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G7環境大臣会合の共同声明…気候変動対策で再生可能エネルギーに固執するのではなく、条件つきで火力発電も容認へ

国内メディアの扱いは小さかったが…
「排出削減対策が講じられていない石炭火力発電のフェーズアウトを加速する」--。
来月のG7(主要7カ国)広島サミットへ向けた15の関係閣僚会合のトップを切って、先々週土曜日(4月15日)とその翌日に札幌で開催された「気候・エネルギー・環境大臣会合」が採択した共同声明が、この文言を明記したことは、日本にとっておおいに歓迎すべきことである。
というのは、この文言は、発電分野の気候変動対策として、従来のように太陽光や風力と言った再生可能エネルギーへの転換という方策だけに固執するのをやめて、CO2の排出を削減する対策さえ講じれば、化石燃料を使う火力発電の活用も容認していくという柔軟な姿勢に転換したことを意味するからである。G7として、こうした姿勢を明確にしたのは、これが初めてだ。
それゆえ、「気候・エネルギー・環境大臣会合」の議長をつとめた西村経済産業大臣は記者会見で、「各国の事情に応じた多様な道筋でゴールを目指す」ことが可能になったと胸を張ったと報じられている。
ところが、「気候・エネルギー・環境大臣会合」の閉幕が新聞休刊日と重なったため、共同声明の要旨すら報道しないところが多いなど、直後に軽井沢で開かれた「G7外務大臣会合」に比べて国内メディアの扱いが極端に小さかった。はっきり言って、その成果が分かりにくい報道振りだったのだ。
とはいえ、差し迫る気候変動への対策は、人類共通の課題である。その対策で転換や見直しを迫られる経済・産業構造や、我々のくらしへの影響は甚大だ。その意味で、「気候・エネルギー・環境大臣会合」が取りまとめた共同声明は、外務大臣会合のそれに勝るとも劣らない意義があったと筆者は考えている。そこで、今週は、その解説をしておきたい。
今さらと思われる方も多いだろうが、意外と知らないと言われることも少なくないので、最初に「G7」そのものについて触れておく。正式名称は英語で「Group of Seven」だ。もともとは、第2次大戦で激しく対立したフランスとドイツ(当時は西ドイツ)が、米国、英国、日本を巻き込んで「G5」として発足させようとしたが、パリ郊外で1975年に開催された「ランブイエサミット」にはイタリアも参加した。この時、日本からは、当時の三木総理が出席している。
現状への危機感
次いで、翌1976年の第2回会合からカナダが参加、「G7」となった。さらに1977年の第3回会合からEC(ヨーロッパ共同体、後のEU)も加わった。1990年代に入ると一部セッションにロシアが加わるようになり、一時は「G8」と称した時期もあったが、2014年3月のロシアによるウクライナ領クリミア半島の侵略を受けてロシアの参加が停止され、以後、再び「G7」と称している。
英語では単なる「Group of Seven 」だが、日本では当初、「先進7カ国」の呼称で報じられ、ロシア加盟時に「主要8カ国」、参加停止後に「主要7カ国」と報じるところが多くなっている。
ただ、新興国の経済成長に伴い、「G7」の世界に占める経済力が低下。1997年に始まったアジア通貨危機を受けて国際金融システムの動揺を抑えるため、1999年にベルリンで、「G20」財務大臣・中央銀行総裁会議の第1回会議が開催された。
2008年のリーマンショックが起きると「G20」首脳会合(サミット)も創設され、2011年以降は年1回ペースでこちらも開催されている。日本は2019年に大阪で「G20」サミットをホストした。
今年は「G7」議長国を日本が、「G20」議長国をインドがつとめている。
話を、本題の「気候・エネルギー・環境大臣会合」の共同声明に移そう。共同声明が取り上げた範囲はとても広い。項目番号で見ても92あり、本コラムではとても全部を紹介しきれない。今回は、その一端を読み解く機会にするため、独断と偏見で筆者が重要だと感じた個所を解説させていただく。興味のある方は経済産業省と環境省のホームページに掲載されている英語の原文か日本政府の仮訳(日本語版)をご自身で確認していただきたい。
