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安倍総理の志は死なない!!

中国・ロシア艦隊の日本一周に隠された真の狙い

JBpress 提供 米空母ジョージ・W・ブッシュに搭載されるボーイングの無人機「MQ-25」(11月30日、米海軍のサイトより)
 中国が望む米空母撃破のシナリオは、次のようなものであろう。
●エリント衛星を打ち上げ、各高度の軌道に配置された位置で、米空母のレーダー信号を受信し、その位置を特定する。
●そのデータが、通信中継衛星、地上局を経由して対艦弾道ミサイル(ASBM)部隊に送られる。
●そして、ASBMを空母に向けて発射し、飛翔軌道を変更しながら命中させる。
 このポイントは、「洋上の米空母を発見すること」と「対艦弾道ミサイルを移動する米空母に命中させること」の2つだ。
 しかし、これは極めて難しい。今回は、米空母を発見し、位置を特定することに焦点を当てて考察する。
1.米空母を発見・特定:海洋監視の3段階
 中国は、米空母を発見し位置を特定する海洋監視システムを完成させるため、エリント衛星・画像衛星・レーダー衛星からなるYogan(ヤオガン)偵察衛星シリーズを相次いで打ち上げてきた。
 だが、中国の電子偵察の歴史は短く、米国よりも40年以上も遅れている。
 一方、米軍情報機関は、エリント信号の研究を長期間実施してきており、エリントの情報戦を知り尽くしている。
 その米軍軍艦は、当然、レーダー信号を有事と機材チェック以外には出さない。周辺の船舶と衝突しないための捜索レーダーには、民間仕様のものを使用している。
 米軍艦は、基本的に、軍艦であると識別されるエリント信号を出さないのだ。
 このような状況の中で、海洋を監視して、米空母を発見するためには、3つの段階がある。
 第1段階は、偵察機と衛星を使ってエリント信号を収集すること。
 第2段階は、中国が米軍軍艦のレーダー信号(エリント信号)を解析して、その信号と米軍各艦とを特定すること。
 第3段階は、空母の位置を特定して、この情報をリアルタイムにミサイル部隊に送付することだ。
2.電子偵察能力進化の契機となった事件
 2000年に、電子戦機「Y-8CB」が初飛行を行うなど、中国の電子戦実験研究は始まったばかりだ。
 2001年、海南島付近の南シナ海で、米軍電子戦機「EP-3E」と中国軍戦闘機「J-8」が空中衝突した。
 そして、米軍EP-3Eは、海南島に不時着し、乗員の身柄は拘束された。
 電子戦機と機器を取り扱う乗員は、機密情報の塊であり、電子戦について、ほとんど実績がない中国にしてみれば、喉から手が出るほど手に入れたかったものだ。
 当然のごとく、乗員は聴取され、機は詳細に調べられた。
 中国は、電子情報の重要性、収集機器、情報収集のノウハウなどの知識、人と機器の現物を得たことから、この事件後にエリント情報の収集事業が急速に進展したと考えられる。
 その後、2005年には中国のエリント機が初めて確認された。2011年には、エリント衛星を打ち上げ、同年からエリント機が南西諸島海域へ進出を開始した。 
 この事件について、今振り返ってみると、中国が求めていたものを多く得たことから、これは、偶発事故ではなく、中国空軍が米軍電子戦機を捕獲するために、意図的に仕組んだものだったようにも感じられる。
3.電子信号収集システムの開発加速と裏側
 エリント衛星は、高高度(高度約1100キロ)衛星が2010年から10機、中高度(高度約600キロ)衛星が2017年から10機、低高度(高度約500キロ)衛星が2021年に1機、合計21機、打ち上げられた。
 エリント機の「Tu-154」が2014年、Y-8が2017年から、エリント情報の収集を開始した。
 エリント情報の収集は、衛星で約10年、エリント機で約7年経過したところである。実績期間は少ないものの、電子情報収集システムを急速に開発している。
 これらのエリント機の活動を見ると、Tu-154が宮古海峡から西太平洋に、Y-8が東シナ海から宮古海峡を出て、先島諸島方面や台湾正面付近でエリント情報を収集している。
 特に、2017年に17回、2018年に8回と増加した。
 そのうち、先島諸島や台湾正面の情報収集がほとんどであり、西太平洋上に進出する回数は少ない。
 西太平洋上に進出しなければ、エリント機が米軍艦のエリント情報を収集することはできない。
エリント衛星打ち上げと偵察機の活動推移

