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アメリカの教会で台湾人が台湾人を襲撃した理由 襲撃事件で露呈した中国統一派「韓粉」の過激さ

© 東洋経済オンライン 台湾系住民による銃撃事件のあったアメリカ・カリフォルニア州の教会(写真・AFP=時事)
 2022年5月15日、アメリカ・カリフォルニア州のキリスト教会で1人死亡、5人が負傷する痛ましい銃撃事件が発生した。実行犯は台湾から移住したデヴィッド・チョウ(David Chou、周文偉)。一見、台湾人同士の抗争に見えなくもない。だが、一部のアメリカメディアは、チョウはアメリカ政府が外交使節団と認定する中国和平統一促進会のメンバーであったことも伝えている。現在、各メディアで伝えられている犯人のバックグラウンドや、中国統一を高らかに訴える「韓粉」について考えたい。
台湾系信者が1人死亡、5人負傷
 2022年5月15日、カリフォルニア州オレンジ郡ラグーナウッズの教会では、台湾系の信者らが日曜礼拝した後、アメリカに帰国した牧師を囲んで昼食会を開催していた。そんな和気あいあいとした場に、チョウはやってきた。
 警備員風の青い衣服に帽子をかぶって建物に侵入するなり、出入口の扉を持参した鎖で1つずつ縛っていった。鎖で縛れなかったところは接着剤で鍵穴を塞ごうとしたという。目撃者らは当初、使用時間を過ぎたため、警備員が帰宅を促そうとしていたのかと思っていたと語っている。そして最後の出入口が塞がれると、さすがにおかしいと考えた信者が「これでは私たちは外に出られないではないか」とチョウに話しかけると、準備していた銃で発砲を始めたという。
 現場が恐怖に陥る中、ジョン・チェン(John Cheng、鄭達志)医師がチョウにタックルし、続く数人によって取り押さえられた。残念なことに、勇敢にもチョウに向かっていったチェン医師は銃弾を数発受けて帰らぬ人となってしまう。チェン医師は本会のメンバーではないが、半年前に父を亡くし、母に付き添う形でたまたま参列していたのだった。
 翌16日に行われた記者会見でオレンジ郡保安官事務所は、チェン医師の行動がなければさらに多くの犠牲者が出ていたことは間違いないと語った。チェン医師の患者だったNFL(ナショナルフットボールリーグ)のジョニー・スタントン(Johnny Stanton)選手をはじめアメリカや台湾から追悼の言葉が寄せられ、残された家族を支援する募金が始まっている。
 一方、会見では、犯人であるチョウは中国と台湾の政治的緊張に怒りを募らせていたとも発表された。単独犯ではあるが、事前に銃を数丁、弾倉を十数本準備していたことがわかっている。無差別殺人を計画していた可能性が高く、アメリカ連邦捜査局(FBI)もヘイトクライム(憎悪犯罪)として捜査している。
 その後のさまざまな調査で、チョウは68歳。戦後、中国から蔣介石らと共に台湾に渡った外省人の2世であることがわかってきた。戦前からの名門校である台中第一高校(台中一中)を卒業し、教員生活を送ったのちアメリカに渡る。不動産関連の仕事に従事するが、2012年頃に部屋を借りていた人物から暴行を受けて耳に障害が残り、性格も暴力的傾向が強まるなど変わっていったという。
 チョウが生まれ育った時代の台湾は、中国国民党(国民党)による独裁戒厳令下にあり、「台湾は中華民国の一部であり、異論は許さない」時代であった。それが民主化で、それまで信じ込まれていた「中国と台湾は一つ、中華民国は正義」といったアイデンティティーが大きく崩れていく大変革が起きる。現代の台湾社会や国際社会に馴染めない人々を生み出してしまったのだ。チョウは、そんな人々の一例と言える。常に現在の台湾と、自分自身の中で作られた台湾の中で葛藤し、不条理と思う日々を送っていたのだろう。彼の生い立ちからはそんな悶々とした気持ちを抱えていたことがうかがえる。
台湾統一を進める共産党関連組織の存在
 しかし、自分自身の境遇に不満があるからといって、無差別殺人を計画し実行に移すのは明らかにおかしく、間違っている。そして、調査によってさらにチョウは中国和平統一促進会のメンバーであることが暴露されたのだった。