まずは冒頭部分だ。この部分からは、現状に対するG7各国の強い危機感が伺える。
共同声明は「我々は、ロシアによるウクライナに対する違法で、不当で、いわれのない侵略戦争を非難する。我々は、前例のない世界的なエネルギー危機、環境も含めた破滅的な影響を深く憂慮する」といった文言で始まっている。
もともと気候変動問題をはじめとした人類共通の危機に直面しているところに、ロシアのウクライナ侵攻が加わって、我々(=G7)が危機的な状況に直面しているという強い危機感を抱いていることが伺える。
そして、そうした「危機に対処するため、全ての国、特にG20パートナーや途上国及び新興国とともに、全てのレベルにおける具体的なアクションを実施する」と、G7だけでなく、世界の他の国や地域の協力を呼びかけている。
CO2の排出削減の具体策
では、どういう方針で臨むのか。注目したいのが、今回の共同声明の中ほどにある、「現在のエネルギー危機に対処し、2050年までに(CO2の)ネット・ゼロ排出という共通目標を達成するために、我々は、クリーンで、安全で、持続可能で、低廉なエネルギーを迅速に展開」「エネルギーセキュリティの向上とクリーンエネルギー移行の加速を同時に進める」と強調した。
この「加速」というワードに関しては、今年3月に、伏線となる調査報告を、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が公表している。気候変動が予想されていたよりも加速しており、温暖化対策の国際枠組みである「パリ協定」の目標、つまり、産業革命前からの地球の気温上昇を1.5度以内に抑えるためには、対応も一段と強化して、2035年の温暖化ガスの排出量を2019年に比べて60%減らすという目標の新設が必要だとの見解を表明していたのだ。
そこで、今回の大臣会合は、共同声明に、「我々は IPCC の最新の見解を踏まえ、世界の温室効果ガス排出量を2019年比で2030年までにおよそ43%、2035年までに60%削減することの緊急性が高まっていることを強調する」と明記、「2035年までに60%削減」という目標の達成にG7も今後はコミットする考えだし、他の国や地域にも留意してほしいと呼びかけた形になっている。
そして、次が、そのためのCO2の排出削減の具体策だ。「エネルギーセクターの移行」と題された章のトップバッターは「省エネルギー」で、「世界的なエネルギー転換における重要な柱として、『第一の燃料』としての省エネルギーの役割を強調する」と、見落とされがちな省エネの重要性を強調した。
また、再生可能エネルギーについては、「更なる再生可能エネルギー導入率が必要である。G7は、2030年までに洋上風力の容量を各国の既存目標に基づき合計で150GW(ギガワット)増加させ、再生可能エネルギーの導入拡大とコスト引き下げに貢献する」と記載して、風力発電を現状の7倍に増やす数値目標を掲げた。
次に紹介するのが、このコラムで最も強調したい部分だ。「電力システム」というタイトルで、「2035年までに電力部門の完全又は大宗の脱炭素化を達成することに整合した形で、国内の排出削減対策が講じられていない石炭火力発電のフェーズアウトを加速するという目標に向けた、具体的かつ適時の取組を重点的に行うというコミットメントを再確認し、他の国にも参画することを求める」と記したのだ。
3つの重要なポイント
各国の主張が錯綜して様々な修文要求が出たことの伺える、まどろっこしい表現だが、あえてあまり簡略化せずに紹介したのは、この部分に3つの重要なポイントが含まれているからである。
その第1は、「2035年までに電力部門の完全又は大宗の脱炭素化を達成することに整合した形」という部分。これは、化石燃料なのに、これまで欧米の反対で事実上の野放しだった天然ガス発電も段階的に廃止する対象に加えたという言外の意味がある。ちなみに、「天然ガス・LNG」の項目でも、「我々は、2050年までに化石燃料の採掘・生産工程全体で ネット・ゼロ排出を達成するというG7のコミットメントを再確認する」との遠回しの表現で天然ガスの段階的廃止を謳っている。
