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安倍総理の志は死なない!!

中国人民解放軍「参謀」が立案する台湾占領戦略

習近平主席が決断すれば躊躇なく実行する
山本 勝也 : 笹川平和財団 主任研究員
2023年08月08日
人民解放軍国防大学に留学経験のある筆者が「参謀」として台湾占領の戦略立案した。
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台湾海峡の緊張が高まっている。中国が台湾統一(併合)に向けて武力侵攻する日がくるのか。7月31日発売『週刊東洋経済』の特集「台湾リスク」では、日本企業に迫り来る台湾有事の全シナリオを示した。
台湾有事があるとしたらどんな戦いになるのか──。
筆者の山本勝也氏は中国人民解放軍国防大学に留学し、北京の日本大使館で防衛駐在官を務めた。その経験を踏まえ、人民解放軍中枢の参謀になりきって台湾への軍事作戦を立案してもらった。
私は中国共産党中央軍事委員会連合参謀部の作戦参謀である。現在の経済力、人口動態を客観的に評価すれば、今後5年以内に、人民解放軍が米国を中心とする西側帝国主義諸国の軍事力、米国の核戦力を凌駕して対米全面戦争に勝利することは、残念ながら困難である。
米国との全面戦争になれば、米国の弾道ミサイルが北京や上海を襲うだろう。主要都市の人民に多大の被害が出れば、習近平国家主席の領袖(りょうしゅう)としての正統性を揺るがしかねず、最悪の場合、共産党政権の崩壊にもつながりかねない。
勝利の方程式は短期間で占領
しかし武力行使をしてでも台湾統一を果たすと習主席が決断したならば、解放軍は即座に応えなければならない。「あと〇年待ってください」とは言えない。現有能力で勝てる策を示すのが自分の任務であり、勝利の方程式は短期間で台湾占領を実現することだ。
ロシアのウクライナ特別軍事作戦がこれほどまでに長期化しているのは、初期段階で首都キーウを徹底的に破壊し、ゼレンスキー政権を打倒しなかったためだ。2014年のロシアによるクリミア併合でわかるように、作戦を短期に終結できれば併合を既成事実化できる。ウクライナでは初動作戦が稚拙だった。
ここから導き出されるのは、米国の介入が本格化する前に、台湾の政治、経済、軍事の中枢を破壊することである。それによって台湾当局と台湾軍の指揮中枢を無害化できる。
作戦が長期化すれば、米国の介入を招いたり、中国・インド国境でインド軍が活動を活発化させたりするだろう。素早く台湾中枢を排除できれば、その後の処理はチベットや香港でしてきたとおりのことをやればよいだけだ。
外交部や台湾関係部門を含む国務院には進攻開始後に知らせればよい。事前に計画を共有すれば、彼らは自分たちも英雄になろうとして余計な行動をしかねない。無用のパフォーマンスは米国にこちらの変化を察知されてしまう。地方政府や企業には、通常の動員演習だと伝えておくだけでよい。実際、解放軍以外の部門にとっては、これまでの演習と何ら違いはない。
目標は台北の中枢
攻撃の主たる目標は台北での政治、経済、軍事の中枢と、いくつかの主要都市、そして社会インフラ基盤である。大陸に近い金門島、馬祖島、澎湖諸島などは放置する。それらは台湾本島への作戦終了後にゆっくりと接収すればよい。
台湾本島の小都市や農村部も同様である。台北への攻撃を知れば、多くの台湾同胞は解放軍を受け入れるだろう。歴史を振り返ると、台湾人はスペイン、オランダ、日帝、蒋介石と変化する支配者を素直に受け入れてきた。
日本が占領している釣魚群島(尖閣諸島)は、日米両国の介入や本格的な戦争開始の口実にされるため、この際、放置する。釣魚群島に手を出さないことは、今回の軍事作戦が純粋に中国国内の問題であり、中米大国間の戦争にする気がこちらにはないことを国際社会に示すメッセージになる。台湾を回復すれば第1列島線の内側はわれわれの海となり、釣魚群島もおのずから戻ってくる。
作戦1日目の早朝、あらゆる作戦を同時に開始する。まずは、サイバー戦部隊を駆使して、電気、ガス、電話、銀行システム、そのほかすべての台湾の社会インフラを停止し、台湾と台湾域外との通信を遮断する。
ほぼ同時に、弾道・巡航ミサイルや爆撃機により、台北中心部と台湾軍の指揮中枢を破壊する。この作戦は国家間の戦争ではないので、降伏文書に調印するための敵指導者の存在は必要ない。台湾当局は台独分子と呼ばれる統一に反対する反乱人士であり、殲滅(せんめつ)されるべき対象である。
台北などへの空爆とほぼ同じタイミングで、爆撃などから逃れた台独分子の首謀者を特殊部隊によって処分する。台湾当局を支持する市民は解放軍が守るべき「人民」ではない。半導体工場をはじめとする経済基盤も作戦終了後に大陸の企業が再建できるので破壊して構わない。
弾道ミサイルや爆撃機に余裕があれば、一部を台中や台南、高雄などへも振り向ける。これら主要都市の台独分子の排除や施設の破壊も実施する。
台湾島の太平洋側にある台湾軍の重要施設はサイバー攻撃によって無効化する。空母・潜水艦部隊で攻撃できるならそれに越したことはない。空からの攻撃とほぼ同じタイミングで、基隆など台湾島北部において、海軍陸戦隊、陸軍部隊による上陸作戦を行う。
民間動員で兵站を確保
輸送の主力は、台湾海峡を毎日のように往来しているRORO船(貨物専用フェリー)、フェリー、貨物船、民間航空機を積極的に利用する。民間事業者は台湾海峡や台湾の港湾、空港などについては解放軍よりも詳しい。
大陸側では、航空機への搭乗、船舶への乗船などは普段から動員演習を繰り返しており、彼らにとって作戦と演習に少しも違いはない。大陸各地で準備した兵力を高速鉄道によって沿海部港湾に一斉に移動させ、進攻前日に乗船させれば十分に間に合う。高速鉄道のターミナル駅は兵員移動を容易にするため広大なホームが多数準備されている。無駄にも見える高速鉄道網を、この日のために整備してきたのだ。港湾もそうだ。
米国がこちらの軍事行動を察知するリスクはどうか。上陸作戦を阻止するための兵力を米国が24時間以内に台湾近傍に派遣することは、距離的・時間的に不可能である。つまり電光石火の作戦ならば、十分に勝算はある。日米ともに大規模な部隊を沖縄に配備しているわけではない。
作戦初日の夜、大陸側のCCTV(中央電視台)ニュースで、台北への空襲や、基隆港(台北の東部に位置する主要港)や桃園国際空港に上陸する解放軍の映像を流せば、大陸の人民は歓喜し、習主席に対する支持と信頼は一挙に高まるだろう。
攻めた後は守りを固める
米国などとの交渉は国務院に任せ、武警(中央軍事委傘下の武装警察)による台独分子の摘発・排除を進め、解放軍は民間企業を動員し台湾防衛のための諸施設の建設を早期に開始する。一気呵成に攻めた後は、守りを固める。
習主席が決断すれば、躊躇せず忠実に実行する。その務めを果たすのが中国人民解放軍である。
筆者の視点:西側の見方は当然、異なる。日米は中国軍の兆候を事前に察知できるだろうし、台湾軍や台湾市民はウクライナ同様に徹底的に抵抗する。国際社会はそうした台湾を見捨てることはないだろう。しかし中国が見ている世界や戦争遂行のための軍事的合理性は必ずしもわれわれと同じではないことも理解しておくべきだろう。