© JBpress 提供 出典:各種情報に基づき西村金一作成
 エリント情報を解析するには、エリント情報とエリント機が収集した情報を比較検討する必要があると考えるが、そのような行動は少ない。
 洋上の米軍軍艦の位置情報の収集には、主にエリント衛星と一部画像衛星を使用して収集しているようだ。
 開発の経緯を追って調べてみると、大変気がかりなことがあった。
 それは、エリント機の活動が2017年と2018年が最も活発であり、爆撃機の活動も同じ時期に最も活発であったことだ。
 また、この時期に中高度のエリント衛星が立て続けに4機打ち上げられた。
 この3つが同時期に重なっているのは、爆撃機をおとりにして、米日軍の軍艦のレーダーを送信させ、これをキャッチしようとしたのではないかということだ。
中国軍爆撃機が囮となって米軍艦の対応を見る(イメージ)

© JBpress 提供 出典:西村金一作成
4.中国に電子情報を取られないための対応
 米海軍空母やイージス艦は、レーダー信号を傍受されないために、平時や作戦中にレーダー信号を放出することはない。
 空母は、周辺の民間船舶との衝突防止のために、捜索レーダーを作動させ、信号を放出する。
 だが、この捜索レーダーは、民間の艦船と同じレーダーを使用するので、空母と特定されることはない。
 イージス艦は、作戦中に必要がなければ、各種レーダー信号を放出することはない。
 イージス艦は、弾道ミサイルの捜索と追尾能力があるので、中国のエリント衛星の動向(通過予測時刻等)をキャッチしている。
 艦の近くを衛星が飛翔しているときには、当然、レーダー信号を放出することはない。
 空母とイージス艦が指示や情報交換のために通信を行う場合には、指向性がある通信機器を使用するので、中国のエリント衛星に取られることはない。
 米軍艦は、レーダー信号を出さないのは、エリント解析について熟知しているからだ。
 中国が高高度のエリント衛星を初めて打ち上げたのが2010年、中高度の衛星が2017年だ。
 Y-8エリント偵察機が確認されたのが2005年、日本の南西諸島付近および西太平洋に初めて進出したのが2011年だ。中国の電子戦の歴史は浅い。
 一方で、米国がエリント衛星の試験を実施したのは1971年だ。米軍の電子偵察機「EC-121」が1969年、北朝鮮に撃墜されたことがあった。
 米軍は、50年も前から、電子偵察活動を行っていた。
 中国と比べても、40年も前から活動していたのだ。米軍情報機関からすれば、中国の情報活動の手の内はすべて把握していると考えていいだろう。
 米軍は、中国のエリント情報を知り尽くしているだろうが、一方、中国が米国のエリント情報を解析できている可能性は小さく、発展途上段階だと言ってよい。
5.米空母を特定する解析研究の進化
 エリント解析は、シギント解析(無線通信などの傍受による解析)よりもはるかに難しく、解析のための機器を製造しなくてはならない。そしてこの内容は機密事項だ。
 中国軍のエリント信号解析の実力、特に米空母の位置を特定することができるのかについて、中国が、海洋監視システムをつくり、信号を受信して、「どの信号が米空母なのか」「どの地点から発進されているのか」、解明に至っているのか、あるいはどのようなレベルまで達しているかについて、推測する。
 特に、中国が実施しているエリント衛星の打ち上げ実態、エリント偵察機の開発行動、これらの開発期間などについて、また中国のエリント傍受に対して米国が行っている軍艦の電波管制、米軍の電子戦の実態と実績などを、総合的に考察する。
(1)エリント衛星(高高度)5機の打ち上げ(2010~2015年)
 5機の衛星は、各種レーダー信号を収集する。
 2013年からは、爆撃機に宮古海峡を越え、西太平洋に入ったところまで進出させ、米軍艦にレーダー信号を送信させる実験を行った。
 回数が少なかったので、試み程度であったろう。
 この時、軍艦のものと推測できる信号の発信位置を特定し、高高度光学衛星で、レーダー信号を発信する艦艇の画像を撮影し、エリント信号との照合を行い、艦艇の種類を特定することを試みた。
 この時期は、偵察衛星打ち上げの初期段階であったことや、高高度の画像衛星では、十分な解像度がなく、見たい艦艇が大型艦に見えるだけで、ほとんどぼやけていた可能性が高い。
 海洋監視衛星が受信したエリントデータと光学衛星が見た軍艦の種類を照合して、エリント信号と軍艦を一致させる解析を試みたものの成功はしていないだろう。
(2)エリント衛星(中高度)4機の打ち上げ(2017年)
 エリント衛星の高度を約1100キロから約600キロまで下げた。そして、高高度のエリント衛星5機と中高度衛星4機の連携が行われるようになった。
 あるいは、必要な信号を受信できなかったことから、高度を下げたのではなかろうか。
 この時期、エリント偵察機は、東シナ海から宮古海峡を越えて、西太平洋、先島諸島や台湾正面に進出するようになった。
 爆撃機が西太平洋に進出する回数が増え、日本本州まで接近する動き(1回)を行い、米軍艦にレーダー信号を送信するように仕向けた。
 この時、米軍艦がレーダー信号を出していれば、信号を傍受できたであろうし、出していなければ、信号を傍受できなかったであろう。
 高高度と中高度のエリント衛星とエリント偵察機が収集した信号を比較・分類した可能性がある。海洋のエリント信号を収集し、民用と軍用の分類はできたと見てよい。
(3)高高度衛星5機と中高度衛星6機の打ち上げ(主に2019年から現在まで)
 高高度のエリント衛星が合計10機と中高度のエリント衛星が合計10機になったことで、地球のかなりのエリアをカバーしている。
 高高度と中高度の衛星との連携も十分可能だろう。
 中国は、2017年以降、多くのエリント衛星を打ち上げ、エリント信号収集活動を活発化させた。エリント情報収集に力を入れたことが分かる。
 それでも、米軍艦はエリント信号を特別の事情がない限り発信しないことが規定されているので、収集に集中しているこの時期でも、米軍艦のレーダー信号を取得できなかったのではないか。
(4)エリント衛星(低高度)1機の打ち上げ
 2021年11月、約500キロの高度に新たに打ち上げられた。これまでの約600キロの高度から約100キロ高度を下げた理由は何だろうか。
 それは、米海軍軍艦のエリント信号が受信できないので、可能な限り高度を下げて、受信できるか実験していること。
 そして、位置を特定した空母の詳細な位置、特に移動の速度と方向を確認し、弾道ミサイルが弾着する未来位置を計測したいためだろう。
 米軍艦はレーダー信号を発信しないので、これらを獲得できないでいたが、2021年10月、中露海軍軍艦10隻が、日本海~津軽海峡~太平洋を南下して、大隅海峡を抜けるという日本周回航行を行った。
 一列に並んで航行する様子は、目立つ。
 日米に対して威嚇する狙いであるかもしれないが、米日軍艦の対応、特にレーダー信号を衛星から盗み取るのには、絶交のチャンスであったはずだ。
6.空母位置特定のエリント解析は未完成
 米軍は、情報を漏らさない行動を取り、中国軍は、海洋監視システムを完成させ、漏れてきた米軍艦レーダー信号の情報を取ろうとしている。
 中国が傍受したエリント信号の解析能力は、現在、空母を発見できて、その位置を特定できるところまできているのか。
 解析が進展していれば、米軍艦の信号を特定できているだろう。しかし、そうでない場合は特定できてはいない。
 解析期間が短かすぎることから、特定できていない可能性の方が高い。
エリント信号傍受からミサイル部隊までの位置情報の流れ(イメージ)

