Shinzo-Returns

安倍総理の志は死なない!!

日米首脳会談で菅首相が踏んだ踏み絵の意味

出されたのはハンバーグ・ランチのみ
 菅義偉総理大臣とジョー・バイデン米大統領による初めての日米首脳会談が行われた。
 異例だらけの日米首脳会談で両首脳は何を話し、どんな約束をしたのか。菅氏は記者会見では「やり取りの詳細については外交上、明かさない」と突っぱねた。
 表に出ては国民向けにも中国向けにも支障が出るような発言や密約があるのだろうか。機密文書は30年経たねば解禁されない。つまり30年間国民は知らされないことになる。
 新型コロナウイルス感染症のパンデミックス禍で公式の昼食会も晩餐会もなし。ジル・バイデン夫人も顔を見せなかった。
 両首脳は2人だけでハンバーグ・ランチを食べた。
 異例と言えば、菅氏は大統領に会う前にカマラ・ハリス副大統領をホワイトハウスに隣接するアイゼンハワー行政府ビルの副大統領室に表敬訪問したことだ。
 何やら外国訪問など外交面でのハリス氏の今後の積極的な活動を暗示している。
 首脳だけのテタテ(1対1)会談、外務閣僚らを入れた少人数会議、拡大会合を合わせると2時間50分。
 会談後に発表された共同声明(U.S-Japan Joint Leaders' Statement:"U.S.-Japan Global Partnership for a New Era")は英文で2500字の長文。実務事項びっしりの外交文書だ。
 共同声明は共同宣言に次ぐ国家間の最重要文書だ。
(https://www.whitehouse.gov/briefing-room/statements-releases/2021/04/16/u-s-japan-joint-leaders-statement-u-s-japan-global-partnership-for-a-new-era/)
 これだけ詳細な実務事項を盛り込むには、事前に閣僚、事務レベルでの綿密なすり合わせがあったといっていい。
 内容は台湾海峡に始まり新疆ウイグル自治区、香港、尖閣諸島、半導体サプライチェーン、気候変動、東京五輪、普天間米空軍基地の辺野古移転まで、今後5年、10年の日米間の約束事を網羅している。
 首脳会談直前まで日本メディアの外交通と称する連中はこう見ていた。
「ウイグルや台湾、ミャンマーといった厄介な問題に深入りするのを避けて、半導体サプライチェーンや気候変動問題などで日米同盟が強固なことを世界(中国)にアピールすることでお茶を濁せるだろう」
 ところがどっこい。舞台裏では、米側は日本側に「中国の脅威」に対する危機感を大いに煽った。危機感は生半可なものではなかった。
 中国の脅威、特に台湾海峡周辺で中国が繰り広げている軍事威嚇行動に米国は神経をとがらせてきた。一触即発の危険性すらあるとみている。
 今回の共同声明では「台湾」は対中戦略の主軸となる最重要なパーツ(部品)だった。
 バイデン政権の外交当局者とは密接な関係にある主要シンクタンクの研究員、T氏は筆者にこう指摘している。
「バイデン氏が『台湾明記』に自信を深めたのは3月中旬だった。対中スタンスでは慎重な日本も乗って来ると確信したのは、3月16日の2プラス2(日米安全保障協議委員会)での日本の外務・防衛閣僚の対応だった」
「『台湾海峡の平和と安定の重要性についての認識を共有する』ことに合意したからだ。閣僚レベルでの合意事項が首脳同士で覆されることはあるまい、というわけだ」
「共同声明に『(台湾海峡)両岸問題の平和的解決を促す』という文言を入れるよう要求したのは日本側だが、これに米国が異議を申し立てる正当な理由はなかった」
「挑発しているのは中国なのだから、中国が矛を収めればこれに越したことはない」
人権、対中制裁は煙幕
 もう一つは、菅氏を迎え入れたバイデン氏のきめ細かい受け入れ態勢だった。
 バイデン政権の最優先議題になっている人権問題をめぐって米メディアは菅政権の対応に厳しい目を向けてきた。
 バイデン政権は、新疆ウイグル自治区での中国のウイグル族抑圧を「ジェノサイド」だとまで言い切り、制裁措置に踏み切っていた。欧州共同体(EU)はじめG7加盟国は日本以外全員が制裁に同調した。
 こうした中で、バイデン政権は政府高官による記者向けの事前説明などで日本には対中経済依存度などデリケートな理由があることを指摘するなど異例の根回し工作までしていた。
(https://www.whitehouse.gov/briefing-room/press-briefings/2021/04/15/background-press-call-by-a-senior-administration-official-on-the-official-working-visit-of-japan/)
 首脳会談後の記者会見も極端に記者の人数を制限するなど、通常の米国式記者会見とは趣を異にしていた。米記者団からは人権に対する質問は一切なかった。
 なぜ、そこまでバイデン氏は気を使ったのか。
 それよりも何よりもバイデン氏が菅氏をホワイトハウスに招き入れる最初の外国首脳に選んだ理由は何だったのか。
 ブルッキングス研究所東アジア政策研究センター所長のミレヤ・ソリス博士はこう指摘している。
「バイデン政権としては、日本が地域的、世界的なチャレンジに立ち向かう不可欠な同盟国としての地位を確固たるものにし、インド太平洋戦略が日本にとって最優先議題であることを再確認させようとした」
