Shinzo-Returns

安倍総理の志は死なない!!

アメリカの「最大の脅威」は中国かロシアか…激変する世界を深く読み解く「地政学の視点」

なぜ戦争が起きるのか? 地理的条件は世界をどう動かしてきたのか?


「そもそも」「なぜ」から根本的に問いなおす地政学の入門書『戦争の地政学』が重版を重ね、5刷のロングセラーになっている。


地政学の視点から「戦争の構造」を深く読み解いてわかることとは?


冷戦の終焉とその後の世界
冷戦の終焉は、英米系地政学の視点から言えば、シー・パワー連合の封じ込めが成功しすぎて、ランド・パワーの陣営が崩れていってしまった現象だということになる。


大陸系地政学から見ても、いずれにせよソ連/ロシアが自国を覇権国とする生存圏/勢力圏/広域圏のような圏域の管理に失敗して自壊したことによって生じた事態であった。


フランシス・フクヤマが洞察した「自由民主主義の勝利」である「歴史の終わり」としての冷戦の終焉は、シー・パワー連合の封じ込め政策が完全な勝利を収めてしまった状態のことを、理念面に着目した言い方で表現したものだったということになる。
これに対して、冷戦終焉後の世界においてもなお大陸系地政学の視点を対比させようとするならば、サミュエル・ハンチントンの「文明の衝突」の世界観に行きつくだろう。圏域を基盤にした世界的対立の構図は残存する、という主張である。


一方では、「自由民主主義の勝利」が、自由主義の思潮の普遍化や、自由貿易のグローバル化を背景にして、圏域に根差した思想の封じ込めを図る。この傾向は、冷戦終焉後に、ある面では強まった。


しかし、他方では、「歴史の終わり」としての「自由民主主義の勝利」の時代であればこそ、「文明」のような人間のアイデンティティの紐帯を強調する動きも生まれやすくなるかもしれない。


グローバル化と呼ばれる普遍主義の運動が強まれば強まるほど、それに反発する動きも顕著になるかもしれない。そこでシー・パワー連合のグローバル化に対抗し、圏域思想の側が「文明の衝突」を助長する。


冷戦終焉後の世界は、「自由民主主義の勝利」と「文明の衝突」が絡み合い、やがて二つの異なる地政学の対立にも引火していく構図の時代であった。


ソ連の崩壊と英米系地政学が直面した課題
ソ連を盟主とした共産主義陣営の崩壊によって、シー・パワー連合としての自由主義陣営は、冷戦時代の封じ込め政策の目的を達してしまったかのようであった。


マッキンダー地政学にしたがえば、ハートランド国家が拡張主義政策をとり、それに対してシー・パワー連合が封じ込め政策をとることによって、「歴史の地理的回転軸」が動いていく。


もしハートランドが拡張を止め、むしろ縮小するなら、「歴史の地理的回転軸」が止まった状態だ。マッキンダー理論では、これでは歴史が動かない。


冷戦の終焉という「歴史の終わり」としての「自由民主主義の勝利」は、マッキンダー地政学の理論からも語れることであった。


1990年代初頭の世界では、「新世界秩序」といった言葉が多用された。アメリカ一国の覇権、活発化する国連を中心にした世界、国境を越えて進展するグローバル経済、といった「自由民主主義の勝利」のイメージを表現するための言説も多かった。冷戦終焉直後の1990年代は、地政学への問題関心が著しく低下していた時期であった。


2001年に「9.11テロ」が起こると、当時のジョージ・W・ブッシュ大統領は、「我々の側か、我々の反対側か」という二者択一を迫るブッシュ・ドクトリンと呼ばれるようになる立場を鮮明にする。


この単独主義とも称されたアメリカの唯一の超大国としての圧倒的な力を背景にした政策は、モンロー・ドクトリン以来のアメリカの外交政策が、ある種の頂点に達したものだったと言える。


ブッシュ・ドクトリンにおける善と悪の二元論的世界観は、伝統的なモンロー・ドクトリンにおける神の恩寵を受けた共和主義諸国の「新世界」と汚れた絶対主義王政諸国の「旧世界」の二元論を彷彿させた。


再び台頭する二元論的世界観
冷戦期のトルーマン・ドクトリンでは、自由主義陣営と、共産主義陣営の二元論で、表現されていた。アメリカは自国の安全保障政策の関心対象である集団防衛の領域を、常に二元論的世界観にそって決定してきた。


「対テロ戦争」の時代のブッシュ・ドクトリンでは、遂にこの二元論的世界観が、国際社会そのものと、非領域的に存在するテロ組織及びその支援者の間の分断となった。領域性のある政治アクターは、基本的に国際社会の側に立ち、国際社会に反した勢力は非領域的なものとして存在していることになった。


実際には、2003年のアメリカによるイラク侵攻は、同盟国を含めた諸国の反発を招いた。その後の占領統治の困難もあり、国際社会全体とテロリストとの闘いとしての対テロ戦争の構図は、頓挫していった。そしてアメリカでも、オバマ大統領の多国間協調主義と、トランプ大統領のアメリカ第一主義が登場してくることになる。


ただし、バイデン大統領の「民主主義諸国vs権威主義諸国」の世界観は、伝統的な二元論的世界観に通じるものだ。


超大国化した中国との競争関係の明確化、ウクライナに侵攻したロシアとの敵対姿勢などから、「民主主義諸国vs権威主義諸国」の構図に沿って、大きく国際政治が動いてきている面もある。


冷戦時代の自由主義陣営と共産主義陣営の対立の場合のような明確な線引きが「民主主義諸国vs権威主義諸国」の間に存在しているわけではない一方で、国家の間の対立が強まってきている現象もはっきりしてきている。


このような萌芽的あるいは過渡期の状況の中で、地政学理論への関心が復活してきているのが現代である。


ただし、「シー・パワー」にとっての最大の脅威が中国になったと言えるのか、グループ化した中国とロシアが脅威ということなのか、引き続きロシアが差し迫った明白な脅威だと言うべきなのか、視点が定まらずに議論が拡散している面もある。