© JBpress 提供 出典:西村金一作成
 軍艦の位置を特定できたとしても、それは、解析研究室で時間をかけてできたことであり、ミサイル攻撃には使えない。
 なぜなら、発見、位置特定、衛星中継、地上局、ミサイル発射をリアルタイムで自動的に行えなければミサイル攻撃はできないからだ。
 中国が、米空母の位置を特定し、このデータをリアルタイムで、地上局に送信し、ミサイル部隊に未来位置まで送信できるようには、まだまだ時間がかかりそうだ。
 軍事情報分析の経験を有する研究者達の間では、中国がエリント信号を解析して、米空母を発見することは、現段階では無理だという意見が多い。
 洋上でも陸上でも、レーダー信号を見つけ出し、その位置を特定し、そこにミサイルを撃ち込むことは、これからの戦闘においても求められることだ。
 ミサイル発射の前に、情報戦は始まっている。
 電子情報戦の知識が欠けていると、見えない敵から攻撃を受け、敗北することになる。

 米国と中国の衛星と洋上における情報戦について、JBpress『中国と米国、海洋上の軍艦を発見・特定する能力徹底比較』(2021年12月7日)および『やはり張子の虎だった、中国の対艦弾道ミサイル』(2021年11月18日、https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/67760)も併せて参考にしてほしい。