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安倍総理の志は死なない!!

中国とテスラの「蜜月」一変、共産党がビッグデータ流出を警戒

■[スキャナー]「安保上の脅威」圧力強める
 中国共産党・政府が、ビッグデータを取り扱う企業への圧力を強めている。米中対立を背景に国外への情報流出を警戒し、「蜜月」の関係だった電気自動車(EV)大手・米テスラも安全保障上の脅威と見なされつつある。既に米巨大ITの中国事業撤退が相次いでおり、今後はさらに外資のデータ関連ビジネスが縮小する可能性がある。(中国総局 山下福太郎)
■拡張手つかず
 中国や米国、ドイツにあるテスラの生産拠点の中で主力の上海工場。米ブルームバーグ通信によると、生産台数を倍増させる拡張計画が遅れている。
 テスラにとって中国は、世界生産・販売で3~5割を占めるとされる主要な拠点となっている。しかし、上海工場で生産された車種は、2022年に中国内で6回もリコール対象となり、中国の官製メディアは安全性を疑問視する報道を繰り返す。日本の自動車アナリストは「中国政府がテスラへの逆風を強めている」と指摘する。
 18年にテスラが中国へ本格参入した当初、中国政府は正反対の姿勢で迎えた。中国はEVを経済成長の柱としたい考えで、技術移転が進むとみて歓迎した。外資企業の自動車工場は中国側との合弁が条件だったが、テスラは初めて単独出資が認められ、同車の購入税は税率で大きく優遇された。上海工場で用いられる部品の80%は中国製とされ、自国企業にも商機が期待できるためだ。
 これにテスラ側も呼応してきた。21年末、米欧から「少数民族の弾圧にお墨付きを与える」と非難される中、新疆ウイグル自治区に出店。同7月の中国共産党の創立100年に際し、イーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は「中国の経済発展は本当に驚くべきものがある」とツイッターに投稿した。
 米国では中国寄りの姿勢が問われ、「米議会で安保上の懸念になっている」(米紙ウォール・ストリート・ジャーナル)との批判も出ていた。
■敵対的行為
 ここ1~2年で中国側の姿勢が変化した背景には、米中デカップリング(分離)の強まりがある。テスラ車は車載カメラで走行記録を撮影し、いつ誰がどこに行ったという機微情報がデータセンター(DC)に集約される。中国の要請に応じてテスラはDCを国内に設置しているものの、もし米国へ流出すれば安全保障面で大きな脅威となる。
 中国軍は21年、「軍関係者はテスラ車の利用禁止」と通達を出した。毎年夏、党首脳らが重要政策や人事を協議する「北戴河会議」の期間前後は、周辺地域への乗り入れが禁止となる。
 ロシアの侵略開始直後からウクライナを通信面で支援するため、マスク氏は自ら運営を主導する衛星通信システム「スターリンク」を同国に提供している。対ロシアで融和姿勢を取る中国には「敵対的行為」と映り、将来の台湾有事を見据えて軍事面で脅威になると受け止めている模様だ。マスク氏によると、中国は自国上ではスターリンクを展開しないよう要求している。
■脱中国
 世界的なEV化の流れを受けて、BYDなど中国の自動車大手は国外に積極的に進出し始めた。テスラに対する姿勢の変化は、中国企業にとって強力な競合相手になりつつあることが影響しているとの見方もある。
 中国は他の米IT企業への締め付けも強めてきた。21年には米ヤフーが中国でのサービス提供を終了し、米系の主要SNSで唯一残っていたマイクロソフト傘下の「リンクトイン」も中国版を閉鎖した。データの取り扱いに関する規制が厳格化され、事業環境の悪化が理由の一つとなった。中国経済が落ち込む中で圧力をかけ続ければ、外資は脱中国の姿勢を一段と強めそうだ。
 ◆テスラ=2008年にEV販売を始めた世界最大手。22年の世界販売台数は131万台とトヨタ自動車の7分の1だが、株式時価総額は約6200億ドル(約81兆円)とトヨタの約30兆円を大きく上回る。イーロン・マスクCEOは南アフリカ出身で、昨年10月にツイッター社を買収した。
■統制 自国IT企業も 安保重視、厳しいデータ規制
 中国共産党・政府は、自国の巨大IT企業にも厳しい対応を取ってきた。国外への情報流出を防ぐため、統制を強める狙いがある。
 17年のサイバーセキュリティー法を手始めに、21年秋までにデータセキュリティー法と個人情報保護法を含めた「データ3法」を施行した。中国で事業活動を行う国内外の企業を対象に、データの取り扱いや利用、保護のあり方を規定した。
 米欧などにも類似の法規制があるものの、「中国は安全保障面が極めて重視され、罰金や処分が厳しい」(日系弁護士)とされる。
 中国の巨大IT3社の一つ、アリババ集団は21年、独占禁止法違反に問われ、182億元(約3500億円)の罰金を科された。
 3社に次ぐ存在とされる配車サービス大手の滴滴出行(ディディ)も22年6月、1年前に上場したばかりの米ニューヨーク市場から撤退を強いられた。翌月には80億元もの巨額罰金を科され、IT企業の生命線ともいえる利用者によるアプリの新規登録を1年半の間禁止された。
 滴滴は自社アプリ利用者のスマホから顔認証のデータや住所など計647億件の個人情報を収集した。サイバーセキュリティー法などに基づき16項目の違法行為に問われ、ネット規制当局は「国家の安全に深刻な影響を与えた」と断じた。