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温暖化対策「優先すべきはEVより窓交換」の真実

新技術に期待するより確実に見込める省エネ
バーツラフ・シュミル : マニトバ大学(カナダ)特別栄誉教授
2021年04月22日

住宅のエネルギー消費で最もロスが多い「窓」を省エネ対応の製品に交換する効果は大きい。(写真:kker/PIXTA)


世界のリアルな姿を捉えるには、数字をチェックするのがいちばんわかりやすい。今回は地球温暖化対策として効果的なのは、どんな施策なのか、バーツラフ・シュミル氏が新著『Numbers Don’t Lie』を基に解説する。
前回:「技術革新の追求を礼賛する人」に伝えたい真実
前々回:「北欧は幸福度が高い」と思う人に教えたい真実
最善の省エネ策は「三層ガラス窓」
確立されていない技術で問題を解決しようとするのは、エネルギー政策にとっては災いのもとだ。ソーラーパワーで走る自動運転車、安全性がきわめて高い小型原子炉、遺伝子操作による光合成強化など、例は尽きない。
それなら、効果のほどが実証されている技術から利用するほうがいい。それも、エネルギーの需要を減らせる技術を活用するのが手っ取り早い。まずは、住宅や商業施設といった建築物から工夫してみよう。
というのも、アメリカでもEUでも、一次エネルギー消費の約40%は建築物によるものだからだ。なかでも、住宅のエネルギー消費の約半分は冷暖房によるものであることを考えれば、わたしたちにできる最善の省エネ対策は、もっと性能の高い断熱材を利用して、熱が室外に出ていかないように(あるいは室内に入ってこないように)することだ。
断熱材が最も効果をあげる場所は、エネルギーロスが最も多い窓だ。温度の異なる流体(空気)が壁や窓を介して接する場合、温度の高いほうから低いほうへと熱伝達が起こるが、この移動しやすさをあらわす数値を熱貫流率という。壁や窓の表面1㎡を1秒間で通過する熱量をあらわすワット数を、その両側の絶対温度差ケルビンで割ったものである。
さて、1枚の窓ガラスの熱貫流率は5.7~6W/㎡K(ワット毎平方メートル毎ケルビン)で、6ミリメートルの中空層を挟む二層ガラス窓の熱貫流率は、あいだに熱を伝えにくい空気があるため3.3になる。
紫外線と赤外線の透過を最少にするコーティングをほどこすと熱貫流率は1.8~2.2まで下がり、さらにガラスのあいだの空気層にアルゴンガスを封入して熱伝達の速度を下げると、1.1まで下がる。
三層ガラス窓に同様の処理をほどこせば、0.6~0.7にまで下げられる。アルゴンガスより断熱性能の高いクリプトンガスを封入すれば、0.5にまで下げることも可能だ。
つまり三層ガラスを利用すれば、ふつうのガラス窓1枚だけの場合より、熱の損失を最大90%減らせるようになる。省エネルギーの世界では、数十億(枚)という単位の対象物で活用できる手法などほかにない。それに、実際に省エネ効果があることがわかっているのだ。
さらに、複層ガラスがあれば快適に暮らせるというおまけもついてくる。
例えば外気温がマイナス18℃(カナダのアルバータ州エドモントンなら1月夜間の気温で、ロシアのノボシビルスクなら日中の気温)で、室内温度が21℃だとすると、1枚ガラス窓の室内側の表面温度は1℃前後、昔ながらの二層ガラス窓では11℃、最高品質の三層ガラス窓なら18℃だ。
ガラスの表面温度がそれだけ高ければ、窓のすぐそばに座っていても快適にすごせるというものだ。
三層ガラス窓には、室内側のガラスの表面温度が露点を超えるため、結露が発生しにくくなるという利点もある。スウェーデンやノルウェーではすでに普及しているが、カナダでは安価な天然ガスを利用できるため、2030年までに義務化されることはないかもしれない。また、ほかの寒冷地の自治体でも、Low-E二層ガラス窓を基準としている程度のところが多い。
エアコン普及が進む今こそ必要な断熱の知識
寒冷地の国々は、これまで長い時間をかけて断熱について学んできた。一方、気候が温暖な国では断熱に関する知識があまり広がっていない。しかし、エアコンが普及しつつある今こそ、断熱に関する知識を広めなければならない。とりわけ中国とインドの地方の建築物では、いまだに1枚ガラスの窓がふつうなのだから。
もちろん、暑いときにクーラーをつけたときの気温差は、高緯度の地域でヒーターをつけたときの気温差ほどには大きくない。
例えばカナダのマニトバにあるわたしの自宅では、1月の夜間の平均気温はおよそマイナス25℃だから、就寝中にサーモスタットを切っていても、室内と外気の気温差は40℃もある。
高温地帯の冷房はそこまでの温度差をつくりだす必要はないから、時間当たりでいえば、そのためのエネルギーは相対的に小さくてすむだろう。とはいえ、高温多湿の地域でエアコンをつける時間は、カナダやスウェーデンでヒーターをつける時間よりもだいぶ長いため、やはりエネルギーを消費する。
複層ガラス窓の断熱効果が高いのは、物理学的に考えれば異論のないところではあるが、問題となるのは費用だ。そうはいっても、三層ガラス窓は昔ながらの二層ガラス窓より15%ほど費用が高いだけだし、その見返りも十分ある。
にもかかわらず、二層ガラス窓を三層ガラス窓に交換する手間をかけるまでのことはないと思われている。三層ガラス窓に替えれば、快適に暮らせるようになるうえ、窓ガラスに結露もできにくくなるというのに。それに、なんといっても三層ガラス窓を導入すれば今後数十年にわたってエネルギー消費量を減らせるのだ。
そもそも、世間では先見の明があると言われている人たちでさえ、なぜ新たなエネルギー変換技術といった見通しの悪いテクノロジーに資金を投じたがるのだろう? 実際にうまくいくかどうかわからないし、仮にうまくいったとしても、環境に悪影響を及ぼしかねないというのに。シンプルな断熱技術を活用するほうが、よほど効果があるというものだ。

