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安倍総理の志は死なない!!

尖閣侵入に慰安婦像、隠し切れない中国・韓国の外交オンチ

 日本と比べて中国の外交は老練で強(したた)かだ──よく聞く意見だが、本当にそうなのか? ベトナム・ビングループ主席経済顧問、Martial Research & Management Co. Ltd., チーフ・エコノミック・アドバイザーの川島博之氏(元東京大学大学院准教授)は、実は中国は外交が下手だと唱える。歴史をさかのぼると見えてくる極東アジア諸国の外交の欠陥とは? 川島氏の著書『極東アジアの地政学』(育鵬社)から一部抜粋・再編集してお届けする。(JBpress)
「尖閣への公船侵入」は悪手
 日本では孫子の兵法を生み出した国である中国は外交が上手だと思っている人が多いが、それは全くの間違いである。中国は外交が下手だ。
 日本ではよく次のような意見を聞く。
「中国は尖閣諸島の周辺に船舶を頻繁に侵入させて、尖閣諸島が自国のものであることをアピールし続けている。これはサラミ作戦と言って、少しずつ既成事実を積み重ねて自分のものにしてしまう作戦である。こんなことを行う中国は外交上手に決まっている。それに引き換え、尖閣諸島問題を大きな声で世界にアピールしない日本は外交が下手だ」
 しかし、よく考えてもらいたい。尖閣諸島の周辺水域に船舶を頻繁に侵入させることによって、中国は何を得たのであろうか。
 現在、中国は米国との間に深刻な対立を抱えている。それは時間が経つにつれて深刻になっている。そんな時に日本まで敵に回したくない。中国は習近平が国賓として日本を訪問することによって、日本との関係が良好であることを世界に見せつけようと考えていた。右翼的な考えを持つ安倍晋三前首相は嫌いだったが、ここは少し下手に出て日本との友好関係を世界にアピールしようと思った。それは貿易戦争を仕掛ける米国に対する牽制になる。
 しかし尖閣諸島の周辺海域に公船を頻繁に侵入させていることによって、日本に嫌中感情が蔓延してしまった。その結果として、自民党の多くの議員が、習近平を国賓として迎えることに公然と反旗を翻すようになった。
 2020年春の訪日は、新型コロナウイルスによる感染症が蔓延したために延期になったが、それは日本にとって好都合であった。その後、夏になって安倍氏が健康問題から退陣してしまったが、新しく首相になった菅氏はこの件について、ダンマリを決め込んでいる。
 昨今の情勢を見ると、感染症が収まっても「それではどうぞ」と素直に習近平を招く状況にはなっていない。王毅外相は2020年11月に日本を訪問して、習近平が国賓として訪問する地ならしを行うつもりであったが、あまり微笑みすぎると国内から「秦檜(しんかい)」と言われかねないので強硬な発言を繰り返して、かえって日本の嫌中感情を強めてしまった。これでは王毅は何のために訪日したのか全く意味不明である。
 この一例が示すように、中国は外交が全く下手である。
「秦檜の亡霊」を恐れる政治家
 中国の外交には「秦檜の亡霊」がつきまとっている。政治家や外交官が、少しでも相手に有利な条件を認めてしまうと、政敵によって「秦檜」に仕立て上げられてしまう可能性があるのだ。
 秦檜(1091~1155年)は現実的な政治家で南宋に平和をもたらした。だが、そんな政治家が800年経っても売国奴、国賊と罵倒され続けている。中国人で海外との折衝にあたる際に、秦檜の逸話を思い出さない人はいないだろう。「あいつは秦檜だ」などと噂されれば、左遷される。悪くすると冤罪をでっち上げられて、逮捕されるかもしれない。
 中国で海洋警察の責任者に任命されれば、尖閣諸島の接続水域への侵入をためらってはいけない。躊躇していると、陰で「あいつは秦檜だ」などと言われかねない。だから、前任者が尖閣諸島沖の日本領域に3日に1回侵入していたのなら、自分は2日に1回侵入する。次の担当者は毎日侵入する、とどんどんエスカレートすることになる。強行路線をとっている限り、内部から攻撃されることはないからだ。
 それは習近平の判断にも影響を与えている。現在、習近平は「皇帝」であり、中国に君臨しているが、それは生きている間だけである。生涯トップの位置に留まることができたとしても、いつかは死ぬ。そして、死んだ後が怖い。
