Shinzo-Returns

安倍総理の志は死なない!!

「プーチンのしもべ」に堕ちた独元首相、“ロシア依存の罪”で特権剥奪の残念な末路 SPD内部では排斥の声も

プーチンに絡めとられた「元首相」
ドイツのシュレーダー元首相と、ロシアのプーチン大統領の親密な関係が有名になってから、すでに20年近くが経とうとしている。シュレーダー氏曰く、プーチン大統領との仲は「男の友情」。肩を組んだり、ハグしたりという仲良しツーショットは、これまでメディアに山ほど出回った。
壮年であった頃の彼らの写真や映像は、演出はあったにせよ、それなりのアピール効果があった。事実、シュレーダー氏率いるドイツが、まだ貧しかったロシアを陰に陽にサポートしていた時期もある。ところが、その力関係がひっくり返り、あたかも主従関係に見えるようになってすでに久しい。もちろん、プーチン大統領が主で、シュレーダー元首相が従だ。
その理由は色々考えられるが、やはり、シュレーダー氏がロシアの複数の国営企業で役職に就き、膨大な報酬を受けていることが大きいだろう。ドイツには「パンをくれた人の歌を歌う」という諺があるが、実際にここ15年ほど、シュレーダー氏はロシアのトップ・ロビイストであり、ロシアにしっかりと首根っこを掴まれているという印象は拭えなかった。
「プーチンは虫眼鏡で見ても傷を見つけることのできないほどの民主主義者だ」という過去の文言を今も訂正せず、今回のロシアのウクライナ侵攻直前にはプーチン大統領から、「どんな困難にも挫けない立派な人間」とお褒めの言葉ももらった。
そして実際に、戦争勃発後もロシアと距離を置こうとはせず、米ニューヨーク・タイムズのインタビューではロシア擁護を展開。こういうシュレーダー氏に、ドイツ政府は手を焼いた。特に今の政府は、かつてシュレーダー氏を首相と仰いだSPD政権なのだから、とりわけ困った。しかし、シュレーダー氏はどんな非難にもめげず、断固としてプーチンのロシアと距離を置くことを拒否し続けた。
ところが、5月20日、その不屈のシュレーダー氏があっけなく挫けた。この日、ロシアの国営石油コンツェルン「ロスネフチ」は、シュレーダー氏が同社の監査役のトップを続けることが不可能になったと連絡してきたことを発表した。理由など詳細は明らかにされていない。
シュレーダー氏のこの豹変の原因は、改悛でも変節でもなく、やはりお金だったと言われる。実は、その前日19日のEU議会で、シュレーダー氏がロシアの国営企業から報酬を受け続ければ、ロシア制裁の対象リストに加えられる可能性が高まったためだ。そうなると、氏のEU内の資産は、他のロシアのオリガルヒたちのそれと同じく凍結される。その額、推定数億ユーロ。隠し資産も晒されるかもしれない。
今のところ、シュレーダー氏が辞任する意向を示したのはロスネフチだけだが、彼はその他、ガスプロムの子会社であるノルドストリームとノルドストリーム2の両社でも重職にあり、そちらの去就は明らかにされていない。それどころか、プーチン大統領は現在、シュレーダー氏を新たにガスプロム本社の監査役に推すつもりだとも言われる。
78歳のシュレーダー氏は今やすっかりプーチンの網に絡めとられているようだ。
シュレーダー政権が全力を注いだ「アゲンダ2010」
ちなみにドイツの脱原発の青写真は、元はと言えばシュレーダー氏が首相だったときに引いたものだ。そして、2011年に運開したロシアとドイツを直結する海底ガスパイプライン「ノルドストリーム」は、シュレーダー氏が首相府から敗退する直前の2005年に、強引に成立させた独露合同プロジェクトだった。
氏はすでに当時、原発が減るにつれ、多くのガスが必要になるということを知っていた。だからこそ、自信を持ってノルドストリームの建設に注力したのだ。当時の状況では、ノルドストリームはドイツの国益にかなっていたとも言える。
ノルドストリームが完成したのは、シュレーダー氏が政界を去ってから6年後の2011年。これにより、その後のドイツ経済は安いガスのおかげで急速に発展した。
だから、二匹目のドジョウを狙ったメルケル政権下で「ノルドストリーム2」の話が浮上したのは不思議でも何でもない。しかも、これは、右から左までの全政党が賛成した超党派のプロジェクトとなった。今になって、SPDだけにロシア依存の罪が押し付けられているのは、はっきり言っておかしい。
