Shinzo-Returns

安倍総理の志は死なない!!

予想外に弱かったロシア軍、その理由を徹底分析

ウクライナ戦争の影響はインド太平洋へ
中国とロシアの関係性:中国の曖昧な態度・姿勢に隠された思惑
 ウクライナ戦争の影響は、欧州にとどまるものではない。
 この戦争は、グローバルな視点からすれば「民主主義対専制主義・強権主義」の戦いであり、ウクライナは世界の民主主義国の盾となって戦っており、インド太平洋における日米台などの中国の覇権拡大に対する戦いと同じ位置付けだ。
 また、ロシアと中国は、対米・対西側で共闘する「全面的戦略協力パートナーシップ」の関係で緊密に繋がっており、中国はロシアの行動を「侵攻」「侵略」と認めないばかりか、直接・間接的に支持している。
 さらに、ウラジーミル・プーチン大統領と思想・行動の面で軌を一にする習近平国家主席は、世界覇権の獲得を視野に尖閣諸島や台湾、南シナ海で侵略的行動を先鋭化させ、「力による一方的な現状変更の試み」がインド太平洋での緊張を高めている。
 そして、武力行使に当たっては、いま注意深く観察しているウクライナ戦争の教訓が間違いなく反映されると見られるからである。
 他方、中国は、ウクライナ戦争で存在感を増した先進7か国(G7)を中心とした国際社会によるロシア包囲網が強まっていることに鑑み、ロシアへ偏重した政策は「孤立化」のリスクをはらむとの懸念から、表向き「ウクライナ問題に基本的に関与しないという態度」あるいは「どちらかの肩も持たないという姿勢」で取り繕おうとしている。
 しかし、そのような曖昧な態度・姿勢には、硬軟相交えた台湾統一を控え、それを見据えた中国の思惑と伏線が透けて見え、日米などの猜疑心をますます増大させこそすれ、減少させるものではなかろう。
中国の台湾の武力統一は不変/台湾侵攻の決意を過小評価してはならない
 米議会下院の軍事委員会は2022年3月9日・10日、ロシアのウクライナ侵略が中国の台湾侵攻計画に与える影響などに関する公聴会を開いた。
 そこで、中国専門家のイーライ・ラトナー国防次官補(インド太平洋安全保障担当)、ジョン・C・アクイリーノ太平洋軍司令官、ウィリアム・バーンズ中央情報局(CIA)長官およびスコット・ベリア国防情報局(DIA)長官が証言した。
 4氏は、まずロシアのウクライナ侵攻の国際法違反、非人道性に対する批判および経済制裁の強化について同趣旨の発言を行った。
 その後の4氏の証言を総括すると、中国がロシアのウクライナ侵攻を注視していることから、その行動に与える影響を指摘しつつも、「中国の台湾侵攻の決意は変わらない」「中国の台湾侵攻の決意を過小評価してはならない」と強調した。
 そして、米国の協力と台湾独自の努力によってその防衛力を高め、これを支える西側社会の結束した取組みがあれば、中国に対する抑止力を強化できると説いた。
米国を「弱腰」と見做せば、中国は一層攻撃的に
 ウクライナ戦争において、米国はウクライナがNATO(北大西洋条約機構)の加盟国ではなく「集団防衛」の対象ではないことに加え、ロシアが核威嚇を実際に行使し、さらに核攻撃ヘエスカレートする可能性があるとの見通しから、直接軍事介入すれば紛争が欧州戦争あるいは第3次世界大戦へと全面的に拡大することを恐れてその選択肢を排除した。
 その代わりに、G7を中心として西側社会を結束させ、経済・金融制裁を主戦場としてロシアを弱体化させる一方、ウクライナに大規模な兵器供与や情報提供などの軍事支援を行って防衛力を補強している。
 中国が、主敵と考える米国のウクライナ戦争軍事不介入の決定について、これを合理的判断と見るか否かによってその対応は大きく変わる。
 もし、米国を「弱腰」と見做せば中国は一層攻撃的になる可能性がある。
 今後、中国はウクライナ戦争の危機に乗じて米国を努めて欧州に釘付けし、インド太平洋への関与を弱めようとするであろう。
 さらに、米国のインド太平洋への関与をめぐり地域諸国に揺さぶりをかけ、特に台湾の人々に米国の軍事介入の決意を疑わせるようウクライナ戦争を利用するであろう。
