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ドイツのショルツ首相が閣僚6人を引き連れて初来日…唐突な「日独政府間協議」の狙いは何だったのか?

日本を無視し続けてきたドイツが
3月18日、ドイツのショルツ首相(社民党)が6人もの閣僚を引き連れて日本を訪れたのには、心底驚いた。
同行したのはハーベック経済・気候保護相、兼副首相(緑の党)、リントナー財相(自民党)、ベアボック外相(緑の党)、フェーザー内相(社民党)、ピストリウス国防相(社民党)、ヴィッシング運輸相(自民党)の6人(ドイツ最大の大衆紙『ビルト』は“閣僚の修学旅行”と揶揄)。ショルツ首相曰く、日独関係は“密接、かつ非常に親睦的”で、日本はドイツにとって、“価値を共にするパートナー”だそうだ。

Gettyimages© 現代ビジネス
意外だったのは、それを日本メディアがたいして大きく報道しなかったことだ。普段なら、日独関係のニュースは、日本が大々的に取り上げてもドイツはスルーということが多かったが、今回はその反対。6人もの閣僚が同時に訪日という異例さもあり、ドイツでは18日の夜、公共放送第1、第2がどちらもトップニュースで取り上げた。
しかも、メディアの論調は前向きで、「民主主義の理念を共有する二大経済大国である日本とドイツ、この2国が協力しなくてどうする!?」といった感じだ。日本が民主主義国であり、その価値観をドイツと共有していることに、まるで今さっき気づいたかのよう。
そういえば、16年間の首相時代に、たったの6度しか日本を訪れなかったメルケル氏(しかも、そのうち3回はG8、G7、G20のサミット)とは違い、ショルツ首相は就任後、アジア最初の訪問地として北京ではなく東京を選んだ。
また、メルケル首相が“中国はアジアで一番大切な国”と公言し、前任者であるシュレーダー時代から始まっていた独中の親密度をさらに深化させたのに対し、ショルツ氏は、今後は(ロシアや中国よりも)民主主義国との繋がりを大切にするなどとも言っていた。
だから、今回の訪日もその流れと言えるのかもしれず、独メディアは、「政府がようやく中国から距離を置き始めた証拠」などと、やけに分別くさい褒め方。これまで日本のことは無視し、たまに取り上げればケチばかりつけていたことなどすっかり棚に上げている。
日独政府間協議の真の目的
ただ、日本は、「やっとドイツが我が国の重要さに気付いてくれた!」などと早とちりしてはいけない。たった20時間ほどの滞在のために飛行時間は往復で26時間。多忙な政治家たちがそれほどの面倒もモノともせず日本に接近してきた理由は、当然のことながら、偏にドイツのためである。
もちろん、それが悪いわけではないが、しかし、日本は日本で、これまでに例のなかったこの事態を、いかに日本の国益に役立つものにしていくかが問われている。
今回の会合の建て付けは、初の日独政府間協議だ。政府間協議とは、2国間の緊密な関係を象徴するもので、両国の首相を始め、全ての閣僚が定期的に集い、重要事項を話し合ったり、親交を深めたりする。
たとえばドイツとロシアは1998年から政府間協議を実施、2012年まで続いた。また、中国やインドも2011年から行なっている。特に中国とドイツの交流は非常に頻繁、かつ深いもので、常に大勢の経済界のボスたちが同行し、双方に多大な経済的繁栄をもたらした。しかし、日本とドイツはこれまで政府間協議を持つ関係にはなかったわけだ。
ドイツ政府が日本を重視していなかったのは、日本がそれほど役に立たなかったからだ。車や製造プラントや旅客機を中国のように大量に買ってくれるわけでもなし、それどころか輸出競争においては、多くの重要品目が競合するため共通の利害は乏しい。
ところが今、そのドイツが、資源の乏しいハイテク産業の国同士で協力しようと、急に近づいてきたのはなぜか?