 中国和平統一促進会とは、中国・北京に本部を置く中国と台湾の統一を進めようとする団体で、日本を含め海外にもいくつか拠点を持っていると言われている。北京では中国共産党(共産党)の重鎮である汪洋氏を会長に、さらに台湾工作を担当する人物らが指導し、統一を志向する海外の華僑や団体と交流して思想を宣伝する共産党の関連組織だ。時代によって中国指導部の対外政策や台湾政策の方針から、任務や活動内容も変わるようで、昨今は米中対立と中国の戦狼外交に代表される強権的な外交手法に呼応するような動きがあったのか、2020年、当時のポンペオ国務長官は団体を外交使節団と認定した。そしてチョウはラスベガス中国和平統一促進会のメンバーであることが伝えられたのである。
 しかも2019年4月、チョウが同会の設立に際し理事として名を連ねた記事と、台湾・高雄市長をリコールされたが国民党内の統一急進派に根強い人気を誇る韓国瑜氏を称える写真が拡散された。2018年の台湾高雄市長選以降、韓氏の支持者の一部に「韓粉」と呼ばれる過激な信者が注目されているが、犯人のチョウも韓粉だったことがわかったのだ。
 5月18日、アメリカの華字紙『世界日報』は、チョウが犯行前に同紙へ「滅独天使日記」と題された日記と記録媒体を送付し、受け取ったことを明らかにした。これらは捜査当局にわたり内容は明らかになっていないが、別のメディアが、チョウは『世界日報』だけでなく、北京の中国和平統一促進会会長の汪洋氏、駐アメリカ中国大使の秦剛氏、『環球時報』元編集長の胡錫進氏、台湾『中国時報』発行人の王豊氏にも、それぞれ送付したと伝えている。
 中国からの何かしらの指令を受けて犯行に及んだのではないかと、さまざまな疑惑が飛び交う中、ラスベガス中国和平統一促進会会長はメディアのインタビューで、チョウは設立日の集会に参加していたが、考えが急進的で馴染めず、実際の活動はほとんどしていない。また韓氏のことを称えていたが自著の宣伝のためで、中台統一を志向する人々が集まっていたことからとくに問題とは思わない。さらに、ラスベガスの中国和平統一促進会は独立した組織であり、北京の中国和平統一促進会の支部ではないと語った。依然として核心部分について疑念が残る中、当局の捜査と今後のチョウの裁判に注目が集まっている。
 今回、全米を震撼させた凶悪事件において、チョウが韓粉だったことが明るみになったことで、台湾では「やはり」「さもありなん」という雰囲気が漂っている。また、今後、台湾だけでなく、日本やアメリカ、世界が注意しなくてはならない状況だ。
相手をねじ伏せて主張を通そうとする韓粉
 これまで韓粉は、台湾の選挙戦でたびたび意見が異なる有権者への嫌がらせ等で物議を醸してきた。今回の事件で、嫌がらせをするどころか人さえ殺めることもいとわないことが明らかになった。韓粉に共通するのは、「中台統一の大義のためなら多少の狼藉は構わない」という点だ。興奮が度を越し暴徒になったフーリガンとは異なり、韓粉には政治信念として中国統一があり、まったくぶれることがない。
 民主国家においての大前提は、異なる意見について賛成の必要はないが尊重することにある。しかし、韓粉は時に相手をねじ伏せても自らの主張を通そうとする。そして、習近平政権が掲げる中国の偉大な復興に呼応するように活動も過激化させているのだ。
 本来、国民党と共産党は相いれない仲だが、現在は中国統一の目標下で、歴史上、何度かあった「国共合作」と似たような状況にある。有権者離れが進む国民党にとって、韓粉を取り込むことで選挙戦を有利に進めたいようだが、彼らに寄り添えば寄り添うほど、有権者離れが加速することは過去の選挙戦でも明らかである。
 また、韓粉が過激化する理由として、国際社会も台湾を中国とは違う主権国家であることを当然視する流れが強まり、中国が掲げる統一が難しくなっていることがある。中国と韓粉の焦りの裏返しとも言えるのだ。いずれにしても、中国統一を声高に掲げて過激さを増す韓粉と、呼応する中国に、日本を含む民主国家は警戒すべき状況にあるだろう。