 協力者を置き去りにしたアフガニスタンからの米軍撤退、そしてウクライナ戦争における軍事不介入といった度重なる選択に、台湾では米国は有事の際に本当に台湾防衛に動くのかとの疑念や不安が広がるのもやむを得ない。
 今後、米国は台湾有事におけるコミットメントの「戦略的曖昧さ」について政策見直しを迫られるかもしれない。
 以上のような情勢を背景に、中国は、ウクライナ戦争を注意深く観察しており、その研究成果を台湾武力統一などの軍事作戦に反映させるのは間違いない。
 そこで、中国が、ロシアのウクライナ戦争から何を学んでいるかを探り、そこから抽出された教訓や問題点を明らかにすることによって、日米台などが中国の軍事力行使を抑止・対処するに当たって示唆するところを考えてみる。
中国がウクライナ戦争から学んだ教訓
1 核威嚇と「escalate to de₋escalate」原則を援用した核攻撃
 プーチン大統領は、ロシアが最も強力な核保有国一つであることを強調し、ウクライナ侵攻前から大規模なミサイル発射演習を実施して核威嚇を行った。
 さらに、同大統領は核を扱う部隊に対して「特別戦闘準備態勢」を取るよう命じ、核戦力部隊が「戦闘態勢」に入ったと発表したことで、核戦争の懸念が一挙に高まった。
 米国およびNATOは、軍事介入すればロシアの核威嚇が現実化し、核攻撃が行われる恐れがあるとの判断で、その選択肢を完全に排除した。
 実戦において、核威嚇が使われ、それが効果を発揮した瞬間であった。
 また、核兵器は政治的手段であり「使えない兵器」であるとの認識が、「使える兵器」との認識に一変した瞬間でもあった。
 そして、ロシアは開戦から約10週間を過ぎても期待した目標が達成できず、作戦が行き詰まっていることから、戦況を好転させる目的で、戦術核の使用を検討するのではないかとの懸念が依然として現実味を帯びている。
 ロシアは、「escalate to de₋escalate(事態を好転させるために状況をエスカレートさせる)」として知られる戦略原則を援用しつつ、エスカレートさせた責任を敵に押しつけながら、戦場のルールを一変させることを目指して戦術核を使用するかもしれない。
 ましてや、独裁者のプーチン大統領は、国際社会の非難を物ともせず、「何をやらかすか分からない」との予測不能性に満ちており、引き続き厳重な警戒が必要である。
 識者の間では、ウクライナが、20年前に核による抑止力を放棄したことで攻撃を受けやすくなったのではないかとの議論がある。
 核兵器を持つことが他国への攻撃の保証書になること、そして核兵器を持たない平和的な国が侵略者の餌食になることを示したとも言え、イランや北朝鮮のように、核兵器の開発を追求する国が増えるかもしれない。
 ジョー・バイデン米政権は、現在策定中の新核戦略指針「核態勢の見直し(NPR)」において、核兵器の役割を縮小しようとしており、同盟国の間では、米国が提供する核抑止、すなわち「核の傘」が大きく弱まるのではないかとの懸念が広がっている。
 米国は、1987年に調印したソ連(ロシア)との中距離核戦力(INF)全廃条約に基づき、中距離(500~5500キロまで)の核弾頭および通常弾頭を搭載した地上発射型の弾道ミサイルと巡航ミサイルを廃棄した。
 そのため、現在、米中間では中距離(戦域)核戦力に大きなギャップが生じている。
 この米国の「核の傘」の信憑性の低下を衝いて、ロシアがウクライナ侵攻で行ったように、中国が核威嚇を使いながら通常戦力による軍事侵攻を行う可能性が高まり、また、戦況が不利な場合には、中距離(戦域)・短距離(戦場)核戦力を使用する蓋然性が高まることが懸念されている。
 我が国は、この厳しい現実を直視し、有効な抑止策を講じなければならない。
 そのための現実的選択としては、少なくとも非核三原則のうち「持ち込ませず」を破棄し、米国の作戦運用上の要求にともなう核戦力の日本への持ち込みを認めなければならない。
 そして、わが国の主権を確保する観点から、自国内に持ち込まれ配備された米国の核兵器を日米が共同で運用する「核共有(ニュークリア・シェアリング)」政策について真剣に検討すべきである。
2 結束した西側:経済制裁と武器供与・情報提供などの軍事支援
