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安倍総理の志は死なない!!

リニアを阻む静岡県が知られたくない「田代ダム」の不都合な真実

2019/10/09 07:00


 静岡県が大井川の減水問題などを理由に、リニア中央新幹線の建設工事に「待った」をかけ続けている。国土交通省も「仲介役」として乗り出したが、解決の見込みは立っておらず、2027年に予定している品川―名古屋間の開業が危ぶまれてきた。
 愛知県の大村秀章知事は静岡県・川勝平太知事を徹底批判し、三重県の鈴木英敬知事も「今まで色々(いろいろ)な人たちが努力して積み上げてきたことにもう少し誠実に対応してほしい」と話すなど、異例の“同業者批判”が行われている。
 川勝知事への批判は他県からだけではない。お膝元・静岡県内からも噴出している。
 「川勝知事は、(リニアの工事により)大井川下流域の藤枝市や焼津市で汲(く)み上げている地下水が減ると、住民が生活に困ると指摘します。しかし、JR東海は、トンネルで発生した湧水は導水路トンネルで大井川に戻すと言っています。それを実行すれば、下流域の水資源利用に問題はないはずです」
 元島田市長で現在は県議会議員の桜井勝郎氏は話す。
 現在、桜井県議は無所属で、リニア中央新幹線に対しては、「賛成でも反対でもない」立場を取っている。
●川勝知事が言う「命の水」は減らない
 川勝知事は、大井川の源流部でトンネル工事を実施すると水量が減少し、大井川の水を利用する県民約62万人に影響が出る、と危機感をあらわにしている。
 その危機感のもとになった大井川の減水量について、静岡県側はJR東海側が最初に提出した環境影響評価準備書(13年)に基づいて「毎秒2t(トン)」の数値をあげている。この水量が減少すれば、東京ドーム1杯ずつ大井川の水が1週間で減ることになる。その水量が、県民62万人分の生活用水に匹敵すると静岡県は主張する。
 一方、JR東海の環境影響評価準備書を良く読むと、「最大で毎秒2t減水と予測」とあり、それも「覆工コンクリート等がない条件」というただし書きがある。
 「覆工コンクリート等」とは、トンネルを掘削する際に、壁面を覆工コンクリートや防水シート、薬液注入などによって湧水を極力低減させる技術で、リニアのトンネル工事には施設される。これらの工法は、国内各地のトンネル工事でも湧水を防ぐ効果をあげている。「覆工コンクリート等」の対策を施すことを考慮すれば、毎秒2tは減水しないものと考えられる。
 さらにJR東海は、トンネル開通後、トンネル湧水は全て大井川へ流すと明言しているため、川勝知事が言うところの「命の水」は減らないはずなのだ。
●「黙して語らない」大量の水
 川勝知事は、JR東海の南アルプストンネル静岡工区の湧水について「全量戻すこと」を主張して一歩も譲っておらず、最近になって「全量には工事中に湧く水も含まれる」という主張を始めた。重要なのは大井川の水を減らさないことで、工事中に発生する水を一滴ももらさず大井川へ流すことではないのではないか。
 大井川の平均流量(毎秒約75t)に比べ、工事中の一定期間、山梨側に流出する量(毎秒0.3t)が大井川中下流域に及ぼす影響が多いとは思えないと、トンネル工学を専門とする首都大学東京の今田徹名誉教授は中日新聞のインタビューで答えている。
 そもそも、トンネル工事で発生する湧水は、その工事による河川の減水分より多い。そのまま地中にとどまる水もあれば、水脈をたどって山梨県や長野県に流れている水もあるからだ。
 JR東海が環境影響評価準備書に記した「毎秒2t」の水量について、川勝知事は県民62万人の「命の水」と喧伝(けんでん)する。その水量については、JR東海があくまでも「最大で毎秒2t減水と予測」した数値であり、それも「覆工コンクリート等がない条件」での話なのだ。大井川水系で、常時、毎秒2tの水が減るわけではない。
 それほど「毎秒2tの水」を大切にする一方で、静岡県が「黙して語らない」大量の水がある。先述の桜井県議は打ち明ける。
 「トンネル工事で最大で毎秒2tの水が県民の命にかかわるというのなら、なぜ、(大井川上流にある)東京電力の田代ダムで毎秒4.99tの水を、導水路トンネルで(大井川流域ではない)山梨県側の発電所に送り、富士川に放流させるのでしょうか。今では山梨県側に放流する水量は、交渉によって5月から8月の間だけは毎秒3.5tに減らすことになりましたが、それにしても、田代ダムから県外に放出してきた水の量は毎秒4.99tで、JR東海で問題にしている毎秒2tの2.5倍です。地元マスコミも、田代ダムの水については、知っているのに報じないのはおかしい」
●「JR東海には敵対心丸出し」
