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安倍総理の志は死なない!!

600億のムダな公共事業を削減したら「殺すぞ」と殺害予告され……泉房穂前明石市長が明かす「市役所という伏魔殿」


閉塞しきった日本の政治を、たった一人で変えた市長の「闘いの記録」――。議会、政党、宗教団体、市役所職員、マスコミ――周囲は敵だらけの四面楚歌、権力闘争に勝ち抜く「秘策」を著した『政治はケンカだ! 明石市長の12年』。市長在任中にはけっして口に出来なかった、改革に抵抗する勢力との闘いの内幕が明らかに。聞き手を『朝日新聞政治部』の著者で気鋭の政治ジャーナリスト・鮫島浩氏が務めている。泉氏がいかに闘争してきたか、同書から抜粋してお届けする。


連載『政治はケンカだ!』第6回前編


「お上至上主義」「横並び主義」「前例主義」
鮫島 泉さんが市長に就任した当初、明石市役所の職員たちの反応はどうでしたか?
泉 半端じゃなく大変でしたよ。職員で投票用紙に私の名前を書いた人なんて、ほぼいませんでしたから。シーンと静まり返っていて、みんな腫れ物に触るような感じで。


部長クラスが30人ほど集まる最初の懇親会で、乾杯の音頭を取った市役所の幹部が「みんなー、市長が誰であれ、気にせず頑張ろう! かんぱーい!」とか言いだして。私が真横にいるのに、ですよ。もう、ビックリしちゃった。すごいとこ来ちゃったなと。


鮫島 泉さんが黙ってたとは思えませんが(笑)。


泉 さすがに最初は黙って見てました。「そこまでやるか」って。


鮫島 そんな状態で、どんなふうに仕事を始めたのでしょうか。


泉 とにかく最初は、何をやろうとしても「できません」のオンパレードでした。平気でウソつくし。まあ、ウソというか凝り固まった思い込みなんですけどね。


彼らの思い込みは、基本的に3パターンに分類できます。まずは「国の言う通りのことをしなきゃいけない」という思い込み。国が言ってないことは禁止されてると思っている。「お上至上主義」ですね。それから「隣の市ではやっていません」も彼らの常套句。今でこそ明石市が「全国初」となる施策が増えましたが、基本的に役人は他の自治体がやってないことはやったらいけないと思っている。「横並び主義」です。3つ目は「前例主義」。何か変えようとすると、すぐに血相を変えて飛んできて「これまで20年、このやり方でやってきました。変える必要ありません」と言う。そのたびに「時代は変わってるのに、何を20年間同じこと繰り返してんねん」と思いました。


市役所というのは、この3つをほぼ全員が確信的に信じ込んでしまっている組織で、一種の宗教に近い。


鮫島 そこに利権が絡んでいる、というわけでもないんですか?


泉 ええ、そういう話とは別に、彼らの行動原理は宗教だと考えるとわかりやすい。役所の人たちはみな、「お上至上主義」「横並び主義」「前例主義」を教義とする宗教の信者なんです。その教義を守り通すことが、公務員の務めだと純粋に信じていて、ある意味、生真面目なんです。


それで、4年に一度の選挙で、たまに変な奴が市長になることもあるけど、市役所という組織は守り通さないといけないと。今の杉並区とかもそんな状況だと思いますよ。想定してなかった市長がくると、完全なお飾りに祭り上げて、役所組織自体は副市長以下で回そうとする。そういう組織の防衛本能がものすごく働くところなんです。


無駄な予算にハンコを押さないと決めた
鮫島 結果的に12年間の任期中に、子ども施策に代表される明石市独自の政策を実現してきたわけですが、どうやって職員のマインドコントロールを解いたのでしょうか。だいたい他の市長さんはそこでつまずくと思うのですが。


泉 市長の仕事は大きく分けると三つです。一つ目は「方針決定」で、どの山を登るか大きな方針を決める。二つ目は「人事権」。実際に誰に山を登ってもらうか、決めるということですね。三つ目は「予算編成権」で、その登山にトータルいくら費やすか、ということです。私なりに、もう一つ上げるとするなら、市民への「広報活動」も市長の役目かな。市民とコミュニケーションを取る場所を作ることもできますから、そこで市民の代表としての市長の取り組みを理解してもらうことが大事だと考えていました。


