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安倍総理の志は死なない!!

静岡リニア「財務諸表読めない知事」JR東海を糾弾

首相への意見書に記した長期債務残高に誤り
小林 一哉 : 「静岡経済新聞」編集長
2023年02月01日

岸田総理への意見書をすべて読み上げる川勝知事(静岡県庁 、筆者撮影)
静岡県の川勝平太知事は簡単な財務諸表も読みこなせないようだ。それによって、2023年1月24日に送った岸田文雄総理大臣宛のリニア問題の意見書の中で、風評被害を引き起こし、JR東海の経営を危機に陥れかねない重大な誤りを犯した。JR東海への謝罪が必要となるだろう。
現在の長期債務は6兆円ではない
川勝知事はこの意見書の中で、『現在のJR東海の長期債務残高は健全経営の限度「5兆円以内」を優に超えている』という事実誤認をした。これまでの会見では、JR東海の長期債務残高を「現在6兆円」と何度も述べていた。
実際は、2022年度第2四半期(2022年9月末)時点におけるJR東海の長期債務残高は「4.94兆円」。そのうち、「3兆円」は元本返済30年猶予、超低金利の財政投融資の債務である。残りは社債、長期借入金などでその額は1.94兆円である。最新の2022年度第3四半期(2022年12月末)時点でも4.95兆円だ。
川勝知事の意見書はJR東海の現在の経営状況が危機的であると周囲に思わせるものであるが、それを総理宛に送っただけでなく、すぐに、そのまま静岡県ホームページに公開してしまった。
これで川勝知事はまさにJR東海へ「風評被害」を引き起こす“風評加害者”となったのだ。
1月24日の知事会見は異様に見えた。
「内閣総理大臣岸田文雄様」の宛書のあるA4判4ページにもわたる「東海道新幹線の需要動向(静岡県へのメリット)調査について」の意見書を記者たちの前で、川勝知事は誇らしげに一言一句すべて読み上げたのだ。
今回の意見書は、2023年1月18日記事(静岡リニア「人を呪わば穴二つ」川勝知事の慢心)で伝えた通り、岸田首相の「夏までにリニア開業後の東海道新幹線の停車頻度増加をシミュレーションさせる」という発言を逆手に取り、2027年品川―名古屋間を開業した場合、ひかり号、こだま号の大増発はムリだから、静岡県にメリットはないことを県民にわかるように説明するよう求める趣旨のものだった。
それだけでなく、2027年開業を困難にしているのが、静岡工区の未着工ではなく、他の懸念する6事案があることを指摘、それらを解決するJR東海の方策について岸田総理の回答を求めている。
その中に、『JR東海の長期債務残高「6兆円」問題』というタイトルの1事案を登場させた。
そこにはこう書かれている。
JR東海は、(2010年の)中央新幹線小委員会で「長期債務残高を『5兆円以内』とすることが適切かつ必要」とし、「長期債務残高『6兆円』を想定すると、ピークの年には新規・借り換えを合わせて1年間で1兆円を超える調達が必要になる。こうした多額の調達は現実に極めて難しい」と表明しました。
しかし、現在のJR東海の長期債務残高は健全経営の限度「5兆円以内」を優に超えています。JR東海は、2021年4月27日、「中央新幹線品川・名古屋間の総工事費に関するお知らせ」で、品川・名古屋間の工事費を1.5兆円増の約7兆円、「令和11年度の長期債務残高6兆円」と発表しました。
国に提出した事業計画とは明らかに異なる事態です。政府による検証が必要であると思料いたします。
【2022年2月1日10時00分 追記】「令和1年度の長期債務残高6兆円を「令和11年度の長期債務残高6兆円」に修正しました。
現在のJR東海の経営があまりにも危機的であると川勝知事が糾弾したのだ。
それどころか、川勝知事は2022年12月27日の会見で「6兆円になる債務、長期債務残高ではやっていけない。ところが、6兆円になっています」と述べたのに続いて、2023年1月11日には「長期債務残高が5兆円以下なら体力が持つ。しかし6兆円になったらもたないと(JR東海は)国交省に正式な文書で言っている。現在6兆円です」、「借金が6兆円ありますからね。長期債務残高が。そういう中でどうやっていくのか」など「JR東海の現在の長期債務残高6兆円」を連発していた。