 桜井県議は、平成30年12月の静岡県議会定例会(12月7日)で、田代ダムの水について川勝知事に質問をした。
 「知事は、JR東海には命の水と言われている大井川の水を一滴たりとも渡さないと言いながら、あの田代ダムから毎秒4.99t(が)東京電力の発電用として山梨県側に流れている。あの水はわれわれの命の水──大井川の水ではないのでしょうか」(カッコ内(が)は筆者補足)
 「その(田代ダムの)水には一切触れようとしない。同じ命の水なんです。JR東海には敵対心丸出し、東京電力には沈黙。これはどういうことでしょうか」
 田代ダムの水に関する質問には、川勝知事も難波喬司副知事も答えずじまい。交通基盤局長だけが、東京電力との交渉によって、大井川への放水量を増やした説明をするにとどまった。
 しかし、大井川への放水量が増えたのは、リニア中央新幹線の詳細が明らかになる前に、大井川流域市町長と石川知事(当時)が東京電力に対して、「水返せ運動」を行った結果なのだ。リニア中央新幹線の問題が起きた後で、川勝県政が放水量を増やしたわけではない。
 最近では、静岡県島田市の染谷絹代市長が、田代ダムから山梨県側へ流出している水について、JR東海から東京電力に働きかけて大井川へ戻すべきという主張をした。だが、リニア中央新幹線の工事が行われる大井川の上流部は、静岡県が管理している。従って、河川に関する許認可権は静岡県にあるので、JR東海に東京電力と掛け合うように言うのは、筋違いの話だ。
 そこで、静岡県広聴広報課に「JR東海に『最大毎秒2.0m3(t)』の減水を問題にしながら、田代ダムから導水して発電した水を山梨県側に『毎秒4.99m3(t)』もの水を放流することは問題ではないのでしょうか」と書面で質問状を送ったところ、次の回答が書面で返ってきた。
 「田代ダムでは、昭和3年より取水を開始しており、国土交通省の許可を受けて最大4.99m3/sの取水を行っています。発電取水による河川流量の減少について、県は、水利権更新の機会を捉え、ダムからの放流量を設定する取り組みを行っています。 
 平成15年2月に国、県、流域市町、発電事業者が参加する「大井川水利流量調整協議会」を設置し、取水に優先して確保すべき河川維持流量について合意し、平成17年度の水利権更新時には、季節に応じて毎秒0.43m3(t)/sから1.49m3(t)/sの水を、大井川へ流すことができました。
 平成27年度には、再度の水利権更新を迎え、協議会で議論を行い、河川維持流量を踏襲することを合意し、平成28年7月に水利権が更新されています」。
 山梨県側へ毎秒4.99tもの水を放流していることについて「問題か否か」を聞いたのだが、それに対しては明確には答えていない。
●「田代ダム関連について質問しないでほしい」
 取材を進める中で、静岡県が、議員やメディア関係者に対して、県議会の場や記者会見場などで「田代ダム関連について質問しないでほしい」と依頼していたという情報を耳にしたため、そちらについても静岡県広聴広報課に書面で質問状を送ったところ「申し訳ありませんが、事実関係が確認できませんでした」という書面回答が返ってきた。少なくとも「そのような事実はございません」とは言い切っていない。
 リニア中央新幹線は、2027年に品川(東京)・名古屋間(285.6キロ)を最短40分で結び、早ければ37年には、品川・新大阪間(438キロ)を最短67分で結ぶ予定だ。
 この計画が実現すれば、首都圏・中京圏・近畿圏が通勤圏となって、日本人口の半数を超える約7000万人の巨大都市圏(スーパーメガリージョン)が誕生する。巨大都市圏は世界をリードする経済圏となり、経済効果は地方にも波及すると期待されている。
 東海道新幹線とリニア中央新幹線の東名阪を結ぶ大動脈輸送が二重系化できれば、予想される東海・東南海・南海の巨大地震や頻発する自然災害にも鉄道での輸送が確保しやすい。
 静岡県にとってもメリットがある。災害時には、東西両方向から救援しやすくなる。また、リニア中央新幹線が全通すれば、東名阪を高速・短時間で結ぶという「のぞみ」の役割がリニアへ移るため、ダイヤに余裕ができ、静岡県内の駅に停車する東海道新幹線の「ひかり」と「こだま」が増発される予定ともいう。県内停車の「ひかり」が1時間に1本から30分に1本になるだけでも、静岡県民にとって格段に便利になるだろう。
 川勝知事を筆頭とした静岡県がやっていることは、静岡県民の利益になっているのだろうか。冷静な議論を求めたい。
編集部より:筆者が現地で取材した結果や静岡県への書面取材の結果を、関連記事の「静岡県知事の「リニア妨害」 県内からも不満噴出の衝撃【前編】【後編】」からお読みいただけます。
(河崎貴一 サイエンスライター)