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安倍総理の志は死なない!!

出産クーポン「的外れにも程がある」と言える根拠

低出生率は「産み控え」によるものではない
荒川 和久 : 独身研究家、コラムニスト
2022年10月26日
10月中旬にマスコミ各社で報じられた「出産(子育て)クーポン」のニュースが大きな波紋を呼んでいます。
報道によれば、政府は10月末にまとめる総合経済対策の一環として、0~2歳児のいる世帯を対象として、一定額のクーポン(子ども一人当たり10万円相当のクーポン、もしくは自治体判断により現金)を所得制限なしに支給するというものです。この案は、元々東京都が2021年から始めた「赤ちゃんファースト」など自治体独自でやられていた事業をそのまま全国に横展開したいという考えのようです。
加えて、単発ではなく、来年度以降も継続的に実施する方針であることが後から追加公表されました。
ですが、SNS上では「クーポン配られたくらいで子どもをもう1人産もうなんて考えるか!」「所得制限ないけど今度は年齢制限かよ。3歳以上の子どもは見捨てるのか!」「なんでわざわざクーポンなのか?現金配るより余計に無駄な事務局経費がかかるだけじゃないのか」など、批判の声が殺到しました。いちいちごもっともなご意見だと思います。
あちらでは所得制限、こちらでは年齢制限
子育て支援策として、妊婦や新生児のいる世帯を対象として何らかの給付をするということそれ自体は否定しません。実際、東京都の事業で助かったという世帯も多いでしょう。
しかし、だったらそもそも今までの児童手当の所得制限による給付停止などしなければよかったのではないでしょうか。あちらでは所得制限、こちらでは年齢制限などとわざわざ複雑化することの意味がわかりません。
そして、それよりも私が大いに疑問に感じるのは、「想定を上回るペースで少子化が加速しており、新型コロナウイルスの流行長期化や将来不安から『産み控え』が起きているため」と毎日新聞などが報じたこの政策そのものの狙いの部分です。狙いがそこにあるということは、これは「子育て支援」というより「少子化対策」ということなのでしょうか?
だとすれば、的外れにもほどがあるといわざるを得ません。
もちろん、子育て支援は重要であることは言うまでもありませんし、少子化があろうとなかろうと子育て支援はやるべきものです。しかし、子育て支援をすれば少子化が解決するという因果もありません。問題の本質を見誤ってはいけないと考えます。
そもそも「産み控えがある」などという事実は、一体どこにあるのでしょうか?
確かに、出生数そのものは減少し続け、2021年の確定値では81万1622人と、戦後最低を更新し、合計特殊出生率も過去最低だった1.29に迫る1.30という低迷ぶりでした。しかし、この出生数や出生率の低下は「産み控え」によるものではありません。
問題の本質は「少母化」にある
結論からいえば、問題の本質は「少子化ではなく少母化」であり、出生数の減少は、出産して母親となる女性の絶対数が減っていることに起因します。
出生のほぼ9割を占める15~39歳で説明しましょう。1人以上の子を出産した15~39歳の母親の数は、国勢調査の同居児数集計に基づけば、1985年には約1060万人いました。それが、2020年には約423万人にまで減っています、実に60%減です。
100人いた母親が2人ずつ産めば子どもは200人になりますが、現在たった40人しかいない母親がたとえ一人3人産んでも、子どもの数は120人にしかなれません。出生数が減っているのはそういうことです。200人の子を産むには1人最低5人を生まないといけない計算になります。それは無理というものでしょう。
そもそも、「産み控え」どころか、母親一人当たりが産む子どもの数は減ってはいません。
直近2021年の出生順位別の構成比でいえば、第3子以上の出生構成比は約18%と、およそ30年ぶりの高水準で、1970年代前半の第2次ベビーブーム期の15~16%より多い。つまり、子を産んでいるお母さんたちは1970年代よりも3人以上を産んでいるというのが事実です。