 ロシアのウクライナ侵攻を巡っては、世界は今もG7の主導で率いられているという現実を、まざまざと中露に見せつける機会を与えた。
 また、弱体化が懸念されていたNATOにとっても、ロシアの脅威に目覚め、強力な組織として再現する切っ掛けとなったようだ。
 そして、米英や日仏独などがその気になり西側諸国が一致団結すれば、経済・金融制裁を主戦場としてロシアを世界経済から切り離せることを示した。
 また、G7やNATOはもちろんのこと、それに属さないスウェーデンやフィンランドなども加わってウクライナに武器を供与し防衛力を補強している。
 米英を中心とした最新の動態情報の提供は、ウクライナの戦略判断や作戦遂行の大きな力となっている。
 このようなG7を中心とした西側の結束と相互協力・支援の動きは、台湾統一や尖閣諸島奪取の野望を抱いている中国に対し、ロシアを自国に置き換えて考えた場合、外交的・経済的・軍事的あるいは国際世論上の「孤立化」の問題をはじめ多くの教訓や課題を突き付け、対外的優先事項について慎重な対応を迫る可能性がある。
3 米国の情報優越:見透かされたロシアの行動
 ウクライナ戦争における米国の情報戦は、極めて的確である。
 特筆すべきことは、2014年のウクライナ紛争を防げなかった反省の上に立って考えられた「格下げと共有(downgrade and share)」と呼ばれる戦略に基づいて情報戦を遂行している点にある。
 従来なら外に出せない機密情報の機密レベルを引き下げ、情報を積極的に事前公開することで紛争を方向づけたり、抑止したりするという発想である。
 米国は、CIA(中央情報局)、国務省情報調査局(BIR)、DIAなど15の情報機関から構成される「情報コミュニティ」による広範かつ精緻な情報を基に、ロシアの行動を先読みし、その行動に先回りして国際社会に情報を発信し、ウクライナをはじめ関係国に警告を発するとともに、ロシアに揺さ振りを掛けている。
 その結果、ロシアは躊躇し、主導性を奪われて後手に回り、ウクライナなどに対応の暇を与えるとともに、国際社会から厳しい非難を浴びることとなった。
 米国から国際社会に向けて発信された情報から察すると、ロシアの行動は、相当程度、見透かされていることが理解される。
 これに引き換え、ロシアの情報戦は至って低調であるとの印象は拭えない。
 なお、ロシアの情報戦については、次の「プーチン大統領の独裁体制がもたらす情報欠陥」の項で触れることとする。
 他方、中国は、これからの戦いを「情報化戦争」あるいは「智能化戦争」と捉え、軍事や戦争に関して、物理的手段のみならず、非物理的手段も重視している。
 そのため、「三戦」と呼ばれる「輿(世)論戦」、「心理戦」および「法律戦」を軍の政治工作の項目としているほか、軍事闘争を政治、外交、経済、文化、法律など他の分野の闘争と密接に呼応させて、情報能力の強化を図っている。
 この際、従来の軍事情報部門に加え、宇宙・サイバー・電磁波といった新たな領域を強化するとともに、それらを統括する戦略支援部隊を創設し、情報化戦争を一元的に遂行できる体制を整備して米国を猛追している。
 しかしながら、中国が米国の情報優越に追い付き追い越すには、少なくとも10年単位の期間を要すると見られ、さらなる軍改革・情報組織改革に注力する必要がありそうだ。
4 プーチン独裁体制がもたらす情報欠陥・戦略的失敗
 ロシアには、旧ソ連邦の政治警察であった「KGB(国家保安委員会)の影」が付きまとっている。
 KGBは、反体制活動の取り締まりをはじめ、国家機関・軍への監視、国境警備、海外での情報活動などを行っていたが、その任務は、現在主としてロシア連邦保安局(FSB)や対外情報局(SVR)に引き継がれている。
 KGBの体質を引き摺っている代表格が、元KGB諜報員であったプーチン大統領本人である。
 そして、安全保障会議書記やFSB長官、SVR長官などの国の要職が、シロビキと呼ばれる側近で埋められている。
 彼らの大半はロシアの諜報機関に所属した経歴を持つ元KGBで、情報に偏りや独特な傾向が生じやすい。そして、恐怖政治の中、周辺に集まるイエスマンたちに、プーチン大統領の気に入らない情報をあえて届けようとする者はいない。
