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安倍総理の志は死なない!!

「気球撃墜」なぜ日本では困難なのか「技術的にも、性能的にも、法的にも」高いハードル

降って湧いた「中国の無人偵察用気球」問題
2月2日、アメリカ国防総省は中国が偵察用に飛ばしたとみられる気球がアメリカ上空を飛行していることを明らかにした。そして4日(日本時間5日)には、米軍の戦闘機F-22が空対空ミサイル「AIM-9X(サイドワインダー)」1発を発射し、高度約6万フィート(約18km)を飛行する全長約60mの気球をサウスカロライナ州沿岸の領海上空で撃墜した。
この事案を皮切りに、米軍は次々と謎の飛行物体を撃墜、中国も一部メディアが「山東省周辺の海域で正体不明の飛行物体が発見され撃墜の準備」と報道するなど、“米中気球戦争”が勃発した。
これを機に、日本でもアメリカで撃墜された気球と似ている飛行物体が過去に確認されていたことが明らかになった。そして2月14日、防衛省は▼2019年11月に鹿児島県▼20年6月に宮城県▼21年9月に青森県など、日本の領空で確認された気球について「中国が飛行させた無人偵察用気球であると強く推定される」と発表、政府は中国に対し外交ルートを通じて事実関係の確認を求めるとともに、「外国の無人偵察用気球等による領空侵犯は断じて受け入れられない」と申し入れた。
日本に外国の気球が来たら本当に撃墜できるのか
では、実際に外国の気球が日本の領空に侵入した場合、自衛隊は米軍のように撃墜することは出来るのだろうか。いくつかハードルがあると考えられる。
【高度の問題】
米軍のF-22戦闘機が撃墜した気球は、約6万フィート(約18km)を飛行していたと言われている。航空自衛隊の主力戦闘機F-15も、米軍の公表によると上昇限界は約6万5000フィート(約19km)とされ、一見すると高高度での対応が可能に思える。
しかし、F-15の操縦経験がある空自関係者によると「この上昇限界は米軍が最高の条件下で叩き出した数値と思われ、実際は5万フィートくらいが限界だろう」と話す。
高度が上がると気圧が低くなり戦闘機内の与圧も下がるが、航空自衛隊にはパイロットが高高度でも操縦ができるような専用の加圧服はないという。また、F-22には「OBOGS=機上酸素発生装置」という高高度でも連続的に酸素を生成し供給することができる装備が搭載されているが、F-15には搭載されておらず、タンクに注入した「液体酸素」を利用しているため量に限りがある。
別の空自関係者も「そもそも戦闘機は高高度になり気圧が下がると、動きが緩慢になって機動性が下がり操縦が難しくなる」としたうえで「6万フィートなんて『グローバルホーク』など無人機が行く高度であって、通常有人機が行くようなものではない。日本の戦闘機が6万フィートまで到達するのは無理だろう」と指摘する。
【速度の問題】
米軍は、サウスカロライナ州沿岸の「領海上空」で気球を撃墜した。バイデン大統領は「軍は地上への被害を避けるため気球が海の上に出るのを待っていた」と述べている。気球の落下による人命への危険性などを排除するために海の上で撃墜を行う場合、国家の主権が及ぶ「領海」の上空内で行わなければならない。
空自関係者によると、1分間で約10マイル(約16km)もの高速で進む戦闘機で、気球という動きが少ない対象物を12マイル(約22km)の領海の上空内で撃墜するには、ミサイルの発射チャンスは事実上1回しかなく、リトライが出来ない至難の業だという。
【レーダーやミサイルの問題】
自衛隊は、戦闘機やミサイルなどを探知するために警戒管制レーダーを用いている。しかし自衛隊関係者によると、レーダーは航空機など高速で動く物体を想定しているため、移動速度が遅い気球は、雲と同じように目標として探知されない可能性があるという。また、気球の材質によっては電波を透過したり吸収したりするものもあり、その場合は電波の反射が無いためレーダーに映らない場合もある。
撃墜に使用するミサイルも、気球の材質によって種類を変える必要がある。たとえば、アメリカが今回使用した「AIM-9X(サイドワインダー)」は赤外線誘導によるものだ。しかし、有人機が何千万円もするミサイルを用いて、安く製造できる無人の気球を撃ち落とすのは費用対効果が悪く「非対称戦」の様相を呈する。
【法的な問題】
自衛隊法84条は「防衛大臣は、外国の航空機が国際法規又は航空法その他の法令の規定に違反してわが国の領域の上空に侵入したときは、自衛隊の部隊に対し、これを着陸させ、又はわが国の領域の上空から退去させるため必要な措置を講じさせることができる」と規定している。
この84条について政府はこれまで、領空侵犯をした「有人で軍用の航空機」への対処を念頭におき、武器で撃墜できるのは、相手の攻撃から身を守るための正当防衛や緊急避難に該当する場合に限られると解釈してきた。
しかし今回の「中国の無人偵察用気球」問題を踏まえ、政府は無人の気球や飛行船にも対応できるよう84条の法解釈を追加した。気球などによる領空侵犯をそのまま放置すれば、他の航空機の安全な飛行を阻害する可能性があるなど「地上の国民の生命及び財産の保護」や「航空路を飛行する航空機の安全の確保」の必要があった場合に、正当防衛や緊急避難に該当しなくても武器の使用が可能となった。
しかし、新しい武器使用のルールには曖昧さが残る。
中国は、アメリカが撃墜した気球について「民間のものだ」と主張している。もともと国際民間航空条約、通称・シカゴ条約には「民間航空機に対して武器の使用に訴えることを差し控えなければならず」と規定されている。防衛省によると、この規定に無人機が含まれるのか現時点では明確な解釈があると承知していないとしていて、「民間」の無人気球に対して実際に武器を使用することができるのかは不明瞭だ。
また、武器使用による「地上の国民の生命及び財産の保護」などが具体的にどういう状況を示すのかも不透明だ。浜田防衛大臣は2月17日の会見で「いかなる場合に武器の使用が可能かは、個別具体的な状況によることから一概にお答えすることは困難だ」と明確な答弁を避けている。
「気球」の危険性は未知数…対処に向けた技術向上やルール明確化を
中国は一体どういう目的で無人気球を飛ばしているのか。偵察による情報収集のみならず、もしかすると化学兵器や生物兵器を搭載することができるのかもしれない。気球の危険性は未知数だ。
井筒航空幕僚長は2月16日の会見で「航空自衛隊の戦闘機から空対空ミサイルを発射する等の手段によって気球の破壊については可能だと考えている」と強調した。その一方で専門家や自衛隊関係者からは「日本は、技術的にも、戦闘機や武器の性能的にも、法的にも、気球を撃墜するのは難しい」と懸念の声があがっている。
今後、自衛隊が実際に外国の気球に対処するには、更なる技術の向上や武器使用のルールの明確化が求められる。