Shinzo-Returns

安倍総理の志は死なない!!

日本はいつまで「高すぎる削減目標」を押し付けられるのか…欧州がごり押しする「脱炭素」の"理不尽"

日本のエネルギー政策はどう進めていくべきか。テレビプロデューサーの結城豊弘さんは「ヨーロッパやアメリカの利益になる脱炭素に振り回されてはいけない。アンモニアやハイブリッド車といった日本独自の強みを生かせば、世界的な真の産業競争力を手に入れられるだろう」という――。
岸田首相の威信がかかった広島サミット
5月19日〜21日の3日間、主要7カ国首脳会議(G7広島サミット)が開催される。地元選挙区での開催は、岸田首相の強い希望と想いでなんとかやっと漕ぎつけたものだ。
4月の第20回統一地方選挙と衆参両院の5つの補欠選挙では、日本維新の会や大阪維新の会の追い上げもあり、自民党の完全な勝利にはほど遠い結果だった。
永田町では、補欠選挙前、広島サミット後の衆院解散説があちこちで囁かれていたが、維新の予期せぬ勢いに押されて「解散なんかできない」という声が大きくなった。
こうなると岸田首相としては、なんとしてでも広島サミットを成功させないと支持率に大きく影響することだろう。政権運営すら危ぶまれるに違いない。だからこそ岸田首相は、余計に力瘤(ちからこぶ)で腕をブンブン回してしまう格好だ。
日本にとって良い結果が伴ってくるのか
このG7広島サミットに先立って4月15日から16日まで、札幌でG7気候・エネルギー・環境大臣会合が開催された。そのほかにも5月には、新潟でG7財務大臣会合があり、仙台ではG7科学技術大臣会合が開催された。
あまり一般には、知られていないが、サミットの議長国になると、半年をかけて議長国の国内のいたるところで、さまざまな大臣会合が行われる。それだけ日本が世界から注目され、各国の首脳陣が訪れ重要議題を議論するのは嬉しいことではあるのだが、果たして本当に日本にとって良い結果が伴ってくるのだろうか。
これまで何度かサミットを取材してきた経験を持つ私はどうしても、メインステージとも言える、広島サミットの開催の目的と結果について、少なからず疑問を持ってしまう。
化石燃料から「グリーンエネルギー」へ
広島サミットでは、岸田首相が「GX(グリーン・トランスフォーメーション)の実現」を宣言する予定となっている。つまりは平たくいうと、温暖化ガス(温室効果ガス)を発生させるこれまでの化石燃料中心のエネルギーから、太陽光発電や風力発電など、グリーンエネルギーが中心となる、エネルギーの大転換を積極的に行い、経済社会システム全体を変革し、温暖化ガスの排出を削減する取り組みを指す。
経産省によれば、単に脱炭素社会を目指すということではなく、脱炭素を進めることによって日本の「産業競争力」をアップして、新しい技術力を創出し、同時に、関連する新産業を国内で育み、海外にも勝てる日本の強みにしていくということらしい。
本当にそんなに簡単に一石二鳥が、実現できるのだろうか。人を疑うことをなりわいとする記者という仕事をしてきた私は、そんなおいしい話は、絶対に簡単ではないと肌感覚で思う。
議長国というのは、議題をまとめ上げて、先進国各国が、とりあえず「今回は、これをやることにしましたよ。世界の皆さんよろしくお願いします」という旗をしっかり見えるところに立てる仕事をしなければならない。例えそれが、ポーズだけだったとしても先進国の一員だから、その責任から逃げるわけにはいかない。
石炭火力発電の廃止時期は明示せず
ロシアのウクライナ侵攻に端を発する、天然ガスや原油といった化石エネルギーの世界的な高騰と不安定な世界情勢。それを踏まえて気候・エネルギー問題は、広島サミットの主要議題の一つになることは間違いない。
札幌でのG7環境大臣会合では、西村康稔経産大臣が「共同声明には、各国のエネルギー事情、産業・社会構造、および地理的条件に応じた多様な道筋を認識するという日本の希望が、しっかり明記された」と強調した。
つまり、温暖化ガスを多く排出する石炭火力発電の依存度の高いアジアの状況(もちろん日本も)を考慮しつつ、石炭火力発電の廃止時期の明示を見送った。欧州の国々が求めてきた要求をここは頑張って突っぱねた格好となった。