 そのうえ、「侵攻前、ロシアによるウクライナの情報収集は外国情報を扱う対外情報局(SVR)ではなく、『ウクライナは本来ロシアだ』という理由で国内治安機関の連邦保安局(FSB)が担当した。彼らがプーチン大統領に上げた情報分析では、ウクライナ軍に戦意はなく、同国のゼレンスキー大統領はすぐに逃亡する、といったもので、見通しが極めて甘かった」と、米戦略家のエドワード・ルトワック氏は指摘している(産経新聞「世界を解く」、令和4年(2022年)3月19日付)。
 このように、硬直化した情報活動の下、質の高い情報に支えられない戦略が失敗に帰するのは至極当然である。
 侵攻開始から1か月余りが経過した2022年3月末、米ホワイトハウスや欧州当局者は、プーチン大統領がウクライナ侵攻の戦況や欧米の制裁措置による経済へのダメージを巡り、真実を伝えるのを恐れる側近から誤った情報を伝えられている可能性があるという情報を明らかにした。
 情報活動・情報伝達の不備によってプーチン大統領が正確な状況、すなわち侵略の失敗を理解していないとすれば、戦争の終結に向けた課題である停戦・和平協議に与える影響も甚大である。
 このように、独裁体制・恐怖政治下の情報欠陥が、開戦から出口戦略までに至る「ロシアの戦略的な誤り」を引き起こす致命的な要因となる可能性がある。
 同じ独裁体制・恐怖政治をとる習近平国家主席率いる中国にも、ロシアと同じ情報欠陥が指摘されており、その体制が続く限り、克服できない宿痾的問題として引き摺ることになろう。
5 予想外に弱点が目立つロシア軍:ロシア軍の構造的問題
(1)正規軍と対峙する大規模戦争の経験不足
 ソ連邦崩壊後(1991年12月)のロシアの主な戦争・紛争は、第1次(1994~96年)・第2次(1999~2009年)チェチェン紛争、ロシア・グルジア戦争(2008年8月7日~8月16日)、ウクライナ紛争(2014年~)そしてシリア内戦介入(2015年~)である。
 これらの戦争・紛争は、主として他国内の民族紛争などに介入した対ゲリラ・対テロ戦が中心であり、軍事大国ロシアが軍事小国や反政府勢力などの非国家主体を容易に圧倒制圧できた戦いであった。
 ロシア(ソ連)軍が前回、大規模な作戦を実施したのは1968年のチェコスロバキア制圧で、そこにも強力な軍隊は存在しなかった。
 今般のウクライナ戦争は、日本の約1.6倍の面積を持つウクライナの全領域を戦場とする国家対国家、正規軍対正規軍の本格的戦争である。
 ロシアにとっては、規模的にもまた態様的にも従来の戦争・紛争の経験則では律することのできない「未体験ゾーンの戦争」であり、そこに踏み込んだことから、予期せぬ混乱や錯誤に陥っている。
 他方、ウクライナ軍は、独立後、米英などの指導の下、NATO軍標準化に向けた軍改革を進め、大きな戦力格差を乗り越えてロシア軍に善戦敢闘している。
 中国は毎年、ロシアと大規模な共同訓練を行ない相互運用性の向上を目指しており、ウクライナ戦争の成行きを決して見逃せないだろう。
 さらに、第2次大戦型のベトナム戦争以来、本格的な実戦経験のない中国・中国軍にとって、冷戦終結後、湾岸戦争、ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争、コソボ紛争、イラク戦争、アフガニスタン紛争など多種多様な現代戦を経験し、いわば「百戦錬磨」の教訓の上に将来戦様相を睨んで常に変革を進めている世界最強の米軍との戦いは、容易ならざるものになるとの認識を深めることになろう。
(2)トップダウン型の硬直した指揮と部隊運用
 ロシア陸軍の編制は、軍管区制の下で、軍、軍団、師団、旅団、連隊、大隊、中隊、小隊そして分隊の構成になっている。
 まず、ウクライナ侵攻の指揮運用上の問題は、プーチン大統領の杜撰な戦略判断を背景に、伝統的に厳格なトップダウンの指揮系統を持つロシア軍にあって、17万~19万人規模と見られる大軍を統括指揮する軍司令官が指名されていなかったことにある。