しかし、ドイツが一人勝ちと言われるほどの経済発展を達成したのは、ノルドストリームのガスのせいだけではなかった。多くは、やはりシュレーダー政権が全力を注いだ「アゲンダ2010」という産業構造改革の功績でもある。
1998年、16年のコール政権の後にシュレーダー氏が引き継いだドイツはまさにボロボロだった。強いドイツを取り戻すには構造改革以外に方法はないとシュレーダー氏は考えた。
ただ、構造改革ほど確実に票を失う政策は他にない。たとえ理屈が正しくても、最初の痛みが大きく、効果が現れる前に切り捨てられたと感じる人たちが出てくるからだ。つまり、改革の成否は、国民が施政者の言葉をどのくらい信じ、どのくらい我慢できるかというところに掛かってくる。
シュレーダー氏がその困難な作業に取り組み始めたら、案の定、野党だけでなく、SPDの党内までが反対の声で大騒ぎになった。
2002年、それでもどうにか2期目に突入したシュレーダー氏だったが、いよいよ本命である労働市場と社会保障制度の改革に着手した途端、国民の不満は抑えきれないほど膨らみ、政治は停滞した。当然、野党のCDUが国民の不満をさらに煽った。
そこでシュレーダー氏は国民に自分の政策の成否を問うことに最後の望みをかけ、解散総選挙に臨んだが、結局、メルケル氏率いるCDUに敗北する。「アゲンダ2010」がようやく花開いたのは、ずっと後、メルケル政権下でのことだった。
存在自体がドイツの恥辱のように
実は私は、シュレーダー氏は選挙に敗れたとき、ドイツ国民に見切りをつけたのではないかと思っている。自分が身を切るようにして国のためにしようとしたことを、国民は分かってくれなかった。それを彼は2度と許さなかったのではないか。だから、国のためなど、もう思わない。
今回のウクライナ危機に関しても、シュレーダー氏はおそらく、ロシアを攻め込ませたのは欧米だと思っているだろう。そんなことをしなければ、ロシアもEUもドイツも、そして自分もまだまだ豊かさを享受できたはずなのに、と。ただ、EU議会はそんな“繰言”には耳を貸さず、ドイツ国民は、氏の存在をドイツの恥辱のように感じている。
EU議会がシュレーダー氏を制裁リストに加える可能性を示唆した同じ日、ドイツの議会はシュレーダー氏から、オフィス、秘書、運転手、旅費などを取り上げることを決めた。
ドイツでは、これらの特権が元首相であった人に提供されるという慣習がある。しかし、法制化されているわけではないので、シュレーダーの特権は予算委員会が予算から外した。もっともシュレーダー氏のスタッフらは全員、すでに2月末、配置替えを希望し、一人も残っていなかったという。
CDUはシュレーダー氏の年金もカットしたい意向だが、こちらは法律で決まっているので、そう簡単には変えられない。なお、ボディガードは一番低レベルで継続するという。
政府は、今後は、NGOの後援など公的な仕事を引き受け、ドイツ国のために貢献している元首相にだけ、特典を享受するよう規則を変える予定だそうだ。ただ、一度講演をすれば何万ユーロと貰える人たちに、なぜ旅費や運転手まで支給するのか、私としてはそれがわからない。
ちなみにメルケル首相も現在、秘書付きでベルリンの官庁街にオフィスをもらっている。秘書の数は9人で過去最高。秘書の月収が一人当たり1万ユーロ(約130万円)だとか。
今回、シュレーダー騒動で、期せずしてこういう詳細が国民の知るところとなったが、メルケル氏も今のところ、公的な任務を引き受けているという話は聞かない。現在はそのオフィスで回顧録を執筆中だそうだ。
党籍剥奪までは難しいが
なお、現在のショルツ政権は難しい立場に立たされている。
シュレーダー氏が侵略戦争の当事国からお金をもらっているのは、国民の手前、看過できないが、氏は今もSPDの党員だ。当然、党の内部ではシュレーダー排斥の声も高く、党幹部がシュレーダー氏宛の書簡で、自発的に離党してくれるように要請したと言われるが、梨の礫だそうだ。
ただ、党が慎重にならざるを得ないのは、思想を理由に党籍を剥奪するとなると、基本的人権に抵触し、裁判になれば負ける可能性があるからだという。かといって、外国企業で役職に就いていることだけでは、党籍剥奪の理由にならない。
元首相が外国勢力と結託したり、風評の片棒を担いだりして国益を損ねている話は日本でもあった。「元首相」というのは、なぜ、禄なことをしない人が多いのだろう。