方針とカネとヒトを触れるのが、市長の権限です。当たり前の話ですよね。だけど、実質的には世の中の市長に、この三つの権限はありません。方針決定したくても、カネとヒトが決められなければ、実行に移せない。この三つが揃ってないと何もできないも同然。だからこそ、私は1年目からそこに手を入れ始めました。


私の場合、1年目は予算の削減と、一部の人事にも手を入れました。そこからスタートして、2年目くらいから幹部クラスの人事にも手を出して、3年目から、ようやく自分発信の予算を付けられるようになった。


周りが全員敵で「四面楚歌」状態だろうが、市長にできることはある。非常にシンプルです。回ってきた無駄な予算にハンコを押さない!


鮫島 いわゆる拒否権ってやつですね。上がってきた予算を認めない、と。


泉 ええ。これは国も同じなのですが、予算っていうのは基本的に積み上げ方式になっています。明石市でいうと、まず所管の課で予算を固める。それが部に上がり部長が決裁し、部長決裁が集まってくると全体で調整して、最後に市長のところに回ってくる。おそらく全国すべての自治体で、このように予算が決まっているはずです。市長の手元に予算が回ってくる時には、いやぁ~な空気が漂っています。


鮫島 「黙ってハンコ押しなさい」と?


泉 何とも言えない空気感でねぇ。この予算編成のあり方をどうやって変えていくかということに、長年苦労しました。私が新たに予算を組み換えるようになるまで、相当時間がかかりましたが、拒否権を行使して予算を切ることはすぐにできました。


100年に一度の水害に備えて600億円
鮫島 具体的に、どんな予算にハンコを押さなかったのですか?


泉 市長になってすぐに、公営住宅の建設を全面的に中止させました。「市長、計画はもうすでに決まっていることですから」と担当はパニックになってましたが、「そんなこと知らんがな」と突っぱねた。


明石市はすでに市営住宅が十分あるし、県営住宅もやたらと多い。人口に比べて、明らかに公営住宅が余っている。なぜさらに増設する必要があるのか、納得のいく説明はありませんでした。当時、空き家バンクなんかも始まっていたから、そういった民間事業に助成したりしながら、すでにある公営住宅を上手く活用したらいいじゃないかと。それで十分間に合う状況だったのです。


あの時の反発はすごかったですけど、「決まったこと」と言われても、予算を決めるのは私ですからね。そんな無駄にお金を回すわけにはいかないので、ゼロにしました。


それから、下水道工事。20年間で600億円費やして下水道を太くする大プロジェクトが決まっていたんですけど、「600億って大きな額やな」と思い、担当を呼んで詳しく聞かせてもらった。担当は「浸水対策のために必要だ」と言うんですが、どんなリスクがあるのか詳細を聞くと「床上浸水してしまうリスクがある」と。「人は死ぬんか?」と聞いたら「人は死なない」と言う。それで、どのくらいの頻度で床上浸水する可能性があるのか聞いたら、


「100年に一回」。しかも、対象となる世帯はたった10世帯。


「ちょっと待て」となりますよね。


100年に一度の10世帯のために、600億円かける意味がどこにあるのかと。私の政治信念は「誰一人見捨てない」ですが、この話はそれには当てはまらない。たとえば10世帯分の家を作って、対象世帯に移ってもらう。それが難しければ、その10軒の周辺の下水道をピンポイントで重点化して対策を講じれば、もっと予算削減できるだろうと。それで、600億円の下水道事業を150億円まで削りました。


市長がハンコを押さなければ、できる話なんです。市長が「無駄だ。やらない」と腹を括れば、その瞬間に450億円浮く。


鮫島 市長の決断はそれほど大きい。


泉 もともと権限はあるわけですから、覚悟を決めさえすればできます。ただ、下水道事業を大幅に削減した時に、私の自宅ポストには「殺すぞ」とか「天誅下る」と殺害予告が入ってました。そりゃ、450億円分の大仕事が吹き飛ぶわけですから、当然怒る人は出てくるでしょう。「次の選挙で〇〇の工事を約束しろ」と書かれた紙が回ってくることもありました。まあ、裏で工事を回してくれという話ですわね。


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