Shinzo-Returns

安倍総理の志は死なない!!

中国すがった末に国家破産のスリランカで大統領が国外脱出、中国大使館も緊張

 衝撃的なニュースが入ってきた。政情不安が続くスリランカで、日本時間の7月12日夜、ゴタバヤ・ラジャパクサ大統領(73歳)が、コロンボの空港からUAE(アラブ首長国連邦)に脱出しようとして失敗したという。空港職員たちは、ラジャパクサ大統領がVIP待合室に入ろうとするのを、決死の覚悟で阻止。危険を感じた大統領一行が、空港を離れた。
 だがその後、事態は急展開した。13日未明にラジャパクサ大統領は、軍用機で、夫人と護衛1人を同行させてモルディブに脱出したというのだ。
 先週末の9日には、すでに大統領公邸が群衆たちに占拠され、邸内から庭のプール、スポーツジムまで、その豪華絢爛な内部が世界に「公開」された。2200万スリランカ国民の怒りはすさまじく、もしかしたらこの「スリランカの独裁者」には、近い将来、悲劇的な最期が待ち受けているのかもしれないとも思われた。その最悪の事態を逃れるための、逃亡劇だった。
スリランカの中国大使館も固唾をのんで事態注視
 そんなスリランカでは、他にも、身を潜めている人たちがいる。コロンボのBAUDDHALOKA MAWATHA通りに君臨する中国大使館である。
 長く沈黙を保っていたが、7月9日になって、「スリランカの中国公民の安全防犯強化要請」を、大使館のホームページに掲示した。その要旨は、以下の通りだ。
<7月9日、スリランカで大規模な抗議デモが発生した。抗議者たちはスリランカの大統領府に進入し、抗議活動ではすでに多くの人が負傷している。
 中国の駐スリランカ大使館は、スリランカ在住の中国公民に対して、現地の安全状況を十分注視するよう要請する。いかなる抗議活動にも参加したり、見学したりしてはならない。
 現地の法律法規を順守し、警戒心を高め、安全に注意し、防犯を強化すること。外出を減らし、通信を保持し、適宜大使館の通知要請を注視すること。
 もしも緊急事態が発生したら、適宜警察を呼び、また駐スリランカ中国大使館に連絡し、救助を求めてほしい。(以下、警察や中国大使館の緊急電話番号などが記されている)>
 ある中国の関係者は、こう語る。
「中国外交部でスリランカ大使というのは、南アジアでは、パキスタンやバングラデシュの大使と並んで、『居心地のよいポスト』だった。何より親中政権で、中国が圧倒的な影響力を保持していたからだ。
 それでいまの威振宏(い・しんこう)大使も、学者肌の男だ。外交官なのに、ほとんど外国での勤務がなく、わずかに2014年から2017年まで、駐バーレーン大使を務めたくらいだ。それがこの春からの暴動で、試練の時を迎えている」
中国と「ズブズブ」になったラジャパクサ一族
 ラジャパクサ一族がスリランカを支配するようになったのは、2005年からである。この年、いまのゴタバヤ・ラジャパクサ大統領の兄のマヒンダ・ラジャパクサ氏が大統領に就任。陸軍出身のゴタバヤ氏は、国防次官として分離独立派(LTTE)と戦い、2009年に壊滅させた。
 国内統一を果たしたこの頃から、ラジャパクサ一族は、中国と「ズブズブの関係」を築いていく。その詳細は、後に『ニューヨークタイムズ』(2018年6月25日付)が暴露した。
 2015年の大統領選でマヒンダ氏が敗れて、いったんは政権を退くが、2019年の大統領選でゴタバヤ氏が出馬し、勝利した。マヒンダ氏は首相となり、翌2020年には憲法を改正して、大統領の権限を強化した。
 そんな中、2017年8月、世界に衝撃が走った。ラジャパクサ政権が、南部の要衝・ハンバントタ港の運営権を、99年間、中国に租借したのである。中国からの借款を返済できなくなり、11億ドルで「身を削った」。いわゆる「債務の罠(わな)」に陥ったのだ。
中国によるハンバントタ港支配によってインド洋を巡るパワーバランスが激変
 なぜ中国が「99年間の租借権」を要求したのかについては、詳らかにされていない。これは推測だが、かつて1898年に、香港の新界でイギリスに同じことをされた「復讐」ではないだろうか。
 香港は結局、「99年の租借期間」を終えた1997年7月に、一括してイギリスから中国に返還させた。だが、かつて香港返還を取材中、当時の中国の外交官は、私にこう言っていた。
「イギリスから植民地を平和裏に返還させることが、いかに大変なことか、交渉に携わって身に沁みている。それと同時に、いつかは中国も、世界のどこかの土地を99年間、租借したいものだ」
 この「中国の願望」は、意外に早く現実のものになったというわけだ。だがこの時、特に危機感を募らせたのが、インド洋を長く支配していたアメリカ、スリランカの旧宗主国であるイギリス、そして近隣の大国インドだった。
 ここから「米英印vs中」というインド洋の構図が鮮明になっていく。日本もアメリカの側に組み込まれた。先週、凶弾に斃れた安倍晋三元首相が唱えた「インド太平洋構想」が注目されたのも、ハンバントタ港が中国に支配された影響が大きかった。
 ラジャパクサ政権にしてみれば、チャイナマネーを利用して、自国を経済発展させようとしたのだろう。
「第二のスリランカ」は必ず出現する
 スリランカは16世紀以降、ポルトガル、オランダ、イギリスの植民地となり、第二次世界大戦後の1948年にようやくイギリス連邦の自治領として独立を果たした。だがイギリスは独立後のスリランカを、相変わらずセイロン茶やゴムなどの供給地としか見なさず、経済発展を支えることはなかった。
 ところが中国は、スリランカに港や高速道路、金融センターなど、ありとあらゆるインフラを整備してくれようとしたのだ。中国にしてみれば、ヨーロッパ列強よりも早い15世紀初頭に、明の永楽帝が派遣した鄭和(てい・わ)の船団が来訪し、朝貢国にしている。自分たちは決して「新参者」ではないという自負もあった。
 だが、中国の強力なバックアップを得たものの、脆弱な経済基盤が露呈し、急速な経済発展によって借款を返済していくというラジャパクサ政権の思惑は狂っていった。
 2020年からのコロナ禍は、農業と並ぶスリランカ経済の柱だった観光産業に、壊滅的打撃を与えた。さらに今年2月のウクライナ危機で、エネルギーと食料危機に陥り、万事休すとなった。4月以降、大量の失業者が連日デモを行い、最後はラジャパクサ大統領を引きずりおろした。
© JBpress 提供 『台湾vs中国 謀略の100年史』(近藤大介著、ビジネス社)
 今後、7月20日に新たな大統領を選出するとしているが、一時的にはIMF(国際通貨基金)を前面に立てたアメリカが、主導権を握るだろう。だがIMFが今年4月に発表した最新のGDPランキングで、スリランカは70位の819億ドル。その62%にあたる510億ドルもの外債を抱えているのだから、アメリカ及びそのグループが短期に救済できるとは、とても思えない。再び中国が「触手」を伸ばしてくるに違いない。
 スリランカは、「中国に侵食された国」というより、「中国でも支えられなかった国」である。そしてこれから世界には、「第二のスリランカ」が、続々と現れるだろう。「大乱の時代」の幕開けである。