Shinzo-Returns

安倍総理の志は死なない!!

日米首脳会談で歴史的声明、日本は覚悟を決めるとき

JBpress 提供 ホワイトハウスでの記者会見に臨む菅義偉首相とジョー・バイデン米大統領(2021年4月16日、写真:ロイター/アフロ)
(岩田 清文:日本戦略研究フォーラム顧問、元陸上幕僚長)
 ホワイトハウスにおける日米首脳会談(日本時間4月17日)は、日米同盟の更なる進化に向けた共同声明を発出し、中国に共同して対抗する姿勢を強く打ち出した。これは歴史的にみても日本の針路に舵を切る大きな結節となるであろう。
 安全保障の観点からは、3つの成果がある。
 第1に、日本が同盟及び地域の安全保障を一層強化するために自らの防衛力を強化することを決意したことだ。防衛においてまず重要なのは、自らが自分の国を守る強い意志を持ち最大限の努力を払うことであり、当然のことではあるが、「同盟及び地域の安全保障を一層強化するため」と防衛の意義を明確にした点は重要だ。また同時に米国による核を含む拡大抑止の支持を再確認したことも、米国の抑止力に大きく頼る我が国として欠くことのできない防衛の柱である。
 第2は、尖閣諸島に対する日米安全保障条約第5条の適用を共同声明において再確認したことも意義がある。中国が尖閣に手を出せば米国が出てくるという構図を明確にすることは、中国に対して大きな抑止力となる。
 第3として、台湾海峡の平和と安定の重要性を強調したことは歴史的にも意義が大きい。共同声明で台湾に言及したのは、1969年の佐藤総理大臣とニクソン大統領の会談以来およそ半世紀ぶりである。1972年の日中共同声明以降は、台湾問題を議論することさえ憚られてきたが、この声明により、今後台湾海峡の平和と安定に資することを目的とする様々な検討・研究・調整等がスタートされることが期待できる。
 これら3点は、増大する中国の脅威に対し日米が同盟を深化させて対応する強いメッセージを中国に示すこととなり、自由・民主主義・人権・法の支配を蔑(ないがし)ろにして覇権を拡大し続ける中国に対し、明確に対峙姿勢を表明した意義のある声明になるものと思う。
中国の反発と対抗的施策は必至
 期待の反面、今後日本として抱える課題は大きいものがある。それは日本が「覚悟」を持てるかどうかということである。
 その1つとして、今回の声明に対応した中国の反発及び報復は強いものが予想されるが、それに対して日本が折れることなく共同声明内容の具現化に徹しきれるかどうかが問われるであろう。中国は軍事的威圧のみならず政治・外交・経済・技術をはじめあらゆる分野において、対抗的施策を講じてくるものと思われる。
 特に我が国の輸出入総枠の約21%、全体の1位を占める中国との経済的繋がりに脅しをかけてくる可能性は高い。経済関係者からの悲痛な要望の声も大きくなることは必然である。
 しかし、日本防衛、尖閣諸島擁護、そして台湾を含む地域の安定を米国に頼りながら、裏では経済関係において中国に摺り寄ることは国家の生き方として許されるものではない。
 また声明では重要技術を育成・保護しつつ、半導体を含む機微なサプライチェーンについて連携することも明記されたが、このような経済・技術安全保障の観点も含め、中国との関係を見直していくべきである。もちろんこれまで緊密に結ばれてきた日中両国の経済基盤が直ちに切れるものでもなく性急な変化は混乱を招くだけである。政府の覚悟を持った明確な方針の下、逐次サプライチェーンのあるべき方向に是正を図って行くべきである。
日本に不可欠な防衛力強化と米軍支援
 第2は、日本がどこまで真剣に防衛力を強化する意思があるかである。菅総理は、総理就任後も具体的な防衛力強化の方向性は示していないと認識している。安倍前総理が退任時に「総理の談話」において、2020年末までに方向性を出すと明示されたミサイル阻止力(敵基地攻撃力)の検討もなおざりにされたままである。攻撃力保有に慎重な公明党への配慮と聞くが、秋までに実施される解散総選挙まで放置していい問題ではない。国の存続に関わる重要な安全保障問題であり、また共同声明で決意を示した自らの防衛力強化である。これは、中国、北朝鮮そしてロシアが保有する極超音速滑空兵器に対して防御手段がないため、憲法でも保有を許されるとするカウンターパンチ力、すなわち敵基地攻撃力を持とうとするものである。相手に撃たせない抑止力を保持することをなぜためらうのか。防衛手段を持たないまま同盟国に頼って放置し、自ら防衛力を強化しない日本を米国民は助けようとは思わないだろう。直ちに方向性を決定し、日米同盟における役割見直しにも着手すべきである。
 第3は、台湾問題への日本の関与の在り方である。これまで中台紛争生起の可能性が極めて高いとされながら、公式な議論・調整もできず、仮に紛争が生起して日本に波及したとしても何も準備されていないという国家危機管理上最悪の状態にあった。中台紛争が生起すれば、日本は巻き込まれ有事となる。台湾から約110kmしか離れていない与那国島上空一帯に中国・台湾の戦闘機が戦闘状態で侵入してしまう確率は高く、その際は防空に任ずる空自戦闘機との対峙は免れない。
 また日本は「重要影響事態法」を根拠とし、在日米軍基地を拠点にして戦力を台湾に投射する米軍に対し弾薬供与、燃料補給などの後方支援をすることが、地域の安定、日米同盟の堅持、そして何よりも日本防衛のために極めて重要である。
 このような状況においては恐らく凄まじい中国の報復や妨害が予測され、2010(平成22)年の中国漁船船長逮捕時のように、中国の日本に対するレアメタル輸出停止や人質外交に発展してしまうことは明らかである。しかしそれに屈することなく、米軍支援を継続しなければ地域の安定は回復できない。また台湾在住の約2万人の邦人、そして日本人旅行者約2万人を速やかに日本に帰国させなければならないが、その計画も調整もできていない現状だ。
まさに覚悟を決める時
 今述べたのは一例であるが、今回の声明を機に、台湾有事における日本として独自に準備すべき事項、及び日米共同のあり方と必要な日米共同の計画、そして台湾との連携の在り方等に関し検討・研究・調整を促進すべきである。
 どの課題をとっても、中国に立ち向かう「覚悟」がなければ、真に国民の生命を守り、そして日本の国益を守る具体策は実現できない。まさに覚悟を決める時だ。


[筆者プロフィール] 岩田 清文(IWATA Kiyofumi)
 1957(昭和32)年、徳島県生れ。1979年、防衛大学校卒業。同年、陸上自衛隊に入隊。第71戦車連隊長、陸上幕僚監部装備計画課長、富士学校機甲科部長、中部方面総監部幕僚副長、陸上幕僚監部人事部長、第7師団長、統合幕僚副長、北部方面総監、2013年、第34代陸上幕僚長を歴任し、2016年、退官。現在、JFSS顧問。
 著書に『中国、日本侵攻のリアル』(飛鳥新社)、共著に『自衛隊最高幹部が語る 令和の国防』(新潮社)がある。
◎本稿は、「日本戦略研究フォーラム(JFSS)」ウェブサイトに掲載された記事を転載したものです。