複層窓ガラスの構造(画像提供:NHK出版)
たいていの人は効率のいい新技術に目を向ける
地球全体の気候を長期的にシミュレーションする現在の気候モデルが正確だとして、温暖化による深刻な事態を回避するために産業革命後の気温上昇を2℃(できれば1.5℃)までに抑えなければならないのであれば、試したことのないさまざまな手段を講じて炭素排出量を減らすしかない。
そのために、たいていの人は効率のいい新技術に目を向ける。例えば、発光ダイオード(LED)のような高効率の技術や、電気自動車のようなまったく新しいエネルギー変換技術の導入に熱心に取り組むというわけだ。
省エネのほうが現実的な解決法ではあるのだろうが、残念ながら、世界の寒冷地でこれまでずっと最大のエネルギーを消費してきたもの、すなわち住居の暖房の効率を上げる方法は、三層ガラス窓を除けばほとんどない。
住居に暖房器具を必要とする人の数は、世界で約12億人。EU、ウクライナ、ロシアに約4億人、北アメリカ(アメリカ南部と南西部を除く)にさらに4億人、そして中国の東北部、北部、西部地域にさらに4億人。しかし、既存のどんな暖房技術に目を向けても、今以上の効率化はまず望めそうにない。
これまでの歩みを振り返ると、効率のいい暖房器具が登場するたびに、驚くほどのスピードで普及していったことがよくわかる。
例えば1950年代、チェコとドイツの国境近くで暮らしていたわが家は重い鋳鉄製の薪ストーブで部屋を暖めていた。この薪ストーブの熱効率はせいぜい35%で、残りの熱は煙突から逃げていってしまう。
1960年代初頭となり、わたしがプラハで研究に打ち込んでいたころ、この都市はもっぱら褐炭という低品質の石炭を暖房に使っていて、わたしが褐炭をくべていたストーブの熱効率は45~50%だった。
そして1960年代後半、わたしたち夫婦はアメリカのペンシルべニア州で暮らしていた。住まいは郊外の小さな家の上階で、そこの古いセントラルヒーティングの暖房ボイラーは石油を燃料としていて、熱効率は55~60%といったところだった。
1973年、わたしたちがカナダに渡って最初に住んだ家には熱効率が65%の天然ガスのボイラーがついていた。その17年後、こんどはもっと新しくて効率のいい家に引っ越したので、熱効率94%のボイラーを設置した。そして、ついには97%の熱効率のボイラーに交換したのである。

天然ガスの暖房ボイラーの内部構造(画像提供:NHK出版)
天然ガスへの移行が進む
このようにわたしたち夫婦は自宅の暖房器具に関して、燃料においても効率性においても数年おきに改善を続けてきたわけだが、北半球に暮らす数千万もの人たちも同様の体験を重ねてきた。北アメリカでは天然ガスが安価である。
ヨーロッパでもオランダ、北海、ロシア産のガスを混合して利用できる(北アメリカより高価だが入手しやすい)ので、北部の寒冷地に暮らす人たちの大半は、薪、石炭、燃料油の代わりに、最もクリーンな化石燃料である天然ガスに頼るようになった。
カナダでは、2009年に中程度の熱効率(78~84%)の暖房ボイラーの生産が終了し、新築の家屋には熱効率が90%以上のボイラーを設置しなければならなくなった。欧米諸国でもじきにそうした基準が設けられるだろうし、中国も天然ガスの輸入量を増やし、石炭から天然ガスへと移行しつつある。
よって、もっと効率化を進めたいのであれば、ほかのところに目を向けるべきだろう。
まずは、家の外に面している部分(とりわけ窓)の断熱性を向上させることが先決だ(費用が相当かかる場合も多いが)。また、大気中の熱を集めて、熱交換器を経由して熱を移動させるヒートポンプ式暖房機も多くの地域で普及しつつある。
ただし、この暖房機が有効なのは気温が氷点下まで下がらない場合だけ。それより下がればほかの器具を使わなければならない。太陽熱を利用するソーラーヒーターという選択肢もあるが、これは暖房器具を最も必要とする時季や地域ではあまり役に立たない。というのも、寒冷地で寒くてどんよりとした曇天が続いたり、暴風雨が吹き荒れたり、太陽熱モジュールが分厚い雪で覆われたりすると、機能しないからだ。
いちばん安上がりなのは「家の大きさに上限を設ける」
地球温暖化のスピードを落とすための取り組みは、長いあいだ続けられてきたし、これからも続いていくだろう。そこから、なにか想像を超えるような画期的なアイデアが生まれることが、はたしてあるのだろうか?
『Numbers Don't Lie』(NHK出版)
わたしとしては、最も費用がかからない、つまりいちばん安上がりの方策をここで提案したい。たしかに、暖房には炭素排出がついてまわる。だが、この方策を実施すれば、炭素排出量の削減に最大かつ最も長続きする貢献ができるはずだ。
その方策とは、家の大きさに上限を設けること。北アメリカではサブプライムローンによって簡単にローンが組めるようになると、マクドナルドのチェーン店のように画一的なデザインの「マック・マンション」と呼ばれるだだっ広い一戸建て住宅が大量生産された。
だから今こそ、とんでもなく床面積が広いこうした住宅の建設を禁止しようではないか。熱帯地方でも見られる同様の住宅をなくしてしまえば、むだに浪費している冷房費用も節約できる。さて、賛成の方は?