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チェコに登場、欧州初「中国製電車」数々の問題点

長期間認可出ずやっと運行、見かけは立派だが
橋爪 智之 : 欧州鉄道フォトライター
2024年02月10日

中国中車(CRRC)製の新型電車「シリウス」665型。2024年2月、チェコのレギオジェットで試験的な旅客営業運行を開始した(撮影:橋爪智之)


チェコの民間列車運行会社レギオジェットは2024年2月5日、中国中車(CRRC)製新型電車「シリウス」665型の試験的な旅客営業運行を開始した。
中国メーカー製の旅客用鉄道車両が乗客を乗せてヨーロッパ圏で営業運行を行うことは史上初めてのことで、地元チェコをはじめヨーロッパ各国の鉄道系メディアが一斉にこのニュースを報じるなど、大きな注目を浴びた。
これまで秘密のベールに包まれていたCRRCの新型電車シリウスはどんな車両なのか。実際に乗車して、その乗り心地などを確認してみた。
当初発注した鉄道会社は「契約破棄」
シリウスは2016年、同じチェコの民間運行会社レオ・エクスプレスによって3編成が発注され、2019年に製造された6両編成の連接式車両で、直流3kVと交流25kV 50Hzに対応した複電圧式となっている。最高速度は時速160kmで、将来的には近隣諸国への乗り入れも検討されていた。
2019年9月からは運行認可を取得するため、チェコ国内にあるVUZヴェリム試験場でテストが続けられていたが、2年以上経過しても運行認可を取得できず、2022年4月にはレオ・エクスプレスとの契約が破棄されたことが伝えられた。
皮肉なことに、その数カ月後にシリウスはチェコ国内の走行認可をようやく取得することになるが、その時点ではすでに契約を切られており、行き場を失った状態となっていた。
そこへ救いの手を差し伸べたのが、同じチェコのレギオジェットであった。レオ・エクスプレスとの契約解消後、CRRCは自費でテスト走行を続けていたが、レギオジェットがテスト走行をサポートすると報じられた。2024年に入ると、車体がレギオジェットとして登録され、乗客を乗せた試験走行が現実味を帯びてきた。
最終的に、2月5日から3~4カ月間をメドに、チェコ国内のコリーン―ウスティ・ナド・ラベム間の快速列車R23路線で、試験的な旅客営業を行うことが決定した。今回の運行は、チェコ鉄道庁の許可の基に行われ、合計で5万km走行させることを目標としており、あくまで走行距離を稼ぐための試験的な運行となっている。
国際線航空機並みのビジネスクラス
シリウスは6つの車体を有する連接式で、レオ・エクスプレスで採用されているスイス・シュタドラーのFlirtや、アルストムのコラディアなどと同様のカテゴリーに位置する電車だ。
基本的には運転席背後の部分を除いて低床式となっているが、構造上、100%フルフラットではなく、車椅子で移動する必要がない部分には段差がある。自転車や乳母車などを置くスペース、車椅子対応トイレなども設置されている。車両そのものはTSI(相互運用性の技術仕様)に準拠しており、理論上はヨーロッパ各国での運行が可能となっている。
クラスは、上級座席と通常座席が用意されているが、実際の運行ではレギオジェットの料金カテゴリーであるビジネス(1等)とローコスト(2等)に分けられている。
ビジネス用の座席は、窓側と通路側が交互に配置された、実質的には1+1配列となっており、隣の座席部分には大型のテーブルが配置されている。窓側の人が出入りをする際に通路側の人に配慮する必要がない、飛行機の長距離国際線ビジネスクラスと同様の座席配置、と言えば想像しやすいだろうか。
リクライニングは電動式で、傾斜角度はそれほど大きくはないが、ただ背面が倒れるだけではなく座面も適度に後方へ下がるため、お尻がホールドされ非常に掛け心地は良い。また、フットレストではなくレッグレストが装備されている点も注目で、これは現在運行されているヨーロッパ内の多くの列車でもあまり見かけない。互い違いの1列シート以外にも、グループ向けに対面となっている座席もあり、さまざまな工夫が見られる。
一方のローコスト用座席はとくに特徴はないが、1方向向けの固定座席から、テーブルを配置した対面座席など何種類かのバリエーションがある。また、一部の対面式座席には、隣席と一体になったベンチシートも用意されている。ビジネス、ローコストともに各座席に充電用コンセントが配置されているが、ローコスト用座席は隣り合った2つの座席の間に奥まって設置されており、少々見つけづらかった。
また、今回の営業では実際に販売はされなかったものの、通常の2等座席とは別に、背もたれと小さな座面だけを有する簡易座席が設けられていたのは非常に興味深い。以前、LCC(格安航空会社)で開発が試みられた、短時間の搭乗の際に寄りかかって使用するための座席で、航空業界では安全上の問題で採用されなかったものだ。