そして、日本が注目すべき第2のポイントだ。「フェーズアウトを加速する」とされた石炭火力に、「排出削減対策が講じられている」石炭火力は、含まれないということがわかる文脈が記されたのである。
この点は、今回の共同声明で日本が獲得した最大のポイントと言えるだろう。これにより、本コラムでも何度もその必要性を紹介してきたが、アンモニアや水素を石炭に混ぜて燃やすことで、その分だけ、CO2の排出を避けることができる石炭火力発電や、発電で生じるCO2を回収して、地下に埋めたり、コンクリートに混ぜて建設資材にしてしまったりして大気中に排出することを防ぐ設備を備えた石炭火力発電は今後、今までのような後ろ指を指されずに存続できることになる。
太陽光や風力発電所の建設用地に乏しい日本にとって、この共同声明は朗報であるばかりか、豊富で廉価な石炭に着目して石炭火力発電所を多く建設してきた中国や東南アジアの国々にとっても脱炭素に向けた光明と言える文言だ。その際、日本から技術輸出することも、細る一方となっている外貨獲得の拡大に向けた貴重な機会になるだろう。
日本政府は過去数年、毎年、国連の気候変動条約締約国会議(COP)が開催されるたびに、非政府組織(NGO)から不名誉な「化石賞」を贈呈され続けてきた。この原因としては、政府が、石炭火力発電に「排出削減対策」を講じてCO2排出を削減するという手法の意味をきちんとアピールして来なかった問題がある。G7の担当大臣会合も容認したことを機に、国際社会やNGOの理解を得る努力も始める必要があるだろう。
冒頭で紹介したように、会合の議長をつとめた西村経済産業大臣は記者会見で、「各国の事情に応じた多様な道筋でゴールを目指す」と自画自賛したという。
筆者の実感は、「遅かった。もっと早くやるべきだった」というものだが、遅ればせながらとはいえ、各国の国土や経済条件の違いを考慮、それぞれのやり方でゴールを目指すことを可能にした点は重要だ。
クルマのCO2排出の削減問題
第3は、少し残念な点だが、「第2」の技術開発や普及のために必要な時間が現時点では読めないことの裏返しとして、石炭火力や天然ガス発電の廃止の時期が盛り込まれなかったことがあげられる。「段階的に廃止する」というだけで、具体的な廃止時期を明記できなかったのだ。
燃やすのが、アンモニアや水素100%になれば、化石燃料を使わない。そもそも化石燃料発電はなくなるわけだ。とはいえ、やはり、早期に技術を確立し、ロードマップを明確にしないと、今回、英国が主張したような「日本は化石燃料発電の温存を狙っている」といった的外れの批判がなくならない懸念がある。
エネルギーセクターの最後の注目点は、原子力発電の問題だ。ここは原子力の本格活用に舵を切った岸田政権として、G7全体を指す「我々」という主語で、政権の方針にお墨付きを貰いたかったところとみられる。だが、そうは問屋が卸さなかった。
ちょうど、国内で最後まで運転していた原発の運転を今回の大臣会合と同じタイミングで終えて、脱原発を成し遂げたドイツの存在があったことは見逃せない。
実際のところ、共同声明は、「原子力エネルギーの使用を選択した国々は、化石燃料への依存を低減し、世界のエネルギー安全保障を確保する原子力エネルギーの潜在性を認識する」という、中途半端な表現にとどまった。
日本の産業界関連で、もう一つ大きな注目点は、クルマのCO2排出の削減問題だ。日本が防戦一方になった部分で、共同声明には、ガス抜きのため、各国の主張として様々なことがぐちゃぐちゃと書き込まれている。
が、結論は、「ネット・ゼロ達成への中間点として、2035年までにG7の保有車両からのCO2 排出を少なくとも2000年に比べて、共同で50%削減する可能性に留意」するという表現に落ち着いた。
この点では、英国が2035年までに主要市場での販売のすべてをEVに限定するよう要求したほか、米国も今後10年の小型車販売でEVなどを5割にする案の明記を迫った模様だ。しかし、日本は、議長国の立場を最大限に利用して、これらを明確な目標にせずにしのいだという。