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安倍総理の志は死なない!!

防衛増税も迷走「岸田政権」に今、決定的に足りぬ事

旧態依然の手法、さらなる失速は避けられない
星 浩 : 政治ジャーナリスト
2022年12月23日
岸田文雄政権の迷走が続いている。2023年度から5年間の防衛費を、それまでの27兆円から43兆円に大幅増額させることを明言したものの、法人税増税など財源の具体案は自民党内の反発から先送りした。
先制攻撃(敵基地攻撃)能力の保有を認めるなど防衛政策の大転換だと大見得を切ったが、政策の進め方は有識者会議の開催や自民党内の内輪の議論など旧態依然の手法で、岸田首相の説明不足は否めない。民意と向き合い、じっくりと対話を重ねることができない。岸田首相のそんな資質があらわになった。年明けの通常国会で野党の攻勢が強まるのは必至。岸田政権のさらなる失速は避けられそうにない。
「反撃能力」の明確な説明をしていない
「大転換」の中身を見てみよう。政府は12月16日、国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛力整備計画の安保関連3文書を閣議決定した。その中ではまず、軍備拡張を進める中国について「最大の戦略的挑戦」と位置づけ、北朝鮮は「差し迫った脅威」としている。これに対して日本は外交努力を進め、日米同盟を強化し、同志国との連携も進めるという。こうした情勢認識については、大方の理解を得られるだろう。
その認識に基づく防衛力整備について、今回初めて、反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有を盛り込んだ。このあたりから岸田首相の説明があいまいになる。敵がミサイルを発射する際、発射に「着手」した時点で日本からの反撃が可能だというのが「反撃能力」だが、一歩間違うと、国際法違反の「先制攻撃」になる危険性がある。
これは日本が堅持している「専守防衛」の原則にも反する。そうした問題点について、岸田首相は明確な説明をしていない。中国や北朝鮮に対抗してアメリカ製の巡航ミサイル「トマホーク」などを配備するが、その運用についても首相自身がわかりやすい説明がなされていない。
さらに43兆円の財源をめぐっては、政府・自民党の議論が混乱する。歳出削減などで財源をひねり出すが、それでも足りない1兆円強について新たな税負担を求めることになった。たばこ税を引き上げて2000億円、復興特別所得税(2.1%)を1.1%に引き下げる分、新たな付加税(1%)を設けて2000億円をそれぞれ確保する。さらに法人税に4~4.5%に上乗せ税率を課して7000億~8000億円を確保する。
ただ、自民党内から増税への反対論が相次いだほか、閣内でも高市早苗・経済安保相が「賃上げマインドを冷やす発言を、このタイミングで発信された総理の真意が理解できません」と疑問を呈した。自民党税制調査会での議論も紛糾し、最終的には増税の内容は予定通りとしながら、実施時期は2023年度に詰めることになった。事実上の先送りである。
決定プロセスに問題はなかった?
岸田首相は防衛費の増額について「内容、予算、財源を一体として決める」ことを明言していたが、実際には、43兆円という予算額が先行して示され、その後に自民党税調を中心に財源が話し合われたものの、実施時期などを確定させることはできなかった。財源として想定している歳出削減も具体的な中身は明確ではない。
防衛力整備の具体的な内容は防衛力整備計画の「別表」として、イージス艦2隻、早期警戒機5機、護衛艦12隻、潜水艦5隻などが示された。ただ、こうした装備を運用する自衛隊の要員不足をどう解決するかといった問題は残ったままだ。
岸田首相は、今回の防衛費増額について「防衛政策の大転換」と位置づける一方で、「決定プロセスに問題があったとは思わない」と述べている。
実際の決定プロセスは、首相、外相、防衛省らでつくる政府の安全保障会議をたびたび開催し、佐々江賢一郎元駐米大使を代表とする有識者会議で議論を進め、財源については自民党や公明党の税制調査会で論議を重ねた。さらに年明けの通常国会で予算案や国家安全保障戦略などが審議されるという。
確かに、経済や社会保障などの通常の政策であれば、こうした政府・与党の論議を経て原案が国会に提出され、審議され、可決・成立されて実現していく。ただ、岸田首相も認める通り、国の行方を左右する「大転換」である。通常の予算案や法案とは異なる説明プロセスが求められるのは当然だ。とりわけ、国民に対して直接、訴える場が欠かせないのだ。
歴代の政権でも、1989年に消費税を導入した際の竹下登首相は「辻立ち」と称して、全国各地で社会保障の財源を確保するための消費税の必要性を説いた。竹下氏自身が消費税導入に伴う「懸念」を列挙して、政府が懸念解消のための対策を講じる考えを説明した。その粘り強い姿勢が野党にも伝わり、関連法案が成立したのである。
2005年に郵政民営化を実現した小泉純一郎首相は、竹中平蔵氏を郵政民営化担当相や総務相に起用して、民営化の意義や中身の説明を一手に担わせた。いわば「広告塔」である。竹中氏はテレビなどに積極的に出演し、国民に向かって立て板に水で解説。それが民営化関連法案の成立に大きく貢献した。
支持率は発足以来最低
岸田首相が「防衛政策の大転換」と言うなら、説明の仕方も「大転換」しなければならない。岸田首相がタウンミーティングなどに出席して国民と直接対話したり、外交・防衛政策に通じた「広告塔」役を設けて国民への説明を尽くしたりすべきなのに、そうした工夫は見られない。
国家安全保障戦略などの重要文書についても、最終決定の前に「中間報告」的な文書を公表して国民的な議論の素材を提供するやり方もあったが、そうした知恵は発揮されなかった。
防衛費増額の決定を受けて、岸田内閣の支持率は急落した。12月17、18両日の毎日新聞の世論調査では、内閣支持率が25%で、11月から6ポイント下落。不支持率は69%で7ポイント上昇した。同時期の朝日新聞の調査でも、支持率は31%で11月から6ポイント低下、不支持率は57%で6ポイント上昇した。
両調査とも、支持率は岸田内閣発足以来、最低となった。防衛費増額には一定の理解があるものの、説明不足を指摘する意見が多数を占めている。
防衛政策の大転換という大きな課題をめぐって、民意との対話をスムーズに進められない岸田首相の力量不足が明らかになっている。
岸田政権は2023年度の予算編成を終えて、年明けからの通常国会に向かう。防衛費の増額、法人税増税や復興特別所得税の扱い、反撃能力の内容などについては、これまで国会での本格論議がなかったため、野党は「国会軽視」と強く反発している。通常国会で岸田首相の政治姿勢が厳しく追及されるのは必至だ。
物価高対策などの経済政策に加え、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と自民党との癒着問題、さらには政治資金の過少報告で衆院議員を辞任した薗浦健太郎元外務副大臣の疑惑などもあり、国会審議は紛糾しそうだ。
自民党内に逆風が吹く可能性も
4月の統一地方選や国政選挙の補欠選挙を控えて、自民党には逆風が吹き荒れそうだ。次の衆院解散・総選挙に向けて、自民党内では「岸田首相では選挙に勝てない」という反応が出てくる可能性もある。
岸田首相としては5月に広島で開催するG7サミット(主要7カ国首脳会議)を成功させ、政権の立て直しを図りたい考え。だが、防衛費増額で明らかになったように、民意との対話を進める意志と知恵を欠いたままでは、政権の展望は見えてこない。