3人以上の比率が高まっているというのであれば、政府の子育て支援による少子化対策は効果をあげているのでは?と一瞬思いがちですが、むしろ逆です。第3子の比率があがっているからこその少子化なのです。
なぜなら、全体の出生数がこれほどまでに減っている理由は、第1子が生れていないためだからです。長期の出生順位比率をみても、近年は第1子の比率だけが下がっています。第1子が生れなければ、当然第2子は生れません。第3子以降も同様です。
つまり、出生数は第1子の出生が少なければ、全体の出生数を底上げすることはないのです。婚外子の極端に少ない日本においては、第1子の出生が少ないということはすなわち婚姻数の減少によるものです。
約9割の初婚女性が第1子を出産
というと「結婚したからと言って必ずしも子を産むわけではない。産まない選択をする夫婦もいるし、望んでも授からない場合もある」という指摘があります。確かにその通りですが、結婚した女性が全員必ず出産するなどとは申していません。
とはいえ、マクロ的に見れば、第1子の出生数と女性の初婚数とは密接に相関しますし、その相関係数(1960~2021年)は限りなく最大値の1に近い、0.9762にもなります。
第1子出生数を女性の初婚数で除した「対初婚第1子出生率」でみれば、第2次ベビーブーム期のほぼ100%に近い状況には及びませんが、1990年代に比べれば、2021年実績でも89%とほぼ9割の初婚女性が第1子を出産していることになります。
つまり、少子化対策というのであれば、初婚数の増加を図らなければ効果がないということになります。ちなみに、2019年だけ突出して低いのは、令和婚効果の影響で婚姻数が一時的に増えたことによります。

昨今、政府の少子化対策白書の中にも「若者の婚姻支援」というものの重要性にフォーカスが当たり始めていますが、では、今から婚姻を増やせば少子化は解決できるかといえば、残念ながらそうはなりません。
なぜなら、もはや、婚姻対象となる若者人口自体が減っているからです。皆婚時代の1985年の15~39歳の女性人口総数は国勢調査ベースで約2212万人。2020年は約1594万人です。約3割も減っています。
初婚数は、1985年は65万6609組、2020年は43万7169組と、これも33%のマイナスです。数字の辻褄はあっています。出産可能なそもそもの女性人口が減っている以上、婚姻が減るのは当然で、婚姻が減るから出生が減るのも当たり前の道理なのです。
この年代の人口総数が少ないのは、彼女たちが生まれた1990年代以降に、本来到来するはずだった第3次ベビーブームが起きなかったことによります。
バブル崩壊後とあわせてその後の「給料があがらない時代」という経済環境や、お見合いなどの結婚の社会的システムが消滅し、自由結婚といえば聞こえはいいですが、基本的に恋愛弱者たちが結婚できなくなる時代へ突入しました。あわせてセクハラ裁判などの影響により職場結婚も減少し始めた頃です。
2020年の生涯未婚率が過去最高といいますが、その対象者はまさに1990年代にもっとも結婚するはずだった20代の若者でした。言ってしまえば、今の出生数の低下はもろもろ1990年代に確定された未来が表出しただけにすぎないのであって、突然ふってわいた危機でもなんでもないわけです。加えて、今後はますます婚姻が減るかもしれません。若者の未婚化・非婚化が進んでいるからです。
結婚したいけどできない現実
これが、若者が自分の意志で「あえて結婚しない選択」をしているとするならばそれはそれで尊重すべきことですが、実態は違います。
『「不本意未婚」結婚したいのにできない若者の真実』の記事でも書いた通り、2015~2019年においては、結婚したいと希望する20~34歳の若者の6割しか結婚できていないという現実があります。そこには、若者の給料や雇用に絡む経済的不安要素が大きいことは否めません。子育て支援と同様にこの若者の支援にも目を向けていただきたいものです。
繰り返しますが、結婚した夫婦は、1980年代と変わらず子どもは産んでいます。「産み控え」どころか、経済環境が苦しい中でも若い夫婦は、生まれてきた子どもたちの未来のために頑張ろうとしています。
未婚化を「若者の草食化」のせいにしたり、低出生率を「産み控え」のせいにしたりするのではなく、結婚や出生が増えない根本的な要因と事実にしっかり向き合って、何が目的なのかを曖昧にせずに的確な政策の立案と実施が求められていると思います。
減り続ける人口はどうにもなりませんが、だからこそ、今いる数少ない子どもたち及びこれから結婚も含め未来ある若者に対する支援を真剣に考えるべきでしょう。それは、決してバラマキやクーポンなどで「何かやりました感」を出しただけで、問題の本質から目を背けてしまうことではないと思います。