 ウクライナ侵攻は、ベラルーシ領土から展開して南下する北方ルート、分離独立派が支配するドンバス地方を経由する中央ルート、そしてクリミア半島を起点として北上する南方ルートの3方向から攻撃が開始された。
 しかし、本作戦を一元的に指揮するウクライナ侵攻軍総司令官が不在のため、作戦の全般目標、主作戦方向(主努力を指向する方向)、3方向に対する戦力配分と相互連携、陸海空軍の統合運用、兵站(後方支援)などの面で必要な作戦指揮が行われなかった。
 それが侵攻軍内の連携不足という欠点となって、当初の目的通りに作戦が進展しなかった大きな原因であろう。
 なお、ロシアのプーチン大統領は遅まきながら、開戦から40日以上過ぎた4月10日までに、ようやくウクライナの全戦域を統括する司令官に、連邦軍の南部軍管区司令官を務めるアレクサンドル・ドゥボルニコフ大将(60)を任命した。
 その中で、ウクライナ戦争におけるロシア陸軍は、大隊戦術群(BOG)を基本単位として作戦を行っていると見られている。
 前述の通り、ロシア軍は、欧米の軍隊と比較して厳格なトップダウンの指揮系統を持つため、下級指揮官への権限委譲が少なく部隊運用の柔軟性がはるかに低い。
 そのため、戦術的な意思決定の細部に至るまで、上級指揮官が関与しているという。
 元米第6艦隊司令官のジェームス・フォゴ退役海軍大将は、「ロシアの場合、上から指示が下りてくる。すぐに取り掛かれ、成果を上げろといった具合だ」、そして「彼らの軍隊の指揮系統は、非常に脅迫的だ。成果を上げなければ、交代させられるか、クビになるか、もっと悪い結果が待っている」と述べている(ニューズウィーク日本版、2022.3.23)。
 そのため、師団長クラスの将官が自らの命令意思を最前線にいる部隊に理解させ、実行させる必要から第一線の現地へ赴かざるを得ない機会が多くなっており、これがロシア軍全体の指揮統率能力を低下させていると指摘されている。
 その結果、師団長クラスの将官がウクライナ兵の狙撃によって命を落とすケースが増えている。また、将官だけではなく、多くの佐官級指揮官や幕僚が犠牲になっていると伝えられている。
 指揮官が欠けることによって、司令部の指揮幕僚活動は極度に低下し、隷下部隊の行動はさらに行き詰ってしまう。
 そして、統制の効かなくなった部隊の徴集兵が食料を求め、店舗や民家で略奪行為などを働いていると報道されているように、教育訓練の不足で規律とプロ意識に欠ける兵士が戦争犯罪に走るのである。
 これらは、共産党軍に共通した問題であり、中国共産党が指導する中華人民共和国の軍隊である中国人民解放軍(中国軍)に対し厳しい課題を突き付けることになろう。
(3)新兵器の優位性の未発揮と旧兵器との未融合
 プーチン大統領は、2018年3月の年次教書演説で、米国内外に配備されているミサイル防衛(MD)システムを突破する手段として、「サルマト」「アヴァンガルド」「キンジャル」「ブレヴェスニク」「ポセイドン」の5つの新型兵器を紹介した。
 また、その後、最高速度約マッハ9で1000キロ以上の射程を持つとされる海上発射型の極超音速巡航ミサイル(HCM)「ツィルコン」の開発がおおむね完了したと発表した。
 そして、ウクライナ侵攻当日のテレビ演説で、現代のロシアは「世界で最も強力な核保有国の一つ」というだけでなく、最新兵器でも優位性があると強調した。
 ウクライナ侵攻では、「キンジャル」などの新兵器を使用したとロシア国防省が発表しているが、米国防総省の高官は、そのことについて「米国としては否定もできないが確認もできない」と述べ、発射が本当であっても「軍事的には実用性はない」との考えを示した。
 ロシアは、軍事介入したシリアを開発中の各種新型兵器の実験場として利用したはずであったが、その成果を反映した新しい戦い方がウクライナで出現した様子は見当たらない。
 他方、ロシアがウクライナの地上戦で実戦に投入したのは、旧式の「T-12」戦車や、装甲兵員輸送車、大砲・ロケットランチャー、短距離(戦術)ミサイルや巡航ミサイルなどが主体であり、最新兵器の優位性の発揮や新旧兵器の融合したシステム運用は確認されていない。
 中国は、2019年10月1日の建国70周年の軍事パレードで23種の最新兵器を公開し、軍事力を内外に誇示した。
