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安倍総理の志は死なない!!

ロシアは資源大国から凋落し中国に依存する

ヤーギン氏に聞く「エネルギー地政学」の未来図
林 哲矢 : 東洋経済 記者
2023年02月24日
エネルギー問題の権威、ヤーギン氏は「大国間競争の新時代」が訪れると予言する。
ロシアのウクライナ侵攻をきっかけに、高まるエネルギー危機。エネルギー問題の世界的権威であるダニエル・ヤーギン米S&Pグローバル副会長は、「危機は始まったばかり。まだ終わらない」と説く。(インタビューは1月末に書面で実施)
[3つのポイント]
・ロシアは地政学的な力を失い中国へ依存
・気候変動対策を背景に国家はより市場へ介入
・鉱物資源の確保が次の大国間競争の火種に

──ロシアによるウクライナ侵攻から1年となります。侵攻の影響をどうみていますか。
ウクライナ戦争がいつ終わるかは誰にもわからない。いま予想されているのは、ロシアによる新たな大攻勢だ。プーチンはこの戦争に負けるわけにはいかないからだ。一方の欧米側は、世界の安定やアジアといった他地域への波及、国際法違反やロシアの残虐性といった理由から、プーチンに勝たせるわけにはいかないと考えている。
世界の石油市場は分裂
ウクライナ戦争は世界のエネルギー市場に大きな影響を及ぼしている。(脱ロシア産ガスを進める)欧州ではLNG(液化天然ガス)への依存度が高まり、パイプライン経由で送られるはずだったロシア産ガスが大量に滞留している。
またG7(主要7カ国)がEU(欧州連合)と共にロシア産石油製品や、ロシア産原油の販売価格に上限を設ける制裁を発動したことで、世界の石油市場は分裂し、ロシア産原油の買い手は減っている。
価格上限により今のところロシア産原油は安く売買されており、ロシアの国家財政に打撃を与えている。これまでのロシアはエネルギー大国だったが、今後は資源を武器にした地政学的な力を失い、経済面で中国依存を強めるだろう。
──エネルギー危機は長期化するのでしょうか。
まず石油については、中国の都市封鎖(ロックダウン)で世界の石油需要が減少した。だが今後は(「ゼロコロナ」政策の見直しによる)経済再開が石油価格に影響する。また世界全体の経済成長も重要なポイントだ。その結果、世界の石油市場では前半は供給が需要を上回るものの、後半は盛り返して需要が供給を上回るだろう。
中長期にみても、しばらくは需要が伸び続ける。近著『新しい世界の資源地図』の中でも指摘したように、世界人口の8割を占める途上国の所得が向上するからだ。
LNGについては、中国の経済再開に伴いアジアと欧州の間で奪い合いが起きる。カタールやアメリカからの供給が本格化する2020年代半ばまでは、逼迫するだろう。
今回のエネルギー転換は国家主導型
──ウクライナ問題をきっかけにエネルギー安全保障への意識が高まりました。国家と市場の役割にも変化が見られます。
過去数十年にわたって築いてきた市場の信頼性の向上を逆行させ、国家は経済への介入を再び強め、「司令塔」へと戻っていくだろう。(エネルギーを安定的に確保する)エネルギー安全保障に加え、(脱炭素に向けた)気候変動対策も国家の役割が変貌する一因だ。
エネルギーの歴史を見ると、(木材から石炭へ、石炭から石油へといった)過去のエネルギー転換は、主に技術面での進歩と経済面での優位性によって推進され、転換を終えるまでに長い時間が必要だった。だが、気候変動対策を背景にした今回のエネルギー転換は国家主導型。四半世紀以内に起こるよう計画されている。
一部の国際機関も、各国の政策の推進力によりエネルギー転換をより早く実現できると主張している。だが、エネルギー安全保障の問題を軽視している点を見過ごしてはならない。各国は保護主義を強めて、技術面での普及が遅れる可能性があるからだ。
例えばアメリカは何十年もの間、日本政府による「産業政策」と「(市場)介入」に対して不満を表してきた。しかしアメリカでは今、産業政策という言葉が公に使われている。
昨年8月に成立した「CHIPS・科学法」(半導体の生産や研究開発に補助金)や、同じく8月に成立した「インフレ抑制法」(エネルギー安全保障と気候変動への対策を後押し)など、大型新法に産業政策という言葉が並ぶ。なんという“宗旨変え”だろうか。
──保護主義を強める大国間の対立により、脱炭素に欠かせない鉱物資源の確保も遅れそうです。
脱炭素を背景に今、再生可能エネルギーに注目が集まる。ただし、再エネの拡大には、「鉱物資源のサプライチェーン(供給網)」という問題が立ちはだかる。


S&Pグローバルは銅の需給についての大規模な調査をした。その結果、将来の供給に圧力がかかることがわかった。資源を発見し、開発許可を得て、採掘するまでには約20年かかる一方、今後15年で銅の需要は大きく伸びる。銅は「(脱炭素に向けた)電化のための金属」なので、供給制約は世界にとって重要な問題である。
このサプライチェーン問題こそ、『新しい世界の資源地図』の中で「大国間競争の新時代」と呼んでいるものだ。中国は鉱物資源の必要性を早くから予見し、電気自動車や洋上風力発電など再エネに必要な鉱物の採掘と加工で強固な地位を築いている。アメリカが打ち出した「インフレ抑制法」は実は「対中国法」ともいえる。
企業にとって数年前まで、サプライチェーンは主に効率性を追求するものだった。しかし今では、(地政学リスクに絡み)経営上の重要課題へと一変している。
バランスが取れている日本の政策
──昨年12月に日本政府は、脱炭素と産業構造の転換に向けた官民150兆円の投資や原発活用を掲げた「GX(グリーントランスフォーメーション)基本方針」を発表しました。どう評価しますか。
日本の政策は、諸外国の計画と比べてバランスが取れており現実性もある。1つの対処法に過度に集中するリスクも認識している。原発なしで(脱炭素の)目標を達成するのは非常に難しい。ドイツでは今、あまりに早く脱原子力を進めたことが誤りだったと理解され始めている。プーチンが同国のエネルギー供給システムの弱点を突こうとしたからだ。
日本は技術や開発といった強みを生かすことで、世界経済での地位を高められる。