また、日本が先端的な技術を持つ石炭火力のアンモニア混焼を積極的に行っていけば、今は完全に“悪者扱い”の石炭火力発電の有効性をも世界にアピールできるかもしれないという思惑もある。
日本の可能性「アンモニア」と「ハイブリッド車」
アンモニア混焼とは、アンモニアを石炭に混ぜ燃やすことであり、温暖化ガスの排出を抑えることが可能になる。資源エネルギー庁の試算では、国内の大手電力会社が現在保有するすべての石炭火力発電所でアンモニア20%混焼を行えば、CO2排出削減量は約4000万トンになる。
実際、声明に「アンモニア利用の可能性」についても明記し、天然ガスなどの化石燃料について“段階的に廃止”とした点は、覚えておいても損ではないだろう。
もう一つ大きいのは、自動車分野。EV(電気自動車)の導入目標を定めるのではなく、ハイブリッド車も含めた幅広い範囲の車で脱炭素を目指すとした点。脱炭素の進捗(しんちょく)を毎年確認しながらEV導入を進めていくと日本のお家芸、ハイブリッド車に未来を残した。
G7環境大臣会合の報道だけを見ると、日本が欧州の注文に防戦したとか、言い分を通したという記事も目立った。しかし、それは本当なのか。
ドイツでは再エネ活用が停滞、脱原発にブレーキ
経済界の重鎮らと話していて「日本の脱炭素は、行き過ぎでは」とか「環境保全という音頭で、欧州や米国のための利益に振り回されすぎ」という本音も聞こえる。
実際に欧州であれだけ地球温暖化への防波堤として脱炭素が叫ばれたのに、ロシアのウクライナ侵攻で天然ガスが高騰・品薄になると、ドイツは逆の方向に向かいつつある。
ドイツは電力のほぼ半分を再生可能エネルギーで賄っている。しかし、ロシアからの天然ガスが止まったため、液化天然ガスをこれまでよりも多く輸入。加えて石炭火力発電もこれまでより多く動かすことになってしまったのだ。結果、再生可能エネルギーの割合は停滞し、温暖化ガスの排出量は逆に増えた。
この自己矛盾に、脱原発に舵を切ったはずのドイツでは、原発の必要性が再び議論され始めている。4月15日にはドイツで最後の3原発(イザール2、エムスラント、ネッカーヴェストハイム2)が運転を停止した。反原発派が勝利を祝う中、閉鎖反対の人々もデモ行進したのだが、反原発派の中にも、一時的に原発再稼働支持にまわる人が目立ったという。
エネルギーを買える国と買えない国の格差
また、フランスは、アメリカに次ぐ原発大国だ。56基を保有し、昨年2月には2050年までに国内に少なくとも6基を新設。別に8基の建設検討も始まっている。理由は再生可能エネルギーのコスト高。太陽光発電導入量を見ても(国際エネルギー機関・IEA 2021年統計)1位は中国、日本は4位。フランスは10位だ。
友人のフランス人に聞くと、ハイブリッド車もEV車も中古車で、高く売れないから買いたくないと答える。
太陽光パネルも日本ほどには普及していない。理由はわざわざ高い太陽光パネルを設置しなくても原発があるというもの。実はプーチン大統領が火をつけたもう一つの戦争と言えるエネルギー戦争は、各国間に深刻な溝も生み出している。
その一つがエネルギーを買える国と買えない国の格差。化石エネルギーに代表される、資源やエネルギーを持つ国と持たない国の格差だ。日本はまさに資源小国、9割を輸入に依存している。だからこそエネルギーの確保は重大なのだ。過去のオイルショックやトイレットペーパー買い付け騒動が、再び起きてもなんらおかしくない。
目標が高すぎても「やめます」とは言えない
話を少し巻き戻す。
先のG7環境大臣会合の共同声明には、2019年比で温室効果ガスについては、2030年までに40%削減、また2035年までに60%削減が謳われた。自動車の二酸化炭素排出は2000年比で2035年までに半減することを目標とした。洋上風力発電は2021年比で2030年までに約7倍にするという。
この目標、こうやって読んでいる分には「ふーん」という感じだが、いざ実行するとなると今の日本にも世界にも、相当にハードルが高い気がする。しかし、地球温暖化ストップという大号令が、世界のルールなのだとしたら守らなければならない。ましてや今回は議長国。「もうやめます」とは、決して言えない。
資源と地球の有限性に注目した「成長の限界」
