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安倍総理の志は死なない!!

「政治とカネ」の問題が国を滅ぼす 中国正史「姦臣伝」から学ぶ金権政治の行き着く先

 国民の政治不信に拍車がかかっている。12月中旬に新聞各紙などが実施した世論調査によると、岸田政権の支持率は概ね20%台と発足後最低水準のまま。自民党支持率もほぼ20%台後半まで低下している。支持率が低い最も大きな要因とされるのが、自民党最大派閥・安倍派を中心に取り沙汰される政治資金の“裏金化”疑惑だ。「政治とカネ」の問題はこれまで何度も時の首相や政権を窮地に追い込み、国会ではその度に「適正化」や「透明化」が叫ばれているが、一向に果たされる気配がない。


松野官房長官を含む安倍派4閣僚が事実上の更迭となった


 多数決が原則の国会では数が力であり、その源は「カネ」である──そのように蔓延する悪しき風潮を「金権政治」と呼んで久しい。だが、近年も現職国会議員が収賄などの罪で逮捕されるなど、令和となった現在も脱しきれていないのは事実だ。ここまで積み重なった「政治不信」は、岸田首相の退陣や選挙による政権交代だけでは拭えない恐れすらある。歴史作家の島崎晋氏が、金権政治がやがて「亡国」につながっていく歴史を紐解く。


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「パー券キックバック」「裏金疑惑」など、あらわでお粗末な金権政治の実態が、ほぼ毎日のように大きく報じられている。「この国の政治家はいったいどうなってしまったのか」と心配になるが、おかしいのは政治家だけではない。


 政治家に諫言すべき立場の経団連会長・十倉雅和氏まで、自民党への政治献金を社会貢献と位置づけ、「何が問題なのか」と開き直る始末。そもそも十倉氏は「消費増税せよ」「岸田政権の支持率が上がらないのが不思議」などと、国民感情を逆撫でする発言を重ねてきた人物でもある。政界と財界のトップに国民の声を「聴く力」どころか、聴く気さえない時代が到来してしまったのか。


 いわゆる金権政治とは、政治家や役人による賄賂の取得に限らず、政治家などの肩書を金儲けの手段として用いる風潮をも指すと考えてよいだろう。政治家以外が自らの「カネの力」を政治権力にすり替えることも当てはまるかもしれない。そうした金権政治の蔓延は、人心の離反と荒廃につながり、政治への不信が積もり積もれば、行き着く先は亡国である。


 古今東西、「金権政治」による腐敗が国を滅ぼした例は枚挙にいとまがない。なかでも「貪官汚吏(たんかんおり)」という常套句まである中国の歴史は不正の規模が尋常でなかった。


「貪官汚吏」とは、本来は貪欲な高級官僚と汚職を働く下級官吏(役人)を指すが、そこから転じて、腐敗した官僚組織全体を指す言葉となった。現在の日本では政治家と役人は別物だが、中国史における政治家と言えば、出世して、皇帝の前に出られるようになった役人を言う。


中国正史「姦臣伝」の教訓
 北宋(960〜1127)以降、皇帝への権力集中が強化されたことから、政務に熱心でない皇帝の治世では、それを良いことに、専制や極端な金儲けに走る重臣が少なからず現われた。中国の正史(国家から正当と認められた歴史書)には「姦臣伝」という項目があり、現在のわれわれでも、容易にその具体例を見つけることができる。ここでは北宋の蔡京(1047〜1126)を取り上げてみたい。


 蔡京は北宋7代目の哲宗(在位1085〜1100)と8代目の徽宗(在位1100〜1125)に宰相として仕えた人物。『三国志演義』『西遊記』『金瓶梅』と並ぶ中国四大奇書の一つ『水滸伝』では、「四姦」という四大悪役の一人として描かれている。


 物語中の悪事の大半は虚構だが、蔡京とその一味が贅沢きわまる生活を送っていたことは事実だった。最大の財源は賄賂だが、それ以外にも給与の不正受給や塩の専売商人に手形の二重購入を強制したり、貨幣の悪鋳により生じた差額の利鞘を懐に入れるなど、彼らの欲は金銭の匂いのするあらゆる場所に及んだ。


 蔡京とその一味は散財も激しく、その影響で都の開封に好景気がもたらされるが、それは束の間に終わる。彼らの一連の不正は、中長期的には国家財政の首を絞める行為になった。国家財政はガタガタ、民心も朝廷から離れた状況では国防体制にほころびが生じるのも無理はない。ツングース系の女真(ジュシェン)族からなる金軍に城下まで迫られると、屈辱的な和議に応じるしかなかった。


 徽宗が責任を取る形で子の欽宗(在位1125〜1127)に譲位すると、蔡京とその一味にも終わりがきた。官位剥奪とそれぞれ別地方への追放蟄居が命じられたのである。追って処刑人が派遣され、蔡京の子息や兄弟および一味の者は一人残らず、指定の地に到着するより前に斬首された。


 肝心の蔡京は配流先を次々と変更され、最終的には南シナ海に浮かぶ海南島へ行くよう命じられるが、80歳の老人に囚人としての長旅は拷問に近く、たどり着く前に絶命した。


金権政治の共犯は
 欽宗は蔡京一派の粛清を手始めに、国防体制の再構築を図る腹積もりだったようだが、時すでに遅く、蔡京の死から2年後、都の開封が金軍によって陥落。徽宗・欽宗以下、宮廷の人間3000人が北方に拉致されたことで、960年に始まる北宋時代は終わりを告げた。


 因果応報とは、まさしくこのような例を言うのだろう。それならば、日本で現在進行中の問題はどのような結末を迎えるだろうか。


 今年10月31日、世界最大規模の世論調査会社イプソスが世界31か国2万2816人を対象に実施した「職業信頼調査2023」の結果を公表した。それによれば、最も信頼を得られていない職業は、世界でも日本でも「政治家」だった。日本の場合、ワースト2に「政府の閣僚」がきている。


 このような調査結果を見ても、国民の声に背を向けてきた政治家には何も響かないのだろう。しかしわれわれは、金権政治の確信犯が再選されれば、その政治家に投票した有権者も共犯になることを肝に銘じなければならない。それが民主主義国家のルールである。


【プロフィール】


島崎晋(しまざき・すすむ)/1963年、東京生まれ。歴史作家。立教大学文学部史学科卒。旅行代理店勤務、歴史雑誌の編集を経て現在は作家として活動している。『ざんねんな日本史』、『いっきにわかる! 世界史のミカタ』など著書多数。近刊に『featuring満州アヘンスクワッド 昔々アヘンでできたクレイジィな国がありました』(共著)、『イッキにわかる!国際情勢 もし世界が193人の学校だったら』などがある。