 秦檜は畳の上で死んでいる。しかし、それから800年以上が経過しても、まだ人々から憎まれ蔑まれ続けている。習近平が南シナ海や尖閣諸島、そして台湾問題などで妥協的な態度をとろうものなら、死んだ後に妻と共に後ろ手に縛られた銅像を作られて、民衆から唾を吐きかけられるかもしれない。皇帝も「歴史の審判」には逆らえない。
世界各国に慰安婦像を建てるという愚策
 同じことは韓国についても言える。
 日本には韓国に対しても、その外交が上手だという人がいる。
「韓国は米国、カナダ、そしてドイツにまで慰安婦像を建てて、世界に日本の悪口を言い続けている。日本が積極的に反論しないために、日本を悪者にしたてようとしている。韓国は外交巧者である」
 しかし少し冷静になって考えてみれば、この韓国の行為も“アホ”としか言いようがない。米国やカナダ、ドイツに慰安婦像を建てても、それに関心を示す米国人、カナダ人、ドイツ人などいない。それは普通の米国人、カナダ人、ドイツ人に白地図を見せても、日本と韓国の位置を正しく指し示せない人が多いことからも分かる。
 一般の欧米人は、アジアに関心を持っていない。ましてや、日本と韓国の間で100年近く前に起こった事件に興味を示す人などいない。慰安婦像を建てることに協力した米国、カナダ、ドイツの人々は、何らかの形で韓国から利益を供与されていると考えてよい。だから協力したのであり、そのような人はごく少人数に限られる。そのような人も、心の底から韓国の主張を支持しているわけではないだろう。
 人間というものは他国の歴史上の不幸に全くと言ってよいほど関心がない。庶民でも国際関係は複雑であり、簡単に善悪を判断できないことぐらいは知っている。そして、興味がないからすぐに忘れる。
 つまり韓国のやっていることは、何の役にも立たない。だが、欧米人の関心を引くことはできなくても、日本では大きく報道されるから、日本人の嫌韓意識をかき立てる上では役に立っている。しかしこれ以上、日本人の嫌韓意識をかき立てて何の得になるのだろう。
 日本人の嫌韓意識を煽れば煽るほど、韓国を訪問する日本人観光客が減る。また韓国のドラマを見る人も減る。韓流スターが日本の市場でヒットすることもなくなる。日本から韓国への投資も減少する。貿易額の減少も危惧されるが、貿易は相互的なものである。韓国の経済規模は日本の4割ほどしかないので、貿易額が減少すれば、韓国の方が日本より大きなダメージを受ける。
 ついでに言えば、朴槿恵の行った「告げ口外交」も同じようなものである。どこの国でも政治家や外交官は大人である。そんな大人を相手に告げ口をしても、それは大統領自身や自国の評判を下げることにしかならない。世界の指導者は朴槿恵の話を聞いているフリをしながら、韓国を幼稚な国だと思ったに違いない。こんな韓国のどこが外交上手なのであろうか。
染み付いてしまった極東アジアの思考法
 中国、韓国、そして北朝鮮は外交が下手である。それは極東アジアで宋朝以降に行われてきた朱子学的な思考方法に基づいた冊封や朝貢の概念が染み付いてしまっているからだろう。
 彼らは頭では西欧が作り上げた外交の仕組みを理解していても、実際の場面では、染み付いた思考法から逃れることができない。しかし、それは現代の世界では通用しない。常に国益を損なっている。だが、悲しいことに彼ら自身がそのことに気付いていない。
 その結果、時間が経過するに従って米中対立は激化してしまい、外交巧者の米国を相手にして、中国は孤立せざるを得ない状況に追い込まれてしまった。そして韓国は中国と米国のどちらに付いたらよいのか分からなくなっている。
© JBpress 提供 『極東アジアの地政学』(川島博之著、育鵬社)
 韓国は自らが日韓関係を破壊してしまったために、とりあえず防衛問題で日本との関係を強化して、米中との関係をあいまいにする戦略が取りにくくなってしまった。日韓の関係が良好なら、日本が米国の側に立つために韓国も間接的に米国の側に立つ戦略を採用できる。そして間接的であるために、中国から直接批判されることを避けることができる。
 話が抽象的になってしまったが、GSOMIA(General Security of Military Information Agreement:軍事情報に関する包括的保全協定)の問題を思い出してもらえば、この辺りの事情が理解できよう。このようなことを見るにつけても、韓国は外交が下手だと思う。