1972年に「成長の限界」という報告書が発表された。スイスのヴィンタートゥールに本部を置く民間のシンクタンク「ローマクラブ」が第1回の報告書としてまとめ、世界的に注目を集めた。
それによれば、資源と地球の有限性に着目し、人口増加や環境汚染などの世界の傾向が、もしこのまま続くとするならば、100年以内に人口爆発を引き起こし、資源も枯渇。地球上のさまざまな成長は、限界に達するだろうと警鐘を鳴らしており、世界に危機感が広がった。しかし、世界はその後どうか。まだ100年はたっていないが、なんとか均衡を保ち限界には至っていない。
「成長の限界」は日本でも大ブームとなり、当時、さまざまな検証と問題提起が行われた。賛否両論あったが、私は地球の有限性については、指摘の通りだと考える。しかし、まだ地球を食いつぶすという危機的状況ではないことも正しい。
欧州や米国は、この「成長の限界」の提言をベースとして、その後、「地球限界論」は、広く環境問題の主柱となっていった。1997年には、京都で気候変動枠組条約・第三回締約国会議(COP3)が開催され、皆さんの記憶に残る京都議定書が決まった。
先進国の原理であり、発展途上国は置き去り
しかし、「成長の限界」に指摘された、資源の有限性が成長を制約するという考察は、結局のところ、まだそうなっていない。
省エネのエンジンや自動車の開発、新型の火力発電所、化石燃料の消費の少ない工場など新しいテクノロジーが開発され、この数年間、世界の原油消費量そのものの消費は下がった。また、原油や化石燃料が枯渇するだろうといわれたのに、シェールガスが開発され、地球全体の化石燃料の総量は増えるという皮肉な結果となっている。
そのうち、「成長の限界」の指摘した状況は訪れるとは思うが、それはまだ遠い未来。また、先進国の論理である「成長の限界」論から言えば、発展途上国の進化や成長は、置き去りとなっている。まったくもって発展途上国に失礼な話だ。
この事例がそのまま、脱炭素の構図だと短絡的に断言する気はないが、欧州のものの考え方のベースを感じる。
脱炭素を自国ファーストのために利用する欧州
つまり簡単に言うと、欧州は、欧州の論理とルールで、彼らにとって最も有利になるようにものごとを進めようと企てているように思えてならないのだ。
ハイブリッド車技術が日本だけのものになるのが怖くて、自分たちが得意なEVへの転換を日本に強制する。また、日本は欧州や北欧ほど風が吹かないのに、風力発電や洋上発電のプラントと風車のブレードを買うよう押し付ける――。
それこそが外交の駆け引きであり、したたかさ。脱炭素の正体でもあり、そして欧州の欺瞞(ぎまん)と言えるのではないだろうか。脱炭素を利用した自国ファースト。これに負けない強い意思と戦略を日本はしっかりと持つべきだろう。
日本が真の競争力を手に入れられるかの正念場
日本が勝ったとか負けたというよりも、この議論の中心に立ち、脱炭素の世界的なルール作りのイニシアチブをとっていく。それこそが日本の進む道、産業と国益を守ることだと考える。
一つ大切な事に着目してほしい。議長国だけが、共同声明の案文を作ることができる。「脱炭素については、われわれはこれでやっていくのだ」と先進国の進むべきこれからの道を、日本自らが、広島サミットで世界に示せる。
岸田首相には、日本の強みをしっかりと見据え、G7環境大臣会合の共同声明を下敷きに、メインステージの広島で必ずや議論を深化させてほしい。
日本が、脱炭素で巻き返せるか。世界的な真の産業競争力を手に入れられるかどうか。ここが、日本のエネルギーの正念場だ。
---------- 結城 豊弘(ゆうき・とよひろ) テレビプロデューサー 1962年鳥取県境港市生まれ。駒澤大学法学部卒業。元読売テレビ報道局兼制作局チーフプロデューサー。「そこまで言って委員会NP」「ウェークアップ!ぷらす」「情報ライブミヤネ屋」の取材・番組制作を担当した。現在はBSテレビ東京「石川和男の危機のカナリア」の総合演出や、プロデューサーとして各局の番組制作を続ける。その他、鳥取大学医学部付属病院特別顧問と境港観光協会会長を務める。合同会社ANOSA CEO 。著書に『オオサカ、大逆転!』(ビジネス社)、『吉村洋文の言葉101』(ワニブックス)、共著に『“安倍後"を襲う日本という病』(ビジネス社)がある。 ----------