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安倍総理の志は死なない!!

青森県「最大級の陸上風力」で地元から怒りの声

ユーラスは当初計画を縮小も、議論は泥沼化
印南 志帆 : 東洋経済 記者
2023年02月17日
適地を求め、山間部での計画が増加している陸上風力。ただ、それが深刻な自然環境破壊につながるケースが出てきている。

青森県・八甲田山からの風景。眼下の尾根ほぼすべてが(仮称)みちのく風力発電事業の計画地で、高さ200mの風車が建つ計画だ(写真:Protect Hakkoda)
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「再生可能エネルギーだったら何をやってもいいのか。どこで、何をやってもいいのか」
声を震わせて苦言を呈したのは、青森県の三村申吾知事。昨2022年8月の定例会見で、県内で計画中の陸上風力発電事業について記者に問われた際の一幕である。
その計画とは、青森県の中央部を走る八甲田連峰を中心とする「(仮称)みちのく風力発電事業(みちのく事業)」。手がけるのは、豊田通商の完全子会社で風力発電の国内最大手、ユーラスエナジーホールディングス(HD)だ。
実現すれば国内最大級の陸上風力に
2030年に運転開始を予定するみちのく事業は、実現すれば国内最大級の陸上風力となる。
計画地は道路を挟んで北と南のエリアに分かれ、青森市、十和田市、平内町、野辺地町、七戸町、東北町の6自治体、1万7300ヘクタールにも及ぶ。当初計画は、高さ200メートル級の風車が最大150基(最大出力は60万キロワット)、山の尾根沿いに立ち並ぶというものだ(下図)。
陸上風力事業が許認可を得るには環境アセスメントを経る必要があり、現在は最初のアセス図書である「配慮書」まで提出した段階である。
ユーラスがこの地に陸上風力を計画したのは、「風況のよさが最大の理由」(陸上風力の開発を担当する秋吉優副社長)。
平地で陸上風力の適地が少なくなる中、ここ5年ほどはほかの事業者を含めて山間部への計画が目立つ。みちのく事業の場合、近くに送電線があるのも決め手となった。
こうした大規模計画は、再エネを推進する日本の政策とも一致する。現行のエネルギー基本計画の下では、30年度時点に陸上風力を19年度比4倍超となる約18ギガワットまで拡大する目標だ。
が、みちのく事業に対する逆風は強まるばかりだ。
冒頭の三村青森県知事に加え、平内町、七戸町の町長がすでに反対の意を示している。直近では、2022年12月の青森市議会で事業の中止を求める請願と意見書が全会一致で採択・可決された。
市民団体や環境保護団体も、計画の見直しや中止を要望している。こうした状況を受けて、ユーラスは昨年秋に予定していたアセス図書の第2段階、「方法書」の提出延期を余儀なくされた。
国立公園内も計画地に
反対派の懸念はどこにあるのか。焦点の1つとなるのが、事業による自然環境の破壊だ。日本自然保護協会の若松伸彦氏の調査によれば、みちのく事業の計画地は原生的な森林がその75%を占める。とくに南側のエリアには「十和田八幡平国立公園」もあり、樹齢300年を超える樹木が生い茂っている。「事業者の中でもとくにユーラスは複数の案件で環境への配慮に欠ける。最大手ゆえに、これが業界の普通だと思われることを恐れている」(若松氏)。
計画地は、イヌワシやクマタカなど貴重な猛禽類の生息地でもあり、ブレード(風車の羽根)に鳥がぶつかるバードストライクの危険もある。
「猛禽類は視野が狭いため、餌を見つけるために下を見ている際に上からブレードが迫ってきても気がつかない」(日本野鳥の会の浦達也主任研究員)。
ユーラス側も譲歩の姿勢を見せる。昨年初夏には、設置する風車を3割削減する案を表明。除外検討エリアには、市街地近くや国立公園内も含まれている。
それでも地元の不信感は拭えない。
山岳ガイドで、市民団体Protect Hakkodaの責任者である川崎充氏はこう語る。「公園内への風車の設置は取りやめたが、資材搬入路をつくる計画は変えていない。南側エリアで事業をやるには必須だからだ。ユーラスは既存の林道を拡幅して自然環境への影響を少なくするというが、ブレードや支柱を運ぶためには大規模な土地改変が避けられない」。
道路を拡幅する際の自然環境への配慮策として、ユーラスは「貴重な植物があったら一時期移植をして搬入が終わったら元に戻すなど、できるだけ環境負荷が少ない方法を検討している」と語る。だが一度自然に手を加えたら、原状回復は難しいとの見方もある。
事業者と反対派との議論は平行線だ。
ユーラスは、「総意として事業に賛成してもらわないと進められない」(秋吉副社長)として、近々、任意で関係者説明会を開く。
ただ制度上は、自治体や住民の反対があっても計画を進めることが可能だ。「総意としての賛成」をどのレベルに設定するのか、今後企業としての姿勢が問われるだろう。
地元との調整に難航するのはユーラスだけではない。
陸上風力への反対運動は全国で散発しており、その影響もあって環境アセスの初期段階で事業を廃止する件数は増加している。2022年には大和エネルギーが計画する佐賀県唐津市の事業、関西電力が宮城県の蔵王連峰で進めていた事業などが、地元からの反対を受けて撤退を表明した。
スムーズな再エネ拡大に国は苦心
風力発電を拡大したい国は対策を講じる。昨年10月には手間のかかる環境アセスの緩和へ風力発電のアセス対象を1万キロワットから5万キロワット以上に変えた。
同4月には、自治体が再エネの「促進区域」を設定できるようになった。絶滅危惧種の生息域などをあらかじめ除外し、それ以外のエリアから抽出する。
地域トラブルを回避し、環境影響が少ない土地に事業を誘導する狙いがある。が、風力発電の促進区域に手を挙げた自治体はゼロ。
ある地方自治体の担当者はこう明かす。「陸上風力はここ2年ほどで、住民から『迷惑施設』同等の扱いを受けることになった。再エネは重要だが、うちの隣には来ないでね、と。得られる固定資産税は微々たるもので、自治体にとっても実入りは少ない。再エネは人件費をかけないのが基本なので、地元雇用にもつながらない」。
気候変動対策として再エネ拡大は確かに重要だ。だが、それにより自然環境が脅かされれば、「見せかけの環境配慮」のそしりは免れない。