Shinzo-Returns

安倍総理の志は死なない!!

北欧2カ国のNATO加盟を妨害するトルコが自らの地雷で自爆

 2022年5月、世界史が動き出したスウェーデン・フィンランドのNATO(北大西洋条約機構)加盟を深掘りしてみましょう。
 スカンジナビアの2か国によるNATO加盟申請への動きに対して、5月14日にベルリンで開かれたNATO外相会合でトルコの「チャブシオール外相」がスウェーデンのリンデ外相に声を荒らげる場面が発生。
「外交官として恥ずかしい事態」と同席する外交官から総すかんを食う事態となり、何とかせねばということで、チャブシオール氏の親分であるレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領が21日、スウェーデンのエーヴァ・マグダレナ・アンデション首相、フィンランドのサウリ・ニーニスト大統領と電話会談。
 トルコとしては対面を保ちつつ、実質的には陳謝する事態となったわけですが・・・。
「フェミニズム外交」呼ばわりのトルコ外相
 いや、無理もないのです。このメヴェリット・チャブシオール氏(1968-) 、外務大臣と称してはいますが、外交官でも何でもない。
 ロシアのセルゲイ・ショイグ「国防大臣」が軍人でも何でもなく、ウラジーミル・プーチン腹心で大衆に人気のある政治家というのと同じで、トルコの党人ポリティシャン、外交は基本素人と言ってよい人物です。
 トルコで大学卒業後、ニューヨークのロングアイランド大学で経済学の修士を取得後、33歳でエルドアン現大統領が旗揚げしたイスラム系のトルコ「公正発展党」結党に参加。
 2002年に国会議員当選、2010年から2年間は42歳という年齢で欧州評議会議員議会の議長に選出されたので、退任後「外務大臣」に就任。
 ウクライナ戦争では「ヒトラーユダヤ人説」で失脚しつつある例の「ラブロフ」ロシア外相と、ウクライナの若いドミトロ・クレーバ外相とを繋ぐなど、トルコがキャスティングボートを握ろうとした面がありますが、今回のことでこれは水泡に帰した可能性が高い。
 この、中身はズブズブの国内向け党人政治家チャブシオール氏、スウェーデンの女性閣僚であるアン・クリスティン・リンデ外相に対して、あろうことか「フェミニスト的な政策」呼ばわりの暴言を吐き、予想外の事態に発展してしまいました。
「公正発展党」はイスラム主義の背景を持ち、本音ではジェンダー差別的なトルコ現政権、いまのところはスカンジナビア2か国のNATO入り優先で、厳しく突っ込まれることはないでしょうが、中長期的には相当なババを引いてしまいました。
 端的に言えば、ロシアのラブロフ「外相」はヒトラーを「ユダヤ人」呼ばわりして実質退場、トルコのチャブシオール「外相」はスウェーデンの難民受け入れ政策を「フェミニズム外交」呼ばわりして、21世紀国際外交のジェンダー・コードで地雷を大爆発させてしまった。
 後々ツケが回ってくる可能性が考えられるでしょう。
ミニ・プーチンの側面を持つエルドアン
 背景はいくつかあるのです。2019年、トルコはシリア内戦に軍事介入し、同国北部に展開するクルド人武装勢力を攻撃し始めました。
 これに対して、アルフレッド・ノーベル以来伝統ある「世界最大級の武器商人」かつ「平和の番人」をもって自任するスウェーデンは、対トルコ向けの武器輸出を禁止。
 また、現在のポンテコルヴォ朝スウェーデン王室の伝統に従い、フランス革命、ナチスのユダヤ人迫害などと同様、いまも紛争地域の難民を大量に受け入れており、元クルド女性ゲリラ兵士だった国会議員(https://www.afpbb.com/articles/-/3188970)まで存在する開明的な国柄、フィンランドも難民受け入れに寛容です。
 スウェーデンやフィンランドが受け入れたクルド人難民を通じて、トルコ国内では「テロ組織」扱いされているクルド労働者党PKKやクルド人民防衛部隊YPGなどに資金が流れている可能性が指摘されています。
 そこでエルドアン政権はクレーム、全会一致でなければ加盟が認められないNATOでキャスティング・ボートを握ろうとしたようですが、稚拙な外交以前で失敗しつつあるというのが実のところでしょう。
 ここで、少しだけクルド問題にも触れておきます。
 クルド人というのは、旧約聖書から記載のある「クルディスタン」と呼ばれる、南北朝鮮半島をあわせた程度の広大な山岳地帯を故地とするインド・ヨーロッパ語族の民族です。
「少数民族」と言われますが全世界で5000万人を数え、中東ではアラブ人、トルコ人、ペルシャ人に次ぐ一大人口を擁する勢力です。
 ただし、この人たちの「祖国」は現在存在しません。
 その元凶は第1次世界大戦中の1916年に英国、フランスとロシアの列強3か国の間で交わされた「オスマン・トルコ」分割解体の密約「サイクス・ピコ協定」。
 翌1917年に勃発したロシア革命で、権力を掌握したウラジーミル・レーニンは「サイクス・ピコ協定」を暴露。
 親ユダヤと見える「バルフォア宣言」、親アラブと見える「フサイン・マクマホン協定」と列強エゴの世界分割密約である「サイクス・ピコ協定」の3枚舌外交は世界の非難を浴び、アラブ世界がソ連と接近する端緒の一つとなりました。
 さて、この帝国主義強国の間で勝手に線引きされた「国境」で分割されてしまい、クルディスタンの故地は21世紀の国家の名で言えばトルコ、シリア、イラク、イランそしてアルメニアと八つ裂き状態にあり、各々の地域で少数民族化、悲劇の100余年を今も送っています。