実際に使ってみたが、普通に立つよりは楽でスペースも有効に活用でき、通勤電車なら一部にこういう座席があっても面白いと感じたが、この列車のような都市間移動に必要かどうかは疑問が残る。超低価格で販売をするのであれば、新たな試みとしては面白いかもしれない。
拭えない「低質感」と耐久性への不安
では、ヨーロッパ各国のメディアの反応はどんなものだったのか。
全般的に、あまり高評価は見られなかったが、まず各誌の試乗インプレッションに共通していたのは、どの座席もヨーロッパの人たちの体格で考えると狭く小さい、と評されていたことだ。身長180cm以上ある筆者の感想としては、確かにローコスト用の座席はなかなか狭いと感じたが、ヨーロッパにはTGVに代表されるように、非常に窮屈な座席の列車がいくつかあるので、そう考えれば言うほどに狭く小さいとまでは感じなかった。
内装がチープで貧相、という意見も多く見られた。地元チェコのメディアを筆頭に、プラスチックの質感が丸出しで、安っぽいと散々な評価が見られたが、実際にそれは筆者も感じた部分だった。とくにローコスト座席の座席背面テーブルは、まるで食堂のお盆のような印象で、耐久性に問題がないか心配になった。いわゆる「目隠し」「飾り」のようなものがないことが低質感を与えている印象だ。
細かい部分を挙げると、例えばビジネス用座席の場合、自席の前は前の座席のテーブル部分になり、レッグレストの足が収まる構造となっているが、その空間に前の座席の配線(電動リクライニングや読書灯など)がむき出しで垂れ下がっているのが見えてしまっている。一歩間違えれば、足で配線を引っ掛けてしまいかねない。
通常ならカバーをかけたり、壁に打ち付けて足で引っ掛けないようにしたり、という配慮がなされている部分だ。これは日本のメーカーで言うところの「お客様にビスが見えないような配慮」といった細かい部分であり、このような点を気にするのは日本人的な感覚かと思っていたが、ヨーロッパの人たちも同様の印象を持ったようだ。
現地では、「ローコスト座席にコンセントがなかった」という報道も見かけた。実際には前述の通り、隣の座席との間の奥まった場所に設置されているのだが、気付きにくい場所に設置する場合は、きちんと明記する配慮が必要かもしれない。
テーブルの脚が浮いている…
では、実際に乗車した筆者の印象はどうだったか。印象や意見というものは個人の主観が入ったものとなりがちだが、ここから記すことは忖度なしに、あくまで客観的な立場からの公平な見解である。
まず内装などの造りであるが、いろいろなタイプの座席を試すなど、意欲的な仕上がりとなっており、これは非常に評価できる点だ。とりわけ最上級のビジネス用座席は、今後ますます鉄道が見直され、長距離列車の復活も叫ばれている中、多くの鉄道会社が同様の座席を取り入れても良いのではないかと考えられる。
その一方で、現地メディアからも酷評されていた質感という部分においては、かなり改良を要する部分が見られた。前述の配線もそうだが、筆者が驚いたのは、ビジネス座席のサイドテーブルが足を動かしたり触ったりするたびに上下に大きく歪む点で、テーブルの下には脚も付いているのになぜ揺れるのかとよく観察してみたら、なんと脚が床に固定されておらず、1cmほど浮いた状態になっていた。なぜこんなお粗末な構造になっているのかまったく理解できない。
ビジネスクラスは運転席の直後に設置されているが、ちょうど動力台車の直上にあり、モーターの音が直接車内に響き渡る点も問題があると感じた。遮音性が悪いということもあるのかもしれないが、最上級の座席であれば、可能な限り騒音源から極力離れた場所に配置するか、せめて防音対策をきちんとしたほうがいいのではないだろうか。
現地の報道ではスムーズで静か、と語られていたが、実際にローコスト座席の方は比較的静かで、各クラスの配置を含め、再検討すべき部分だろう。
走行時の激しい衝撃、安全性は?
最後に、筆者の視点から見て致命的と感じたのが、走行に関わる部分だ。
シリウスは連接式を採用しているが、走行中、特にカーブやポイント部分を通過する際に、車体が壊れるのではないかというほどの大きな衝撃がたびたび発生した。これはダンパー性能の問題なのか、車体構造上の問題なのかわからないが、試乗した数時間の間に何度も発生しており、思わず身構えるほどであった。
現在、試験運行を行っているコリーン―ウスティ・ナド・ラベム間は、貨物列車が多く走る重要な幹線の一つで、線路状態もきちんと整備されている。また、運転最高速度は時速120kmで、車両性能上の最高速度である時速160kmで走ることはない。いわば、テストで慣らし走行するには適度な路線であるが、そのような路線でこれだけ激しい衝撃を感じるというのは尋常ではなく、認可取得遅延の原因の一つではないかと考えられる。
はたして、これが現場の調整だけで修正できるものなのか。今回の試験走行でいろいろな課題が見えてきたが、まずは安全に走行させることを最優先に改良を進めない限り、この新型車両に希望は見えてこないと強く感じた。