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本当に都民ファーストなのか? 小池知事の「太陽光パネル設置義務化」に山積する問題

 東京都の小池百合子・知事は昨年末、2025年度から新築住宅に太陽光パネルの設置を義務化する条例を全国で初めて制定した。だが、この政策には多くの問題があると指摘するのは、経営コンサルタントの大前研一氏だ。大前氏が小池知事の政策について感じた疑問点を列挙する。

小池都知事の電力政策の何が問題なのか(イラスト/井川泰年)© マネーポストWEB 提供
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 東京都の小池百合子知事が、岸田文雄首相と競うかのように、新しい政策を矢継ぎ早に打ち出している。
 小池知事は東京都民のための施策を連発している印象だが、これらは本当に「都民ファースト」なのか? 選挙が近くなるとラッパを吹くクセがある知事だけに、私は懐疑的である。
 とくに疑問符が付くのは、太陽光パネルの設置義務化だ。その目的は何か? CO2削減なのか? 防災・停電対策なのか? 東京都のホームページによると「さらなる脱炭素化やレジリエンス(回復力)向上を促進し」「都民がより災害に強く、健康で、快適な住宅の購入等ができる仕組みを目指す」として、補助金による経済的メリットもあると強調しているが、最も重要な目的が何なのかよくわからない。
 たとえば、太陽光発電はパネルだけでもとりあえず電気代は安くなるが、夜間の電力不足や災害・停電時の対応には昼間の余った電気を貯めておく蓄電池が不可欠だ。いちおう蓄電池の設置やEV(電気自動車)に貯めた電気を住宅に送る機器の導入も補助の対象になっているものの、2階以上のトイレや風呂に水を供給するためには揚水ポンプも必要となる。
 私自身、自宅と事務所がある建物に太陽光パネルの設置工事を進めている。そのコストは、蓄電池と揚水ポンプを含めると最低でも約1500万円かかる。
 太陽光パネル設置義務化の関連事業費は、2022年度の補正予算に約300億円を盛り込み、2023年度予算案に200億円以上を計上するそうだが、それで都民にどれくらいメリットがあるのか。
 また、価格が安い太陽光パネルは中国製で、その多くは新疆ウイグル自治区で強制労働によって製造されているという批判もある。太陽光パネルの設置義務化は、それを容認することになるので「東京都オリンピック憲章にうたわれる人権尊重の理念の実現を目指す条例」に反する。
 そもそも東京は、太陽光発電の最適地ではない。年間の日照時間は、47都道府県の中でも相対的に短い(2020年は1890時間で30位)。首都直下型地震の懸念もあり、災害でパネルが破損して飛散した場合の危険性や火災に対する弱さも指摘されている。さらに、耐用年数が30年程度とされるパネルの廃棄問題もある。
問題山積、あまりにも不透明
 もう1つの大きい問題は、太陽光パネルの設置義務を負うのが住宅の施主や購入者ではなく、大手住宅メーカーということだ。つまり、補助金は施主や購入者ではなく業者に支給し、施主や購入者に還元させる仕組みなのである。
 これはやはり業者に支給されているガソリン・電気・ガス料金を抑制するための国の補助金と同じく、消費者が補助金の恩恵を100%享受できるわけではないので、何か利権が絡んでいるのではないかと勘繰りたくもなる。それに、いくら補助金があっても太陽光パネルの設置義務化による新築住宅の値上がりは避けられないだろう。今どき都内で新築住宅を購入できる人は少ないという問題もある。
 太陽光パネルの設置義務は大手住宅メーカーではなく施主や購入者に負わせ、そのコストを補助金で軽減するのが筋だと思う。たとえば、東京電力は「初期費用ゼロ」の太陽光発電システムを提供しているので、新築住宅に限らず、それを導入した場合はランニングコストを減額すればよい。今回、東京都は「住宅用太陽光発電初期費用ゼロ促進の増強事業」を新設したが、その助成対象も住宅所有者ではなく業者なので、これまた実に胡散くさい。
 新築住宅ではなく、東京都が所有している広大な空き地に太陽光や風力の発電施設を建設して電力会社のバックアップをつくったり、ブロックごとにそういう施設を設置したりしたほうが、恩恵を受ける人は多くなる。
 以上を踏まえると、新築住宅を対象とした太陽光パネル設置義務化は極めて問題が多い不透明な政策と言わざるを得ない。もし、CO2対策や停電対策でやるなら、全都民が対象の高断熱窓・高断熱ドアへの改修補助金を拡充したほうが手っ取り早いし、公平だろう。
【プロフィール】
大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。現在、ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊『日本の論点 2023~24』(プレジデント社刊)など著書多数。
※週刊ポスト2023年2月10・17日号