 クルド人はどこでも「民族主義者」「分離派」などのレッテルを貼られ、独立を求める勢力はテロリスト規定される場合が多い。
 これに対してスウェーデンやフィンランドは北欧の伝統にのっとってあらゆる難民に門戸を開きますから、結果的にトルコから「テロリスト支援」などと反発を食らうわけです。
 エルドアン・トルコ大統領はスウェーデン、フィンランド両国最高首脳に「テロリスト」支援への抗議というスタンスを強調して見せ、間違っても「フェミニズム外交」うんぬん、チャブシオールの「女性差別ホンネ」はトルコとしての本意ではありませんから・・・という苦しい言い訳をせざる得なかった。
 そもそもエルドアン大統領は、トルコとしてイスラエルに毅然とした態度で接し、アラブ世界から喝采を受け「イスラム世界の盟主」を自認する面があります。
 キーワードは「新オスマン主義」。
 かつてオスマントルコの領土であった中東からロシアに至る各地に影響力行使を目論んでおり、クルド人弾圧の姿勢は「ミニ・プーチン」と呼んでも不自然ではない。
 というのも、2022年2月24日時点でのプーチンの目論見は、地上から「ウクライナ」という国家を消滅させ、ウクライナ人を「クルド人」と同様の運命に追い込むことでした。
 一方、現在トルコ領内にある「北クルディスタン」は、トルコ国土の実に3分の1近くを占めており、2022年5月現在、トルコは第1次世界大戦以来、故地を失ったクルド人への迫害を継続。
「シリア内戦」をクルド国家樹立の好機と見、米国の軍事的支援も受けつつ「イスラム国」(IS)と戦うシリア、イラクそしてトルコのクルド人武装勢力と対立。
 トルコ国内でもクルド党は躍進し、権力集中を目指すエルドアン政権にとっては極めて邪魔な存在でもあった。
 そこで、完璧に国内目線の党人政治家チャプシオール「外相」から「スウェーデンのフェミニズム外交」発言(実のところ女性は外交に口を出すなと言っているようなもの)など、およそ国際外交の品位を弁えない、オヤジの本音が飛び出したわけです。
トルコの「反対」が永続しにくい背景
 といっても、トルコの反対はそう長くは続けられないでしょう。エルドアンの強気を装う実質陳謝は、トルコ国内向けのパフォーマンスの面があり、プーチンの「ロシア軍勝利 ウラー」と大差ありません。
 双方に共通するのは、経済規模の縮小したかつての超大国の末裔(「ロシア帝国」「オスマントルコ帝国」)の、マッチョな過去へのノスタルジーです。
 郷愁をもって国内民心と友好国を束ねようとする、一種の「時代劇演出」で、度が過ぎると、今回の「ウクライナ戦争」のように有害となる。
 エルドアンのクルド弾圧も相当ですが、かつてのオスマン帝国の面影は見る影もないアナトリア半島の小国となった現在のトルコにとって「北クルディスタン」は国土の3割に近く生命線でもある。
 言ってみればロシアが今回完全に解体され「モスクワ共和国」まで縮小したとして、ペテルスブルクのドイツ系住民が分離独立を求めるような状況に近い。
 しかし今回のスウェーデン、フィンランドのNATO加盟、トルコはあまり長く反対し続けることはできないでしょう。
 なんと言ってもまず米国共和党のジョー・バイデン大統領が5月19日時点で両国のNATO入りを「全面支援」(https://www.bbc.com/japanese/61517767)とはっきりぶち上げており、トルコ一人でいつまでもダダを捏ねても、エルドアンに勝算はない。
 エルドアン・テレフォンホットライン会談での実質陳謝はこの風を読んでのことと考えられます。
 さらに言えば、これは周知のことですが、今回のウクライナ戦争でロシア軍に壊滅的な打撃を与えている兵器の一つとして「トルコの企業」バイラクタル社の無人攻撃機=軍事用ドローン「TB2」があります。
 これはエルドアン大統領の娘婿、セルチューク・バイラクタルがペンシルヴァニア大学とMIT(マサチューセッツ工科大学)、米国の2つの高等学術機関で「修士学生」として指導を受けながら開発したものです。
 ノウハウから部品調達まで米国の協力なくしては全く実現不可能な代物なのです。
 バイラクタル氏(1979-)が精力的なエンジニア、ビジネスマンであることは間違いないですが、その背景には大統領親政というトルコの政治事情と潤沢な資金援助など、一期一会の状況があって成立しているものです。
 ウクライナ戦争全体を左右する局面でトルコがバイデン政権の不興を長く買うようなことがあれば、国運を掛けたドローン・ビジネスが暗礁に乗り上げるリスクもあります。
 19~20世紀の200年、アルフレッド・ノーベルの遺産というべき「爆弾大国」であったスウェーデンは現在、シリア北部のクルド人弾圧を理由としてトルコへの武器販売を停止している。
 しかし、軍事テクノロジーの本質から見るとき、21世紀の戦争は、米国系多国籍企業ががカギを握るAI・情報兵器が勝敗を決するものへと変化しつつある。
 そうした中、せっかく勝ち馬に乗りかかっているトルコが、米国との関係を悪化させてまでスカンジナビア2か国のNATO入りの邪魔を1か国だけで続ければ、その孤立状況がむしろトルコ自身の将来を危うくしかねないでしょう。
 スウェーデン、フィンランドが「クルド人身柄引き渡し」などトルコの要求をそのまま呑むことはあり得ませんが、何らかの補償で妥協、NATO入りが進むのは時間の問題だろうと思われます。