた。所は言う。
「調査では捕獲できるクジラの数が決まっていました。供給できる食肉は年間約2400トン。採算を合わせるために、やったことは3つ。プロモーションして値段を上げる。生産ラインを見直し、コストダウンする。品質を上げる」
 たとえば、知られていなかったクジラ肉に含まれるバレニンという疲れにくくなる成分や、認知症予防効果を前面に打ち出し、新規の顧客先を開拓した。16年には共同船舶と日本鯨類研究所を併せて黒字化を達成し、過剰在庫ゼロ、債務超過の解消、借り入れの健全化を達成する。
 取締役を離れてから4年後、呼び戻されて社長に就任すると状況はより悪化していた。商業捕鯨で捕獲可能なクジラの数から逆算すると生産できるクジラ肉は、約1600トン。クジラ資源にダメージを与えないよう厳しい捕獲枠を設けたためだ。さらにクジラ肉の価格が以前よりも下落していた。所が経営改善に携わった時期にはキロ1200円で取り引きされていたが、711円に落ち込んでいた。
「商業になり、営業利益を上げる必要性に迫られた。安売りした結果、値崩れしていた」
 そう説明する所が、いまプロモーションで押し出しているのが“海のSDGs”。人類が消費する海産資源は年間約9000万トン。クジラは、その3倍から6倍のエサを必要とするという研究結果がある。日本の漁業不振の一因は、サンマやイカ、イワシなどエサとするクジラの食害だと指摘する専門家もいる。所は続ける。
「海の生態系を守るにはクジラを間引く必要がある。『おいしいクジラを食べて“海のSDGs”に貢献しよう。クジラは少々高くてもおいしい』というイメージを定着させたい」
生肉に力を入れ
単価を回復させた

 冒頭のキロ50万円の生肉もプロモーションの一環である。
 一般的に流通するクジラ肉は冷凍物だ。生肉は、めったに出回らない。生肉は、臭みがなく、弾力がありつつもやわらかい。生肉の流通は、安いが硬くて臭いというかつてのイメージを払拭すべく商業捕鯨になってから力を入れる取り組みである。
 日本各地で生肉の市場上場などがメディアに取り上げられた結果、711円だったキロ単価は1200円台にまで回復した。所が社長に就任した翌年に赤字を約2700万円に圧縮。今年度は円安や原油高の影響もあったが、約2億円の黒字が見込まれる。
 来年度はアイスランド産クジラ肉を輸入する計画だ。
「調査捕鯨時代、輸入を含めたクジラ肉の供給量は5500トンでした。短期的には我々が生産できる1600トンを高値で売れば、経営的には楽なことは事実です。しかし我々を支えてくれる加工業者や関係者の方々がいる。長期的な視点に立てば、5500トンの市場を維持できなければ、捕鯨産業の存続はあり得ない」
 今年、共同船舶は60数億円をかけて、新造母船の建設に着手すると所は言う。
「リーディングカンパニーとして、捕鯨産業に未来があるというメッセージを発していきたい」
(文中敬称略)