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安倍総理の志は死なない!!

核融合だけではない、日本発の次世代エネルギー技術「QHe」とは

https://images.forbesjapan.com/media/article/64933/images/main_image_6fce727a580859852976b1e5d2fc19c906b20a0c.jpg 京都フュージョニアリングの100億円調達や、ノーベル賞受賞者の中村修二氏らによるスタートアップ設立など、核融合に関するニュースを目にする機会が増えてきた。そうしたなか、東北大学との産学連携体制によって「量子水素エネルギー(Quantum Hydrogen Energy、以下「QHe」)」という独自の発熱方法の開発と普及に取り組むのが2012年創業のクリーンプラネットだ。QHeは、水素を使用して、都市ガスの1万倍以上という莫大なエネルギー密度をもたらす次世代のクリーンエネルギー技術。実用化されれば、さまざまな工場の熱源としてや、将来的には各家庭の冷暖房や電気にも活用することができる。またCO2排出量もゼロかつ放射線や放射性廃棄物は一切発生せず、摂氏1億5000万度の高温核融合に比べ、QHeでは800度という低温度帯でエネルギーを発生させるため、安全管理が極めて容易になる。 同社はすでにプロトタイプの初号機を完成させつつあり、ボイラー大手の三浦工業とQHeを利用した産業用ボイラーの共同開発を進めている。 「安全、安定、安価」の次世代エネルギーの開発・実用化に向け、すでに欧米を中心に巨額の資金が投入され、技術競争が激化している。そうしたなか、日本でいち早くQHeの実用化に乗り出したのがクリーンプラネットだ。同社が取り組むQHeとはどのようなものか。教育産業からエネルギー事業へクリーンプラネットの代表取締役社長の吉野英樹氏は、東京大学法学部在学中に英会話スクールGABAを創業した。高品質のマンツーマンに特化して事業を軌道に乗せた後、ロンドンビジネススクールで修士号を取得し、その後、世界をまたにかける環境投資家として活動していた。 そんなとき、東日本大地震が起こる。福島第一原発の核反応の暴走を見て、「持続的な未来のためには全く新しいクリーンエネルギーが必要だ」と痛感した吉野氏。海外からすぐに帰国し、自身のネットワークを駆使して関係省庁から先端物理学の国際学会まで、情報収集に奔走した。 韓国で開催されたICCF(国際常温核融合学会)に出席した際に、次世代のエネルギーとして強く惹かれたのが「常温核融合」だった。この力をもとに、科学先進国の⽇本から世界にエネルギー⾰命を起こしたい。その思いで、2012年9月には、クリーンプラネットを設立する。 吉野氏の転機となったのが、当時三菱重工で凝縮系核反応を研究していた岩村康弘博士との出会いだった。2人は「New Energy, New Future(新エネルギーの発明で、人類の未来を切り拓こう)」というコンセプトで一致した。2015年にクリーンプラネットが東北大学理学部電子光理学研究センターと「凝縮系核反応共同研究部門」を立ち上げると、岩村氏は東北大学の特任教授に就任。産学連携体制のもと、次世代エネルギーの本格的な研究・実用化への第一歩が始まった。 開発の肝は、凝縮系核反応から生まれるエネルギー。岩村氏はこれを「量子水素エネルギー(QHe)」と名付けた。589日もの間、920~930℃を維持QHeとは、ナノサイズの構造を持つニッケルベースの複合金属材料に、少量の水素を吸蔵させて加熱すると、投入した以上の過剰熱を生み出せる技術である。  Chief Engineer Officerの遠藤美登氏は次のように説明する。 「実験では、数cm角の積層チップ(発熱素子)に少量の水素を吸蔵させて900℃で加熱しました。すると589日もの間920~930℃を維持できました。QHeは従来の水素燃焼による化学反応と比較すると、1万倍という膨大なエネルギーを生み出すことができるうえに、放射線や放射性廃棄物は発生せず、太陽光や風力発電のように気候に左右されることもありません」 核融合だけではない、日本発の次世代エネルギー技術「QHe」とは© Forbes JAPAN 提供遠藤美登氏QHeの原理は、核反応でなければ説明がつかないものと考えられているが、その全貌はいまだ明らかでない。QHeの発生プロセスでは同時にさまざまな反応が起き、いくつもの生成物がつくられる。この現象を整合的に説明する方程式は不明だ。実用化までの年数も、東北大学との共同研究が始まった当時は定かでなかった。 先端科学で未知数だが、クリーンプラネットは三菱地所と三浦工業から出資を受け、東北大学の実験施設を神奈川県川崎市(KAWASAKIベース)に拠点として拡張。2021年9月には三浦工業との共同開発に乗り出し、2022年6月には三菱商事と世界市場への展開を目的にタッグを組んでいる。 遠藤氏らを中心に、技術のブラッシュアップや数々の実証実験などが実施され、それらが同社の説得力を後押ししていることは言うまでもない。しかし、いくら高度な技術を持ち、優れた科学者が集うテック企業でも、資金調達に行き詰まることが多いのが現実である。 その課題をクリアできている理由を、グローバル戦略室長の林雅美氏は次のように説明する。 「テックスタートアップでは技術そのものが重要であることは当然ですが、一般のスタートアップ同様、“代表者の人としての力”があるからだと思います。代表の吉野は、GABAなどで、周囲が無理だと諦めることを、優秀なメンバーとともに解決してきた経営者としての実績があります。 そんな吉野が語るビジョンに、パートナー企業のトップや投資家は『QHeは将来的にゲームチェンジャーになり得る』と納得するのでしょう」吉野CEOの周りに集まる優れた人材、高度な技術力、そして確固たるビジョンのもと、自ら先端知識を吸収しながら技術者を率いる経営に、クリーンプラネットの強みがある。産業用から家庭用、国内市場からグローバル市場へクリーンプラネットの主眼は、理論解明より実用化である。 「多くの人は科学が世界の大部分を解明していると感じていると思いますが、実際に人類が科学的に理解できていることなど、世界全体から見たらごくわずかです。活用と並行してこそ原理の解明も進みます」(遠藤氏) 事実、飛行機に揚力が働く仕組みや、全身麻酔の詳細なメカニズムなど、原理が完全には解明されないまま実用化され、後に解き明かされてきた例は多い。 もちろんクリーンプラネットでも東北大学を中心に理論解明を進めている。ただそれ以上に、同社が産業技術としての有望性を示せば、同分野に取り組む研究機関や企業、そして何より理論解明を目指す若手研究者の数自体も増えると期待できる。クリーンプラネットが見据える世界の幅は広い。 同社は現在、産業用プロトタイプ機を完成させ、パイロットプラントの建設を準備するフェーズ3の段階にある。その先のフェーズ4では、製品の詳細設計を完了しパイロットプラントでの製造開始を視野に入れている。激化する世界各国の新エネルギー開発競争においても、クリーンプラネットの挑戦からは一瞬も目を離せない。