「日米は同盟関係を深化させており、責任分担する準備も整ってきた。中国のチャレンジを戦略的に抑え込むことでも両国は収斂している」
 先の2プラス2で日本が中国の独断的行動が国際秩序を不安定化させているという米国に同調、特に台湾海峡の安定の重要性を強調したことは多くの人々を驚かした」
(https://www.brookings.edu/blog/order-from-chaos/2021/04/13/suga-biden-summit-to-rekindle-can-do-spirit-of-the-us-japan-alliance/)
 外交専門家の間には、これまで国際政治を動かしてきた米国と中国を指す「G2」(Group of Two)という表現はいよいよ米国と日本に当てはまると主張する者も現れている。
(https://www.japantimes.co.jp/opinion/2021/04/15/commentary/japan-commentary/china-u-s-quad-indo-pacific-development-aid/)
 佐藤(栄作)・(リチャード・)ニクソン時代から日米首脳外交をフォローしてきた在米日系ジャーナリストG氏はこう見ている。
「日本人が日本重視を買いかぶりと失笑するかどうか。かつて日本は自分のことをを米国の『サイレント・パートナー』(日本語英語で何も言わずに黙ってついていくパートナーという意味)などと自虐的に言っていた時期がある」
「だが今や日本は米国の『ポジティブ・パートナー』(積極的に参画するパートナー)になった。今回の首脳会談はそれを再確認するターニング・ポイントになった」
「『台湾明記』はただ中国を激怒させただけでなく、米国、そして世界に日本の存在の大きさを見せつけたと言っていいかもしれない」
 バイデン政権が欲しかったのは、新疆ウイグル自治区でのウイグル族や香港の人権問題でも、そのための対中制裁措置でもなかった。
 どうしても日本に台湾問題について米国の危機感を共有してもらいたかったのだ。その「証文」が欲しかった。
 日本はその「証文」に判を押した。
香港は台湾併合シナリオのタイムライン
 米国がいかに台湾海峡情勢に危機感を抱いているか。その好例が米議会の超党派の対中スタンスだ。
 上院外交委員会は中国に対応するための包括法案を4月24日に採択し、直ちに本会議に上程、可決・成立させる。
「米議会の認識」(Sense of Congress)を示すという位置づけで、法的拘束力はないが、バイデン政権の対中政策に少なからぬ影響を及ぼすことは間違いない。
 法案名は「2021年戦略的競争法案」(Strategic Competetion Act of 2021)。
 ボブ・メネンデス外交委員長(民主、ニュージャージー州選出)とジェームズ・リッシュ筆頭委員(共和、アイダホ州選出)が共同提案した民主、共和両党が超党派で提出する初の本格的な対中政策法案だ。
(https://www.foreign.senate.gov/imo/media/doc/DAV21598%20-%20Strategic%20Competition%20Act%20of%202021.pdf)
 同法案は台湾については、こう指摘している。
「中国の香港での人権弾圧は、台湾併合に向けたシナリオのタイムラインを実践している。台湾防衛は今やより緊急を有する優先事項だ」
「台湾防衛は、①台湾の人々を守り②中国軍を対米防衛線である第1列島線内に抑止し③日本の領土保全を防衛④中国軍の広範囲にわたる軍事的野望を阻止し⑤台湾の自由市場体制と民主的価値観を守る擁護者としての米国に対するクレディビリティ(信頼性)を堅持する――といった目的にとって死活的に重要である」
 本法案には何と「台湾」が47回も出てくる。
民間の軍事技術開発を促進、日米基金構想
 2プラス2を受けて首脳会談で合意した「台湾海峡の平和と安定の重要性」について認識を共有したバイデン大統領と菅首相。
 台湾情勢が緊迫し、在日米軍が出動すれば、日本は何をするのか。日本も安全保障関連法に基づき、米軍の後方支援を行うことになる。
 日本が米軍に補給できる「重要影響事態」の要件は、日本の平和と安全に重要な影響を及ぼす状況だ。
 前述の「2021年戦略的競争法案」には、日本に何を期待するかについての記述がある。バイデン政権が今後、具体的にどのような対日要求をしてくるか、を示唆している。
一、インド太平洋戦略での米国のパートナーシップを強化するステップとして、日本が以下の分野での自主開発を促進させることをサポートする。
①長距離精密火力(LRPF)
②弾薬
③対空、対ミサイル防衛能力
④全領域での米軍とのインターオペラビリティ
⑤インテリジェンス・偵察・索敵能力
二、日米安全保障目的のために資する民間セクターによる新技術開発を促進させる「日米技術刷新基金」の創設。
 菅バイデン首脳会談で署名された共同声明の文言の行間には、「40年来の米国の曖昧な対中戦略に終止符を打ち、中国に力で対抗すべきだ」(リチャード・ハース外交問題評議会会長)とする米国の意気込みがにじみ出ているとみるべきだろう。
(https://www.foreignaffairs.com/articles/united-states/american-support-taiwan-must-be-unambiguous)