ショルツ首相が事前に発表していた訪日の重点目標は、まずは中国抜きの経済協力システムの構築。ドイツでは、これまで繁栄を齎してくれていたエネルギーのロシア依存が、ウクライナ戦争のせいで大コケにコケ、そのため、ウィンウィンと持て囃されていた中国との経済関係までが危険視されるようになっている。
つまり、今、政府は自国民に対して、中国依存から早急に脱却するという強い姿勢を示す必要があり、それを信頼に足るものにするためには、日本との協力関係を前面に押し出すことが有効なのだろう。
ドイツが中国を袖にすることは絶対にない
ただ、実際問題として、資源の乏しい国がいくつ集まってスクラムを組んでも資源はたいして増えない。しかも、ドイツが現在、天然ガスの調達で陥っている窮地は、日本の比ではない。下手に協力など約束すると、日本が長期契約によって安全に確保している天然ガスまで分けろと言われそうな気がする。
その他、狙われていると考えられるのは日本の水素技術だ。ドイツ政府は国内に向けてここ10年余り、ドイツは水素技術のパイオニアであると喧伝しており、素直な国民は、まもなくCO2とは無縁のクリーンな水素社会が訪れると信じている。しかし、現在、燃料電池や水素エネルギーの研究で世界の最先端を走っているのはドイツではなく日本だ。それもあり、ドイツは日本の水素技術に並々ならぬ興味を示している。
さらに穿った見方をするなら、ドイツが現在、急成長中の東南アジアへの進出を試みようとしていることも考えられる。そのためにはすでに実績のある日本 “経由”が一番手っ取り早い方法だと思い付いた可能性もあるのではないか。
また、今回の政府間協議におけるもう一つの目標は日独の軍事協力だが、これもやはりインド太平洋地域で覇権を構築しつつある中国がターゲットだ。ちなみにドイツの防衛相が日本を訪れたのは16年ぶり。
協議後の発表では、来年のドイツの戦艦の日本寄港、およびドイツ空軍と日本の航空自衛隊の共同演習の計画などが決まったという。おまけに、ロシアに向かっては、“残酷な戦争”をやめ、“即刻、無条件で”ウクライナから撤退せよという要求が発信された。
しかし、冷静に考えれば、日本とドイツの経済が、そう簡単に脱中国できるわけはないし、ロシアが「はい、そうですか」と引き下がるはずもない。日独の共同軍事演習はできるかもしれないが、その他は口先だけで、完全に非現実的だ。中国とロシアを怒らせる以外、何の役にも立たないのではないか。
一つだけ確かなことがある。それは、ドイツ政府は独中関係の軌道修正を打ち出そうが、東南アジアへの進出を図ろうが、中国を袖にすることは絶対にないということだ。それどころか、どちらかというと、当面は中国への経済依存度は増していくだろう。
最大の理由は電力事情の悪化。3月半ば、ショルツ政権は原発の再度の稼働延長を否定し、4月15日での全廃を決めた。しかし代替の目処は立っておらず、このままではすでに悪化している国際競争力がさらに低下することは必至、しかも、企業は経営方針も決められない。
そこで、ドイツの高い電気で生産して中国に輸出するくらいなら、現地生産したほうがよほど有利として、現在、ドイツ企業の製造部門の中国移転にさらに弾みが付いている。つまり、ドイツ政府の謳う中国依存からの脱却など、実際にはどこにも見当たらないのが現状だ。
しかも、現在、ショルツ首相がラブコールを送っているのは日本だけではなく、今後、成長が見込まれるインドには、さらに熱心にアプローチ中。今後もドイツ企業が日本企業にとってライバルであり続けることは、おそらく間違いない。
日本は本当に主権国家なのか
さて、では、今回の日独政府間協議が日本に何をもたらすのかが、よくわからない。
中国とロシアは日本にとって、重要で、微妙で、しかも危険な隣国だ。彼らを怒らせることが、どう日本の国益につながるのか、岸田首相は説明してほしい。
氏が5月に広島サミットで、「核兵器のない平和な世界を!」と叫ぶのは、たいした効果もないが、被害もないだろう。しかし、キーウに飛んで正義漢ぶったり、ドイツと結託して中国を敵に回したりすれば話は違ってくる。ロシアと中国の報復はドイツではなく、必ず、国境を接している日本に降り掛かってくる。
言い換えれば、今回の一連の動きで、岸田首相は日本の安全保障を危険に晒すことになったのではないか。
一方、“尖閣諸島”も“千島列島”も持たない遥か遠くのドイツは、口では何を言おうが、これからも末長く中国との盛んな交易を保っていくだろう。そして、もし、それを問いただされたなら、ショルツ首相はロシアとのガスパイプライン計画の時と同じく、「あれは民間のやっていることだから」とすっとぼけるに違いない。
日本は、いくら同じ民主主義国でも、あるいは、自国に軍事力がなくても、地政学上の条件がこれだけ違うのだから、何もかも欧米と一緒というわけにはいかない。そして、それはどの国だって理解できるはずだ。それなのに日本の政治家はいつも欧米の尻馬に飛び乗り、言われるままに多額の費用を負担し、しかも肝心の国益を損じている。
ロシアの行動を批判しながらも、「国民を守るため、EUのロシア制裁に足並みを揃えることはできない」とガスの完全ボイコットを拒否したのは、やはり軍事力のない小国、ハンガリーのオルバン首相だった。なぜ、日本の政治家にはその当たり前の、「国民を守る」という発想がないのだろう。なぜ、日本オリジナルの最善解を探す努力をしないのだろう。
ドイツと縁の深い人間の一人としては、せっかくの日独接近のチャンスが訪れているのだから、それをフェアな協働で両国の利益に結びつけてほしいと切実に思う。そのためには、岸田首相は外見を繕うことばかりに気を取られず、是非とも日本が主権国家だということを思い出してほしい。