 その中には、新型大陸間弾道ミサイル(ICBM)「DF-41」、極超音速滑空ミサイル「DF-17」、超音速巡航ミサイル「CJ-100/DF-100」、超音速対艦巡航ミサイル「YJ-12B/YJ-18A」、最新鋭ステルス戦略爆撃機「H20」、攻撃型ステルス無人機「GJ-11」、高高度高速無人偵察機「WZ-8」、無人潜水艇(UUV)「HSU001」など超音速ミサイルや無人戦闘システム、電子戦などに力を入れていることが明らかになった。
 中国は今後、近未来の戦場において、これらの新兵器の優位性を十分に発揮できるのか、そして、多くの旧来の兵器と融合した効果的・一体的な戦いができるのかといった、ロシアがウクライナ戦争で直面し、成果を挙げられなかった重要な課題の解決に力量を問われることになろう。
(4)軍「プロフェッショナル化」の未発達:徴集兵制と契約勤務制度
 ロシアの軍改革の一つである軍の「プロフェッショナル化」については、特に兵士(兵卒)の育成に問題があり、その背景には、徴集(徴兵)義務1年間という制度上の制約がある。
 そのため、訓練不足や低い士気といった面で未熟な兵士が本格的な軍事作戦への参加を強いられている。その弱点がウクライナの最前線の現場で露呈し、作戦の失敗に繋がっていると見られている。
 現在、この問題を是正するため、有給で3年間勤務する契約軍人(一種の任期制職業軍人)制度を導入しているが、給与や住宅の改善などにさらに国防予算が必要であるため、本制度への円滑な移行が進んでいない。
 西側では、志願制を採用している国が多いが、それは、レーダーやミサイル、コンピューターなど高度な軍事技術を駆使する現代・近未来の戦いには、専門的な知識・技能を習得した練度と士気の高い真にプロフェッショナルな戦士が不可欠だからだ。
 他方、ロシアの「下士官では(契約勤務制度(職業軍人)の比率が)100%を達成した」(外務省HP「ロシア連邦基礎データ」「国防」「3軍事改革等」、括弧は筆者)模様である。
 しかし、その契約期間が3年間に限られるとすれば、部隊の中核的戦力として歴史や伝統を築き、精強性を維持する地位にある下士官層の勢力が極めて弱体であることになる。
 このままで推移すれば、ロシア軍は「頭でっかちで下半身の弱い歪な軍隊」としての低い評価を受け続けることになろう。
 これを受け、早速渦中の台湾では、2018年に事実上廃止した徴兵制復活の検討が開始された。
 また、現行制度では、1994年以降に生まれた18歳から36歳の男性は4か月間の訓練を受けることになっているが、「4か月では戦力にならない」として、その期間延長についても検討されるようである。予備役の訓練も、実戦的な内容とし、期間を14日間に延長している。
 中国は、「兵役法」(1998年)に基づき服務期間2年の義務兵制(徴兵制)を敷いている。
 旧「兵役法」(1984年)の第2条では「中華人民共和国は義務兵制を主体とし、義務兵と志願兵が結合し、民兵と予備役兵が結合した兵役制度を実施する」と規定していたが、1998年の新「兵役法」では「義務兵制を主体として」という表現が削除された。
 そのことにより、人民解放軍では、志願兵の比率がより高まり、兵員構成が大きく変わっている。
 しかし、人民解放軍は、経済の急成長と人口減少・少子高齢化のなか、志願者不足に悩んでいるようである。
 また、徴兵身体検査で、志願者たちの合格率が大幅に低下しているという。
 血液・尿検査、視力、体重、心臓、血圧、風土病(=地方病)など不合格の理由は様々であるが、その大多数が人口抑制策「独生子女政策(一人っ子政策)」の強制を受けた一人っ子であり、両親・祖父母に可愛がられ、甘やかされて育った世代である。
 新兵の不足は今後、中国の国防の足かせとなる可能性もあり、軍の危機感は強く、兵士らの給与を上げるなどの処遇改善が検討されている。
 また、「一人っ子政策」は2015年末に廃止されたが、その制度的弊害の後遺症が是正されるまでには、相当の年月を要すると見られ、当分の間、中国は「ひ弱な兵士」の存在に悩まされ続けることになろう。