県の担当部署に確認してみたら…
筆者は1月26日、担当の静岡県交通基盤部で、川勝知事の総理大臣宛意見書に『現在のJR東海の長期債務残高は健全経営の限度「5兆円以内」を優に超えている』と書いてあるので、その正確な数字を教えてほしいと何度も尋ねたが、誰ひとり答えられなかった。
筆者の取材でようやく、県も事実誤認に気づいたのであり、川勝知事の連発した「6兆円」を鵜呑みにしたのか、担当者らは公開されているJR東海の財務諸表をちゃんと確認しなかったのだ。あまりにもずさんである。
百歩譲って、川勝知事が現在ではなく、令和11年度の長期債務残高6兆円を問題にしているとしよう。JR東海が、2010年5月10日の新幹線小委員会で長期債務残高の水準について、『「5兆円以内」とすることが適切かつ必要と考えている』と説明したのは事実だが、いまから約13年前の話であり、現在のJR東海の経営状況を踏まえないで当時の資料を問題にするのは、軽率というよりも悪意があるとしか言いようがない。
日本国有鉄道の膨大な債務を引き受け発足したJR東海は1987年当時、5.3兆円程度の借金を抱えていた。年6.5%程度の高い固定金利の債務だけでなく、営業キャッシュフローが3000億円程度しかなく、当時の返済は簡単ではなかった。
2000年代に入ると、営業キャッシュフローが4000億~5000億円程度となり、コロナ禍前には6000億円を超えていた。こうした中で、長期債務残高は2015年度に1.9兆円までに圧縮され、経営状況は改善され、非常に良好だった。
品川・大阪間の開業を8年前倒しするために、当時の安倍晋三首相の指示で、財投資金3兆円が2016〜2017年の2カ年で投入されたため、長期債務は5兆円近くまで一気に膨らんだ。
ただ、この3兆円は、JR東海が品川・名古屋間の開業後に、名古屋・大阪間のリニア工事に早期着手させる趣旨で、30年間元本返済猶予でリニア開業後に元本返済という非常に有利な債務であり、利子負担も非常に軽く、経営を圧迫するものではない。
2010年の小委員会では、銀行などからの負債調達を踏まえ、『長期債務残高を「5兆円以内」とすることが適切』としたのであり、当然、3兆円もの財投融資など想定しなかった。
JR東海は2021年4月、難工事の対応など品川・名古屋間の総工事費の見通しを1.5兆円増の約7兆円とし、2028年度の長期債務残高を「6兆円」と見込んだ。そこには3兆円の財投が含まれ、営業収益1.53兆円を見込んでおり、健全経営と株主安定配当を堅持できるとしている。
営業キャッシュフローが4000億〜5000億円程度しかなく長期債務残高は5兆円以内としていた2010年頃と現在とではJR東海の置かれた状況はまったく違う。
2020年11月18日の会見で、川勝知事は「(安倍元首相はリニアに)一番コミットされた首相であり、何しろ3兆円もの国税を財投として投入された」などと述べている。財投に国税の投入はなく、財投債(国債)を発行して大規模・長期プロジェクトに活用される。当然、JR東海は全額返済する。
川勝知事の誤りを誰も指摘できない
川勝知事に財投の知識はなく、職員も財投だけでなく、長期債務残高「6兆円」の事実誤認などを指摘しなかったのだ。何度も書いているが、“裸の王様”川勝知事にもの申せない県庁組織は崩壊寸前である。
川勝知事は、岸田総理宛の意見書の最後で『JR東海の長期債務残高の再評価など、集中的に取り組んでいただくことを要請する』など無知蒙昧であるゆえに、強気の姿勢だった。
今回の重大な誤認は、単なる口頭ではなく、岸田総理宛意見書とともに県ホームページに公開したから、すべて“事実”として証明できる。これだけでなく、「反リニア」の言動すべてがJR東海の経営を危機に陥れる恐れが高く、非親告罪の業務妨害罪(偽計業務妨害:嘘の情報を流して業務を妨害する罪)に問われてもおかしくない。