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安倍総理の志は死なない!!

対中国のカギ握る? 日本がパプアニューギニア支援に注力する理由 “部族国家”ならではの苦労も

日本はパプアニューギニアへ対し大きな援助
『ラバウル小唄』という歌をご存じでしょうか。ラバウルはパプアニューギニアの島嶼地方東ニューブリテン州にあり、太平洋戦争中には旧日本陸海軍の航空隊基地が置かれました。連合軍からはラバウル要塞と呼ばれた要衝でした。
 今のパプアニューギニアは太平洋島嶼地域の大国です。アジア諸国との関係強化、同地域内での多国間外交にも力を入れており、太平洋島嶼地域で唯一のAPEC(アジア太平洋経済協力)加盟国となっています。
 日本はパプアニューギニアへ対し、2021年の段階でオーストラリアに次ぐ第2の援助国ですが、防衛省・自衛隊も能力構築支援事業を行っています。主な活動は軍楽隊育成と施設機械整備です。軍楽隊育成は2015(平成27)年から、施設機械整備は2021年からほぼ毎年行われています。施設機械とは、ブルドーザーやパワーショベルなど重機のことで、取り扱いや予防保全と故障探求の基本を学ぶものです。
 2022年度からは招へいも始まり、パプアニューギニア軍工兵隊から軍曹を筆頭に4名が、茨城県勝田市にある陸上自衛隊施設学校で研修を受けています。
 課目は昨年がブルドーザー、今年は油圧ショベル、そして来年はグレーダーが予定されているそうです。重機の取り扱いから不具合箇所の発見・対処までを目指します。ほかにも、油圧機構に関する基礎的な知識と技能の取得や、電気溶接、ガス溶接などの整備技術の向上が挙げられています。工兵隊への重機扱い方指導とは地味に思えますが、パプアニューギニアにとっては大きな意味があります。
壊れるまで使い続けては…ダメ!
 同国は土木建築産業が発展途上であり、軍の工兵隊は本来の軍工兵任務のほか、社会インフラの整備や多発する災害復旧などで大忙しです。そのためパプアニューギニア陸軍は、約3300名のうち工兵隊に1個大隊(350~400名)を組織し、基幹となっている2個軽歩兵大隊に次ぐ規模で編制しています。一方で軍の予算は少なく、装備品(重機)も足りていません。重機を支援で渡すだけではなく、稼働率を向上させるのが本事業の目的です。
 しかし技術を習得すれば稼働率が向上するというほど話は簡単ではありません。指導を担当する自衛隊員は、まずは文化的な考え方、感覚の違いをお互いに理解する必要があるといいます。そもそも日本で定着している、故障させないために日ごろから整備する「予防保全」という概念が希薄で、壊れるまで使い続け、壊れてから修理するという考えが身についてしまっているのだそう。自衛隊は、その感覚を変えていくことから始めたそうです。
 また、お国柄というものも考慮しなければなりません。パプアニューギニアは1万近くの島嶼、険しい山岳地帯という国土特性から、独自の文化・言語を持つ部族の集合体で構成されており、世界で最も言語の豊富な国といわれているほど。ちなみに公用語は英語ですが、4名の研修生はビジン語と呼ばれる言葉を使い、英語とよく似ていますが通訳を介さなければなりません。
 同国は国民というより部族という意識の方が強いため、その配慮も求められます。同じ工兵部隊において「あいつの部族は日本に行ったのに、うちの部族からは何でまだなんだ」といったいさかいが起こらないよう、軍の編制だけで事を進めるのではなく、出身部族も考慮しなければならないそうです。
インド太平洋には中国の影が
 この事業はパプアニューギニアからの評価と期待が非常に高く、研修規模の拡大を要望されています。2023年度は実質13日間の日程ですが、昨年の成果を反映して教育期間を3日間増やしたほか、日課時限も6時間から8時間へ、教育時間も70時間から100時間になっています。来年度はさらに増やす予定だそうです。
 昭和の時代に唄でも歌われたほど、太平洋地域の一員として日本とパプアニューギニアの関係は地政学的にも重要で、現代では昭和の時代とは違った係わり方が特に重要になっています。安倍元首相が提唱して国際的に定着した「自由で開かれたインド太平洋戦略」の考え方は、覇権主義的な中国の動きを強く意識したものです。
 能力構築支援事業をインド太平洋地域の各国と行うことは、相手国軍隊の能力向上を図り、ひいては地域の安定や国際平和に寄与する役割を果たすことにつながります。また、日本にとっても望ましい安全保障環境を創出する効果が期待されます。
 もうひとつの軍楽隊の能力構築支援事業は、安全保障に直接寄与しないようにも感じますが、2018年にパプアニューギニアで開催されたAPECで、軍楽隊は各国首脳への儀仗や接遇任務を完遂しました。国家としての矜持を大いに高めることに貢献できた事業です。日本は物資や資金の「モノ」を支援するだけでなく、軍楽隊育成や予防保全の考え方など地道に「ココロ」も支援して、中国との差別化をしたいところです。